『流浪神狗人(神も人も犬も)』 - 台湾映画

画像 2007年、女流のチェン・シンイー監督による台湾映画。国内では2008年9月アジアフォーカス・福岡国際映画祭で『神も人も犬も』の題名で上映されたようだ。最近の台湾映画はチェン・ウェンダン監督の『深海 Blue Cha Cha』など人間の心理的な側面に焦点を当てた映画が多くなっている様に思われるが、本作品も人間の孤独に焦点を当てた作品になっている。

 本作では、3組の孤独に苛まれる人々が登場する。1組目は手のモデルであり、産後間もない青青(スー・ターシー)と設計士阿雄(張翰)の夫婦。嫁姑問題があることもあり、彼らは互いにしっくりいかず、夫婦の間は危機的な状況にある。青青は産後のマタニティブルーの状態にあり、子供に愛情を感じることが出来ないが、夫の阿雄は仕事が忙しく、妻を気遣う余裕がない。それだけではなく彼は妻から肉体的に拒絶されることに深く傷ついている。この不和から青青は子供と心中を図り、幼い子供を亡くしてしまう。さらに青青は仏教に信仰の厚い姑に当てつける様にキリスト教の洗礼を受けて、家の中にあった仏像を捨ててしまうのであった。
 2組目は台湾の先住民ブヌン族の家族。必勇(尤勞・尤幹)はトラックの運転手で妻と共に台東に住み台東と台北を往復している。彼はアルコール中毒でキリスト教会が主催する断酒会に加入してアルコール中毒から脱しようと苦しんでいる。彼の娘サヴィ(杜曉寒)は台北に漢族の娘と一緒に下宿し高校に通っている。彼女は格闘技「散打」の選手であるがアル中の父親を嫌っている。彼女の兄もかつて高校で「散打」の選手であったが競技に集中できず、卒業後父の代わりに働いて事故で亡くなったこともあり、父親が許せない。このような家族問題から彼女も競技に集中できないのだが、先生からは素質があるのだから大会で好成績を収めて、大学に推薦入学する様強く勧められている。彼女は援助交際をしている同居人のボディガード役を務めている。父にとっては娘から赦されることこそがアル中から脱する動機なのだが、幾ら頑張っても娘から赦しを貰えず、再び酒に手を出してしまったり、断酒会を主催するキリスト教に対する不信を露わにしたりする。
 3組目は片足がなく古くなった義足を新しく交換する様勧められて悩んでいる牛角(高捷)と台湾中をヒッチハイクして歩いている阿仙(張洋洋)。牛角はトラックに仏像を積んであちこちの寺やお祭りに行って展示して喜捨をもらって暮らしている(そういう商売が台湾で成立しているのかどうかよく分からないが)。また彼はあちらこちらで捨てられている仏像を拾ってきては、自宅に保管し、自分の様に手足が取れた仏像を修理してやる日々。そんな彼の元に長距離バスのトランク室に潜んで無賃乗車をしてあちこち放浪している阿仙がひょんなことから飛び込んできて、二人で仏像を乗せたトラックであちこち回り始める。
 そんな家族問題と孤独を抱えた3組の人々が犬を巡るある交通事故をきっかけに接近し、互いにちょっぴり生きる勇気をもらってまた彼らの日常に戻っていく...そんな映画である。

 題名の『流浪神狗人』居場所が見つからずに(あるいは仏教とキリスト教の狭間で揺れて)漂流する人、そして捨てられ、トラックに乗せられてあちらこちら流浪していく仏像、交通事故をきっかけに逃げ出す犬たち、そこから名付けられているのであろう。
 バックグラウンドにはおそらく貧困問題や家族問題が横たわっているのであろうが、あくまで現代の台湾の心象風景、彼らの抱える孤独という観点から、彼らが思わぬ事故をきっかけに互いに心を通わせ、少しばかり心を癒していく(といっても彼らが直面する問題が全面的に解決する訳ではないが)過程を淡々と描いていく、大雑把にくくれば「癒し系」映画と言える。このラストは一部韓国イ・チャンドン監督の『密陽』に通ずる部分があると思う。画像

 出演は、『深海 Blue Cha Cha』に引き続き心に問題を抱えた女性を演じる、スー・ターシー(蘇慧倫)、牛角にはホー・シャオシェン映画の常連、高捷、設計士役には最近人気の張震の兄、張翰、ブヌン族の家族には、実際に先住民である、尤勞・尤幹(ウーラン・ウーガン、『夢幻部落』にも出演)と杜曉寒、各地を放浪する少年阿仙にはエドワード・ヤンの遺作で『ヤンヤン 夏の思い出』のヤンヤン役の子役だった張洋洋がすっかり大きくなった姿を見せる。

 少数民族も含めた今日の台湾の心象風景をきちんと描き込んでいることが、この映画の最大の収穫なのではないだろうか。台湾に魅せられた方々、ホー・シャオシェンやツァイ・ミンリャンなどの台湾映画ファンにお勧めの一品だが、ミニマリズムの色彩が濃い映画なので視聴者を選ぶ。

原題『流浪神狗人』 英題『GOD man DOG』 監督:陳芯宜
2007年 台湾映画

DVD(台湾版)情報
販売: 魔石娯楽有限公司 画面: NTSC/4:3(LB)※ 音声: Dolby5.1/2・DTS 中国(北京)・閔南・ブヌン語 本編: 119分
リージョン3 字幕: 中/英 片面二層2枚組 2008年7月発行 希望価格NT$699
※DVDのケースにはスクリーンフォーマット16:9という表示があるが、実際はレターボックス収録。なお、DVDは本編のみの通常版も発売されたようだが、現在入手可能なのは特典盤付きの「珍蔵版」のみ。

公式サイト
http://www.wretch.cc/blog/godmandog328

アジアフォーカス・福岡国際映画祭
http://www.focus-on-asia.com/

VarietyのGOD man DOG評 (かなり酷評)
http://www.variety.com/index.asp?layout=festivals&jump=review&id=2478&reviewid=VE1117935018&cs=1

love HKFilmのGOD man DOG評(この映画のユニークさを好意的に評価)
http://www.lovehkfilm.com/panasia/god_man_dog.html

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