アメリカ映画『Wings of Defeat (邦題: 特攻 -TOKKO-)』

 日系米人リサ・モリモト監督が神風特攻隊への生き残り隊員たちにインタビューを行ったドキュメンタリー映画。原題の『Wings of Defeat』は「敗北の翼」という意味で、日本での公開邦題よりも原題の方がこの映画の内容を示すのにふさわしい。

 既に日本公開時にマスメディア等で話題になっているので、内容紹介は省略するが、特攻の生き残りということで日本人自身に向かってはなかなか自分の体験を話せなかった彼らが、日系米人である監督に向かって思いの丈をぶつけた貴重な記録であるとともに、特攻が決して美化されるべきではない、国家・政府による紛れもない殺人であったことをまざまざと示す作品でもある。

 この映画で明らかにされていることの一つは、元々特攻が発案されたのは、レイテ作戦において連合艦隊のレイテ湾突入を支援するために、航空機の投入を考えたが、当時フィリピン全土に日本の航空機はわずか30機程度しかない惨状でその中で生み出された苦肉の作戦であったこと、そして攻撃を発案した大西瀧次郎中将自身は、自殺攻撃が作戦としては外道の外道であることを十分承知の上で、このような外道の作戦をとらざるを得ない程追い詰められており、早く戦争を止めろというメッセージを込めていたという。
 そのため、他の作戦においては天皇の命令の下遂行されたが、神風だけは志願制度がとられた。しかし、この初回の神風攻撃作戦において誰も志願するものがおらず、やむを得ず当時フィリピン航空隊のエースであった関行男大尉に攻撃に行くよう半ば強制的に説得し、彼は「敵艦に損害を与え生きて帰ることのできる技術をもつ自分に死ねと命令する日本軍はもうおしまいだ」と憤りながら憤死したという。
 しかし、皮肉にもこの「外道の外道」であり、早く戦争を止めろとのメッセージが込められた作戦は国家により美化賞賛され、「聖戦」の無駄な続行に利用され、推定4000人にも上る犠牲者を出すことになった。

 学徒動員で出兵した隊員の証言では、彼らは英語ができ、さらに高性能無線装置を持っていたので大本営の発表する「赫々たる戦果」と米側発表の損害との大きな落差についてよく承知していたという。つまり神風攻撃の大半が大した戦果を上げられていないことがよく分かっていたのだ。
 Nさんと共に一旦は爆撃機に乗り国分から神風攻撃に出撃するが、目的地到着以前に敵機の攻撃に遭い、爆弾を放棄して這々の体で知覧に戻ったHさんは、同僚のEさんの証言では出撃時に日本酒を5合程一気に飲んで、飛行機に乗り込むや否やにこっと笑ったという、本当の「サムライ」だったという。彼は特攻に出る以前は敵機を70-80機撃墜した経験を持つベテラン戦闘機乗りだった。
 その彼は特攻に出た2/3程度はやっと編隊に追いつけるかどうか分からない程の未熟な新米パイロットだったと証言している。そして敵機に出会い逃げ帰った時のことを「命は惜しくなかったけど負けたくはなかった」と言っている。その言葉の裏に、やはり彼も関行男大尉と共にむざむざと死に赴かせられる事への抵抗があった様に思われる。
 さらに彼と共に出撃した予科練出身のNさんは、証言者の中でもっとも切々と正直に生への思いを語っている。彼は沖縄への出撃から生還した後、今度は本土決戦のために土浦(霞ヶ浦)に移り、本土決戦に備えた特攻訓練に明け暮れるという経験を持っている。
 その彼自身は、九州に異動になる時「とても勝てない、犬死にだ」と冷静に認識しており、いざ攻撃命令を受けたとき「アジャパー、これでおしまいだ。やりたいこともたくさんあったのに....」と内心思っていたという。
 攻撃が失敗して生還し土浦に引き上げた彼は、「もうたまらん、早く戦争を止めてくれ」と願ったという。そして広島、長崎に新型爆弾が落ちたという知らせを受けた時は「広島、長崎の人たちには本当に申し訳ないけれども、これで生きられる」と思ったという。日本国家は彼を2度も蛇の生殺しの目に遭わせたのだ。彼の発言を不謹慎だと思う人はいるかも知れない。しかし、生殺しの目に2度もあったことのない人間に、彼の発言を不謹慎などと談ずる資格があるだろうか?

 アメリカ人であるリサ・モリモト監督は、"KAMIKAZE"が、狂信的なマインドコントロールされた人間殺人兵器とのアメリカ人の先入観を覆すとともに、隊員たちにとっては選択の余地のなかった苦渋の行為であって、彼らは国家によって殺された、紛れもない戦争の犠牲者であることを示した。
 今日の平和は、戦争の愚かさを一身に背負って逝った、彼らの犠牲の上に成り立っているのは間違いない。それはある意味で他の人間の原罪を代わりに背負い死に赴くことによって他の人間を救おうとしたキリストのような存在とも言えるかもしれない。しかし彼らの死を、かつて「聖戦」遂行の道具とされた時の様に美化することは、彼らの遺志に背くことに他ならない。今日の我々は彼らの死の意味を美化せずして悼み、継承していくという難しい課題を背負わされたと言える。

Wings of Defeat 公式Webページ(英語)
http://www.edgewoodpictures.com/wingsofdefeat/

『特攻』公式Webページ(シネカノン)
http://www.cqn.co.jp/tokko/


TOKKO-特攻-
ポニーキャニオン
2008-03-19

ユーザレビュー:
特攻=悪か?とても貴 ...
過激な発言はカットし ...
不偏不党だけれども・ ...
amazon.co.jpで買う
Amazonアソシエイト by ウェブリブログ


ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!

ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。

→ログインへ

なるほど(納得、参考になった、ヘー)
驚いた
面白い
ナイス
ガッツ(がんばれ!)
かわいい

気持玉数 : 2

なるほど(納得、参考になった、ヘー)
驚いた

この記事へのコメント

この記事へのトラックバック