ディアオ・イーナン監督『夜車 - Train de Nuit』中国映画

画像 日本の出資に支えられて撮っているジャ・ジャンクー監督に次ぐ中国映画の次世代旗手として注目されているらしいディアオ・イーナン監督。その2007年カンヌ国際映画祭での注目作(「ある視点」部門出品作)が本作『夜車 - Train de Nuit』(夜行列車)。

 ウー・ホンヤンは中国陜西省の裁判所に勤める女性。中国の裁判所は日本の裁判所と拘置所の機能を併せ持っているようで、裁判の進行のみならず死刑の執行も行っている。彼女は夫に先立たれ再婚者用のお見合いパーティーに参加するために毎週末夜行列車に乗り遠方まででかけるが、なかなか気に入る男性と出会うことがない。
 そんなある日彼女はある女性の裁判に立ち会う。彼女、チャン・リンリンは都市に出て用心棒と契約して売春を始めたが、その用心棒に強姦されかかって彼を殺したという容疑で起訴されたのだ。ウー・ホンヤンはまたかという表情で、裁判手続きを粛々と進める。被告は全ての罪を認め、その次の公判ではあっさり死刑を宣告され、被告は思いもよらぬ判決に現場で失神する。そしてウー・ホンヤンが立ち会った彼女の処刑執行の当日、彼女は取り乱すが、そんなことをして何になるのと被告に冷酷に言い放つウー・ホンヤン。そしてあっさり銃殺刑に処せられた。その後チャン・リンリンの遺品と遺灰を持って、彼女の夫の働いている工場へ行き、上司に遺品を夫に渡すよう伝える。
 被告の夫、リー・ジュンは遺品を手渡された後、息子は妻の兄に引き取られた。そして彼自身も工場からダムの管理所に配置転換になる。しかし実は用心棒を殺したのは妻ではなかったのだ...
 ウー・ホンヤンは、また見合いパーティーで気に入る男に出会えなかった。しかし会場から出るとずっと彼女をつける妙な男がいた。実はその男はリー・ジュンであった...

 まず本作品に含まれているメッセージは、事務的かつ簡単に死刑が連発される中国法廷システムに対する強い批判である。命の重さに鈍感な社会システム全体への強い非難が伺われる。そして人の命が奪われることへの喪失感の描写。ウー・ホンヤンはリー・ジュンに出会うことで初めて法廷が命を簡単に奪うことの意味に初めて気づき、彼の喪失感を誰も穴埋めすることが出来ないのだと気付く。
 また死刑制度が決して犯罪の抑止に役立っていないことも描かれている。そもそもチャン・リンリンは自分がやったと自白した罪が死刑に相当するとの認識は全くない。だからこそ、自分が犯したのではない罪を自分がかぶることを承知したのである。もちろん裁判所に勤務するウー・ホンヤンにとってはそのことは常識なのだが。チャン・リンリンは死刑が宣告され、それが死刑に相当する罪だと認識するのだがすでに手遅れである。しかし、そもそも自分の犯すであろう罪が死刑に相当するものだという認識が欠落していれば、そもそもいくら死刑を連発してもそこに犯罪抑止効果を期待することはできない。こうして抑止効果無きまま、死刑が連発され毎日多くの人たちが刑場の露と消えていく中国の現状が淡々と描かれる。
 決して非難がましく声高に主張するわけではないが、描写が静かで淡々としている程、その重み、問題の大きさがじわりと伝えられてくるような映画である。

 本作品は売春や死刑執行などが扱われていることからおそらく中国当局の検閲は通されていないはずである。プロダクション会社は香港所在となっているようなので、中国国内では香港映画扱いとなっているものと思われる。しかし実際の製作・撮影は全て中国本土で行われている。

 なお、監督のディアオ・イーナンは1969年西安出身。1992年中央演劇学院卒業後脚本家として活躍。日本で公開された映画ではチャン・ヤン監督の『スパイシー・ラブスープ』『こころの湯』の脚本に参加。監督としては2003年『制服』を撮った後、本作が長編第2作1)。だがおそらく日本では余り認識されていないであろう。

 なお、本作品のDVDは現在のところ英語字幕付のものは出ていないようである。日本未公開作品。

1)以上はWikipedia英語版より。http://en.wikipedia.org/wiki/Diao_Yi%27nan

原題『夜車』 英題『Night Train』 監督:勺奕男(Diao Yi-nan)
2007年 中国=香港映画

DVD(France版)情報
販売: mk2 画面: PAL/16:9(1:1.77) 音声: Dolby5.1 中国語 本編: 92分
リージョン: 2 字幕: 仏語(On/Off可) 片面二層 2008年9月発行 希望価格 14.99 €

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