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zoom RSS 知られざる良書 - ユ・シミン著 『ボクの韓国現代史 1959-2014』

<<   作成日時 : 2017/02/19 00:22   >>

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画像 実は本書、おととしの秋にソウルの書店で買っておいてしばらく積ん読になっていたのだが、思い立って先日原書で読了した次第。こりゃ面白い、誰か翻訳すべき本... と思っていたらなんとマヌケなことに積読になっている間(2016年1月)に日本語訳が出ていたのね... しかし新聞等の書評欄でほとんど話題になることもなく、私がそうだったように、たぶん多くの人が日本語訳が出ていることを知らないと思う。出版社が三一書房だからかなぁ... かつて三一書房は進歩派系の書籍を結構出していたが、確か労働争議が起こってすったもんだし、そのあと、かつて三一書房に期待していた層が三一書房を顧みることがなくなってしまったために注目されなくなってしまったのか、という気もする。こんな本を出すようになったところを見ると、かつての三一書房復活の足がかりができてきたのだろうか?

 ちなみにさすがに朝日新聞GLOBEにて戸田郁子氏がすぐ原書の書評を書いていた(リンクは下に掲載)。あと「オルタ」で訳者の萩原恵美氏が紹介を書いている。ただおそらく訳書の書評は新聞でほんんど取り上げられていないと思う。さすがに日本図書新聞では3250号(2016.4.9)に書評が出ていたらしいが(中身は読んでいない)。

 で、すでにこれらの記事で紹介されているが、ユ・シミン(柳時敏)は廬武鉉政権下で保健福祉大臣を務めた人物。映画『南営洞1985』のモデルになった元学生運動家であり拷問の後遺症で早逝したキム・グンテ大臣の後任であった。ユ・シミン自身はもともとは学生運動かかわりソウル大総学生会代議員会議長を務め、その後ジャーナリストとして活躍、2002年に政界に進出して廬武鉉政権に参画、廬武鉉政権終了後は、「あの」イ・ジョンヒ(李正姫)で有名な統合進歩党の共同代表も務めたが、内部の路線の対立もあり、結局2013年に政界引退を発表し、再び文筆業に戻っている1)。

 とりあえず、以下に書くことはすべて原書に基づく記述である。

 韓国内で北朝鮮との関係を疑われた統合進歩党の共同代表であったことから、どんなに「左傾」した本を書くのだろうと思われるかもしれない。戸田郁子氏の書評でも最近「左派文士」の本が売れている、というような書き方をされている。でも実際に読んでみるとイデオロギーに偏っているわけではなく、意外にバランスが良い。もともと反体制派だから軍事政権けしからん... というような論調に偏っているだろうと思われるかもしれないが、朴正煕政権の肯は肯、否は否と評価しているし、盧泰愚元大統領など、特に対北朝鮮政策を巡って、むしろ極めて高く評価している。金大中は大統領になった時期が良かったからノーベル平和賞を受賞したが、実は、盧泰愚政権が敷いた道の範囲に留まっただけだとまで言い切っている(要は単に中間にいた金泳三がダメだったわけだが)。

 また、北朝鮮との統一議論を巡っても、もちろん彼は、私は統一反対論者ではないと一応前置きはするものの(そうでなければ韓国では受け入れられない)、でも、いきなり統一統一というのは無理なんじゃないのと主張する。多分、ユ・シミンは実質的には統一反対論者だろう。ただ、そういう前置きを置いておかないと韓国内で袋叩きに会うのであろう。私もユ・シミンの見解には全面的に賛成である。おそらく韓国と北朝鮮の意図的な統一は不可能だと思う。そもそも東独と西独の統一も、西独が意図して行ったわけではない。あくまでも東独国民が望んでそうなったのであり、西独から見れば「棚から牡丹餅」だったのだ。したがって朝鮮半島の統一が実現可能だとしたら、やはり韓国側から見れば「棚から牡丹餅」式統一以外私は不可能だと思う。

 ちょっと古い韓国人、あるいは在日朝鮮人は何かと「半島分断の悲劇」が云々といい、「統一は悲願」などというが、実は「統一にこだわった結果、交流を閉ざしていることの悲劇」ではないのか、という気がする。まずは普通の隣国同士になって、お互い隣の外国人として行き来すれば問題の大半は解決するのではないだろうか。結局「統一できない」ことが今の韓国の政治が上手く行かないことの「言い訳」として便利なのだ。

 確かに朴正煕と金日成は朝鮮半島統一で合意している。しかしそれは金日成体制が、社会主義という普遍的イデオロギーを持っていた自信からそう言えた話であって、今は単にキム王朝絶対王政国家でしかない。南の人たちにキム王朝の正統制を承認させることは暴力以外に絶対に不可能である。
 一国二制度で統一なんていう話もあったが、今の中国で二制度体制の存続を保証する約束の年限前にすでに一国二制度が風前の灯火である。ありえない。あるいは名目統一しても、相互の地域の住民の行き来を禁止するしかない。そんなのであれば、普通の隣国になればいいだろういうのが私の考えだ。

 多分、韓国人は自覚がないが、朴槿恵大統領が言い出した「統一テバク(大当たり)論」も、北朝鮮にとってみれば韓国による北への侵攻宣言だと捉えられている可能性が高い(韓国側は、統一は、すでに朴正煕と金日成で合意できている話であり、今更どうという話でもないと思っているだろうが)。また米韓共同軍事作戦も「斬首作戦」が含まれているという3)。韓国は自覚のないままに、北朝鮮の韓国に対する脅威意識を煽っている構図があると思う。それが北朝鮮が核開発をどんどん進行させる一つの大きな要因となっているのだと私は思う。

 本書を読むと、とにかく韓国の対北政策が政権が大きく変わるごとに大きくブレていることが改めてわかる。対立かと思えば融和に、融和かと思えば対立にと極端から極端に走る。それは今のアメリカの大統領選を見れば、それが (嫌韓論者の言いそうな) 「朝鮮人の民族性」などではなく、むしろそっちのほうが今や「グローバルスタンダード」と言えるのではないかと思うが (あくまでもかっこ付きの「グローバル」だと私は思うが)、それが、北朝鮮を煽る最大の問題要因である様に思える。前の政権と対抗する政権が成立すると、味噌もクソも片っ端から否定するのが韓国流だが (しかし今やそれを米国がやっている) 、それはよく言えばダイナミズムであるが、悪く考えれば最大の危機要因(リスクではなくデンジャー)ではないかと思える2)。

 ちょっと話が脱線したが、本書のよい点、特質は、やはり韓国に住む当事者の目から韓国現代史を見ているという点であろう。ただそれが単に個人の感想を語るのではなく、その社会科学的背景をきっちり押さえて、解説している点に本書の最大の魅力がある。しかもそれらの解説の出典もきっちり出ているので、韓国現代史を抑えるためにはどのような参考文献を読んだらよいのかという読書ガイドにもなっている。そう言う意味では韓国現代社会や現代社会史に関心のある人には必読の文献と言ってよいであろう。

 もちろん、日本にもすでに韓国社会や現代社会史に触れた文献は多数あるだろう。だから「客観的」知識を得るためには必ずしも本書を読まなくてもよい、とも言えるかもしれない。しかし日本人の視点による解説には、当事者の視点がない。ある意味学術的な「上から目線」の解説でしかない。だからなぜ彼らがこう行動したのか、どう考えてどう感じたのかという、理解社会学的視点が置き去りになってしまう。韓国の社会・経済構造の理解にはつながっても韓国人理解に必ずしもつながらない点が問題なのである。

 そして、必ずしも学術的読者を対象としているわけではなく、広く一般の読者を対象としている点から、例えば韓国ドラマを見ていて生じる、なんで韓国社会ってこうなの、とか、どうしてこんな社会制度があるの、といった疑問にもこたえてくれる書物にもなっている。

 また、韓国へ留学を考えている人(特に人文社会科学系)は本書をぜひ原書で読んでみてほしい。本書を読み通せるなら、韓国の大学でやっていける学力があるはずだ。

 本書をあえて言うなら、半藤一利『昭和史』の韓国現代史版に例えられるだろうか。あと欲を言えば風俗面が若干弱い。例えば、韓国社会に大きな影響を与えた1980年代の韓国三大迷宮入り事件(いずれも映画化された)とか、有名な「有銭無罪、無銭有罪」発言がでたチ・ガンホン事件などには触れられていない。そう言う意味で半藤一利が『昭和史 B面』を書いたように、韓国現代史風俗版が望まれるところであるが...

 で、最後に一言。今の日本の政治家にこのような本を書ける人は... 残念ながらただの一人もいないだろう。

原著
유시민, 2014, 『나의 한국현대사 1959-2014, 55년의 기록 』, 돌베개, W18000
ISBN: 978-89-7199-609-6

訳書
ユ・シミン, 2016,『ボクの韓国現代史 1959-2014』, 萩原恵美訳, 三一書房, 税別2500円
ISBN: 978-4380150098


1) 参考 Wikipedia「柳時敏」
日本語版 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%9F%B3%E6%99%82%E6%95%8F
韓国語版 https://ko.wikipedia.org/wiki/%EC%9C%A0%EC%8B%9C%EB%AF%BC

2) それは同時に今後のトランプ政権におけるデンジャーでもある。

3) 例えば 「米韓合同軍事演習に金正恩氏が怒りおののいたのには理由があった…米特殊部隊の「斬首作戦」の実態とは?」産経新聞 2016.3.19
http://www.sankei.com/premium/news/160319/prm1603190011-n1.html

邦訳


原著リンク (教保文庫)
http://www.kyobobook.co.kr/product/detailViewKor.laf?ejkGb=KOR&mallGb=KOR&barcode=9788971996096&orderClick=LAG&Kc=

萩原恵美氏による紹介 「オルタ」
http://www.alter-magazine.jp/index.php?%E3%80%8C%E3%83%9C%E3%82%AF%E3%81%AE%E9%9F%93%E5%9B%BD%E7%8F%BE%E4%BB%A3%E5%8F%B21959-2014%E3%80%8D


戸田郁子氏による書評 2014.9.7 朝日GLOBE
http://globe.asahi.com/bestseller/2014090500019.html

三一書房
https://www.facebook.com/31shobo/videos/185192505170683/
http://31shobo.com/2015/10/%e3%83%9c%e3%82%af%e3%81%ae%e9%9f%93%e5%9b%bd%e7%8f%be%e4%bb%a3%e5%8f%b2/

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