ポルポト被害者 vs. 加害者ドキュメンタリー映画 『S21: クメール・ルージュの殺人マシーン』

画像 本作品は山形国際ドキュメンタリー映画祭でも上映された、衝撃的なドキュメンタリー映画。クメールルージュが崩壊した現在、S21と言われた強制収容所からの生還者(被害者)と、当時S21に働いていた兵士(加害者)が、今になって、当時お互いに何を考えていたのかを直接話し合うという、極めて希有な状況を映画化したもの。現在国内上映権は山形国際ドキュメンタリー映画祭実行委員会が持ち、自主上映の形で国内でも時々上映されているが、国内盤DVDは出ていないので、自宅で見たい場合は海外盤が必須だ。
 なお、ちょうど昨年よりポルポトの蛮行を裁く国際裁判が現在進行中だ。

 S21とは、カンボジア、プノンペン近郊のトゥオル・スレンにあった強制収容所。現在は強制収容所記念館として残されている。ここではクメール・ルージュ政権下、各地から集めてこられた「反革命分子」を集めて、尋問し、自白させ、調書を作成し、それが終わると処刑していた。
 歴史的には、同様なものとして、ナチスドイツの強制収容所が思い起こされるが、S21の生存者比率はナチの強制収容所に比べて遥かに少なく、この収容所に収容されて生き残った者は、文字通りごく一握りしかおらず、一度収容されれば文字通り生きて帰ることの出来ない、恐怖の強制収容所だった。
 クメール・ルージュにはS21以外に、ション・エク、タケオ等にも収容所があったが、S21こそカンボジア最大で、他の強制収容所を統括する位置づけにもあった。

 「反革命」に問われた捕虜たちの大半は無実であり、拷問により自白がでっち上げられ、死に追い込まれた。大概は、何らかの者が一旦逮捕されると、この収容所に送られ、4、50名の「反革命分子」の自白を強要され、一旦、事実かどうかに拘わらず「自白」すると、その名前が挙がった者が更に逮捕され、さらに逮捕された者一人当たりまた、4,50名の自白を強要され... という形で逮捕者が膨れあがり、その大半が刑場の露と消えたのであった。
 一方、収容所を管理していた者の大半は10代の少年兵。中には、ロン・ノル政権への反発からクメール・ルージュによる革命に自ら志願した者もいたが、多くは、訳も分からず、兵隊に志願し(or させられ)、訓練を受け、この収容所に配備されたのであった。そして監視する側でさえ、少なくない比率の少年兵たちが粛正されていた。処刑する側も、処刑される側も恐怖によって支配された生き地獄の図であった。
 しかし、その分、処刑した少年兵の側には、むしろ自分たちはクメール・ルージュによる被害者だという意識が強く、その分加害者意識が弱い。例えば、元少年兵たちは、自分たちが第1の被害者で、処刑された人々(自分たちが処刑した人)は第2の被害者だと言う。
 そのことが、被害者と加害者との対話によって明らかになっていく。また加害者側は、オンカー(共産党)の命令だった、仕方なかった、というエクスキューズを繰り返し、自らの良心に問いかけて、自らの行いを熟考するというプロセスの欠落と思考停止が明らかになり、それが被害者側にとってみれば、やるせなさを倍加させる、という状況も明らかになる。それだけではなく、自分たちが行った殺人を、悪びれもせず淡々と語っていく元兵士たちに、現在のカンボジアの首相が元クメール・ルージュの幹部であるフン・センであることを考え合わせると、未だに、背筋の寒くなるような思いを禁じ得ない。

 本作品が提起するものは、単にクメール・ルージュの犯罪の問題のみならず、広く戦争加害者と被害者との関係に関する普遍的な問題だと言えよう。

 リティ・パン監督は、1964年、プノンペン出身で現在フランスに在住。1975年にクメール・ルージュにより、矯正収容所に収容され、1979年、タイに脱出。1980年パリに到着し、国立映画学院で学ぶ。主にカンボジアに関するドキュメンタリーを制作し続け、国際的に高い評価を得ている。

原題『S21, la machine de mort Khmère rouge』英題『S21: Kumer Rouge Killing Machine』監督:Rithy Panh
2002年 カンボジア=フランス映画

山形国際ドキュメンタリー映画祭『S21: クメール・ルージュの虐殺者たち』紹介
http://www.yidff.jp/2003/cat015/03c027.html

DVD(アメリカ盤)情報
発行:First Run Features 画面: NTSC/4:3(1:1.33) 音声: Dolby2 クメール語 本編: 101分
リージョンALL字幕: 英語(On/Off不可) 片面一層 発行年2005年5月 希望価格 $29.95

リティ・パン Wikipedia英語版
http://en.wikipedia.org/wiki/Rithy_Panh





S21 クメール・ルージュの虐殺者たち@ぴあ映画生活

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この記事へのコメント

少年兵に罪はない
2017年06月05日 00:11
カンボジアのポルポト政権下の少年兵は被害者ではないが無罪
なぜか?ヒトラーユーゲントも国民突撃隊も被害者ではないが無罪だからだ
それを犯罪者のように扱うということは児童虐待をされた子どもを犯罪者扱いすることと同じ
そいつらは小児性愛者やそこらへんの犯罪者より危ない
2017年07月21日 22:57
ヒトラーユーゲントや国民突撃隊が無罪なのは未成年だから無罪というよりも、一般日本兵の戦闘行動を行ったことで直ちに有罪になる訳ではないのと同じだからでしょう。

論理が短絡しています。

むしろポルポトの少年兵の問題は光市母子殺害事件の未成年の犯人を刑事罰に処すべきかどうか、という問題と似ています。



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