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zoom RSS 韓国映画「食客」 -キム・ガンウ主演-

<<   作成日時 : 2008/03/31 23:47   >>

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食客
 5年前(2003年)、マンガ貸本屋経営の経験のある韓国の知人と話していた時、話題が日本のマンガになったことがあった。彼が日本のマンガは面白いと言うので、どういう点が面白いのか尋ねると、韓国に全くない発想があるという。その例の筆頭に挙げたのが料理人対決マンガであった。韓国では食堂やコックの社会的威信が低いのでそういう発想が出てこないという。...という話をした後暫くして韓国で「大長吟」が放映されたので、これは日本のマンガの発想の影響だなと思ったものである(なお長吟は史料上、王の女医としてそういう人がいたという数行程度記述があるのみで、料理対決場面を含めた全ストーリーは脚本家の全くの創作である)。また日本マンガ『神の雫』が韓国に紹介され、韓国でワインブームが起こっているという報道もなされている。
 と思っていたら今回紹介する韓国映画『食客』の原作は2002年から日刊紙「東亜日報」に連載され始めたマンガだという(原作者ホ・ヨンマン)。このマンガの人気で東亜日報の購読部数が54万部に増えたそうだ(注1)。おそらくこの作品が韓国のマンガ文化にリードされたグルメブームの原点なのだろう。いずれにせよ日本のマンガ文化の強い影響を受けているのは間違いない。
 ストーリーの骨子は、ソンチャンとボンジュという二人の料理人の対決である。この二人は韓国最高の料理を誇る雲岩亭という料亭で幼い頃から修行してきたライバルである。しかし五年前雲岩亭の後継者を決める審査会においてソンチャンは審査員をふぐ中毒に掛からせボンジュに破れ、現在は田舎に引き籠り、やはりかつて料理人だったが今はぼけている祖父を看ながら、有機農法の農場を運営している。しかしその中毒事件は手段を選ばないボンジュの陰謀で起されたのだった。
 ところが元朝鮮総督府高官だった藤原次官の子孫が日本からやってきて、朝鮮王朝の宮廷料理長「待令熟手」の包丁を韓国に返したいという。ついては「待令熟手」の後継者に相応しい韓国最高の料理人にその包丁を渡したいというので、TV局の主催で「待令熟手」後継者を決める料理人選考会が開かれることになった。実はこの包丁、藤原次官が「待令熟手」の料理の腕前を聞き込み、彼の弟子に作らせたところ、その料理が素晴らしかったので、総督府の重要な宴席を「待令熟手」にぜひ任せたいと、嫌がる「待令熟手」を無理やり連れ出そうとして、怒った「待令熟手」がその包丁で自らの腕を切ってしまったという曰く付きの包丁なのである。
 TV局長に連れられてソンチャンの農場にやって来て彼の料理の腕に感心したTVレポーター、ジンスは、その選考会に出るように無理やり申請書を書かせる。最初は全く乗り気のなかったソンチャンだが、ボンジュから雲岩亭で部下として働くよう勧誘を受けた際、彼の態度に頭に来て、彼と対決のため対戦を決意する。
 そして、いよいよ数回の予選を含む決戦が始まっていく...

 よく韓国は反日的だと言われる。勿論政治的な立場や国の利害は異なるのは当然であるし、日本の植民地支配を肯定する人もほとんどいないが、それは旧植民地国として当然のことであり、殊更「反日的」というのとは違うのではないかと思う。韓国人と話していると、彼らが本当に評価してもらいたい、認めてもらいたい相手は実は日本(人)なのではないかと思わされることが度々ある。
 インド映画に『ラガーン』という映画がある。植民地支配を受けていたインド人が彼らの自尊心を掛けてイギリス人とクリケットの戦いに挑むという映画である。勿論彼らは英国の植民地支配を良く思ってはいないし、英国人は憎むべき相手なのだが、しかし試合を挑むのは紛れもなく極めて英国精神を象徴するスポーツ、クリケットなのだ。
 今日インド人は英語を武器に世界のIT市場に躍り出ている。だから英語を教えてくれてありがとう、鉄道を敷いてくれてありがとうと、英国の植民地支配に表立って感謝するかというとそんなことはありえない。とは言えインドは英国がもたらした価値を理解している筈である。これを以ってインドは「反英」的と言うべきなのか?同じことは韓国にも言える。
 
 本作品からも、同様な旧植民地国側からの旧宗主国への複雑な視線と日本からの影響が強く感じ取れる。
 例えば主人公であるソンチャン。物語的にはソンチャンが韓国の伝統や価値観を代表するのであり、ライバルであるボンジュに汚い手段を使ってどん底に落とされた「恨」を解いて行くという点は典型的韓国ドラマパターンなのだが、主人公は韓国映画にしては地味。あくまで謙虚であり自分の腕をひけらかすような部分が全くない。典型的韓国人キャラのボンジュに比べると、日本人を思わせる控えめな物静かなキャラクターである。このあたりにも日本のマンガの影響が伺われる。
 そして映画の最後、料理大会の決戦の場面では、韓国人の審査員たちこそ実は韓国料理の価値を卑下し理解できない一方、総督府の高官の子孫である日本人の藤原審査員こそが真の韓国料理の価値を知っており、韓国人が韓国料理の価値を日本人から学ぶという皮肉。
 私には本映画は旧植民地である韓国からの日本に対する屈折した思いを託したラブレターのように思えてならない。ネット上で「嫌韓」の人たちが「反日」映画だと言っている様だが、本映画からいわゆる「反日」要素を取り去ったら、植民者側である日本人こそが韓国の価値をよりよく知っているという最後の皮肉が利かず、気の抜けたサイダーにしかならない。とりあえずは世評に惑わされず、自分自身の目でご覧になることを勧めたい。

 ちなみに藤原役の村上賢一さんという方は、DVDの付録映像のインタビューによると、韓国で日本語教師をされている方で、韓国滞在暦18年。奥様は韓国人。韓国のETV(教育放送)の日本語講座など、韓国でのTV出演の経験も色々お持ちの方だそうだ。インターネットで検索すると「日本語コミュニケーション辞典」(ミョンジン出版)という著書もお持ちで、東京学芸大、ソウル大で学ばれ、世宗大学校日語日文科教授として勤務されているいうことだ。

注1) 『食客』韓国版DVDライナーより。日本では戦前はともかく戦後、新聞の連載小説のために購読部数が大幅に伸びるということは考えにくいが、韓国では1950年代より新聞のキラーアイテムとして連載小説が非常に重要であった。例えば1950年代には「自由夫人」という自由恋愛を題材にした新聞小説が非常に人気を呼ぶと共に社会批判も浴び、さらにハン・ヒョンモ監督の手により映画化もされ、この作品は50年代最高の観客動員数を誇ったそうだ(出典: 韓国映像資料院発行 DVD『自由夫人』解説ノート)。
 今日では小説がマンガに移ったとはいえ、依然新聞のキラーアイテムとして重要なのだろう。

「식객」 2007年 韓国映画
監督: チョン・ユンス 主演: キム・ガンウ、イム・ウォニ、イ・ハナ

DVD(韓国版)情報
販売: Enter One 画面: NTSC/16:9(1:1.85) 音声: Dolby5.1/韓国語 本編: 116分 リージョン3 字幕: 韓/英 2008年3月発行

付記 本作品はコリアンシネマウィーク2008にて2008/10/18国内上映予定
http://www.koreanculture.jp/japanese/info_news_view.php?number=635

『食客』国内公式ホームページ
http://www.shokkyaku.com/

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韓国映画『京義線』 - キム・ガンウの演技が光る
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soramove
2011/07/31 15:07

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