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zoom RSS 財閥御曹司の玉の輿物語から財閥極悪論へ - 韓国映画『ベテラン』

<<   作成日時 : 2016/11/06 22:22   >>

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 デビュー以来娯楽アクション映画を追求してきたリュ・スンワン監督の2015年作品。韓国では1300万人以上の観客動員を記録したという。本作品を見て、韓国社会もここまで来たか、と思わざるを得なかった。

 5-6年前の韓国ドラマというと財閥の御曹司の玉の輿に乗るというストーリーばかりが隆盛であった。しかし最近は、今テレビ東京系で放映している『伝説の魔女: 愛を届けるベーカリー』がそうであるが、財閥に苦しめられる庶民という図式がヒットの要因になっているようだ。この『伝説の魔女』も、もともと財閥の娘がお遊びで始めたパンのチェーン店である『パリ・バゲット(파리바게뜨)』や『トゥー・レ・ジュール(뚜레쥬르)』が町のパン店を圧迫し大量廃業に追い込んという社会的批判を背景に生まれたストーリーであることは間違いない1)。 そして本作も、韓国内の格差社会化の進行とともに、韓進=大韓航空グループのナッツ姫事件や、最近問題になっているロッテグループ内のスキャンダル、あるいはサムソンの労災隠ぺい事件といった財閥を巡る諸問題がバックにあるのは言うまでもないだろう。

 リュ・スンワン監督の路線は徹底的に娯楽アクションを追求した、日本でいう「プログラム・ピクチャー」路線であり、決して社会性や芸術性を追求する監督ではなかった。その監督が財閥を悪玉に据え、しかも投資製作したのがCJグループ。CJは発祥が第一製糖を中心とするグループであり、さらに源流はサムソン・グループから枝分かれした財閥。現在のグループの代表もサムソンの経営陣と親戚関係にある。その会社が「財閥は悪」図式に乗った映画に製作投資、配給するというのも内心忸怩たるものがあったのではないか、と推測したくなるが、しかし実際1300万以上という観客動員を叩き出している。
 その「社会派的」設定の明らかな商業性には、リュ・スンワンもCJも採用を躊躇する余地がなかった、そこまで韓国社会内での格差拡大に対する恨みは積もり積もっているということであろう。もっともリュ・スンワン監督はイ・チャンドンやパク・チャヌク作品にも出演したりしているので、社会派監督たちに親近感は持っているのかもしれない。

 ストーリーは、ただでさえ不祥事に揺れている財閥の中でも、問題行動を起こしている財閥の息子によって、人生を踏みにじられ、そのうえ不祥事隠ぺいのため自殺偽装まで試みられたあるトラック運転手の恨みを晴らすために刑事が立ち上がるという物語である。
 ファン・ジョンミン演じる主人公のソ・ドチョル刑事は「正義」の追求のためには、時には「法令順守」を疎かにすることも辞さない人物として描かれる。一方、財閥側は、カネと政治力を使って徹底的に事件が明るみに出ることを抑えようとする。財閥側の「金と政治のロジック」対、虐げられた庶民側の「抵抗のロジック」のガチなぶつかり合いである。そこでは刑事も体を張るが、ユ・アイン演じる財閥の息子、チョ・テオも体を鍛えており、最後の場面では彼も体を張っていく。それがこの対立に、力と力のぶつかり合いという性格を与えている。言わば力によってこの社会の秩序の主導権を握るか、という争いを行っているといえる。このロジックは、ポン・ジュノ監督の『ケムル(グエムル)』の図式に非常に似ている。また、主人公のソ刑事が運転手のため事件を明らかにしようとするのも、公憤というよりは、犠牲者となったペ運転手との個人的な親近感に伴う、私憤的な恨みを晴らす感情に近い。それを象徴する場面は、ペ運転手から最初に相談の電話をもらったときソ刑事は知らない電話だと無視した場面である。つまりソ刑事は無名の市民一人ひとりに寄り添おうという職業意識から立ち上がったのではなく、この事件の犠牲者は、あくまでも個人的な知り合いであるペ運転手であって、その彼の恨みを晴らそうという私憤が彼の出発点になっているのである。これも『ケムル』でソン・ガンホ演じる主人公が家族を救おうという個人的な感情が出発点となっているのと非常に似ている。ただ異なるのは、『ケムル』では米国という権威になびいてしまう事大主義がそれとなく(ときに自虐的な)ブラックユーモアで批判、風刺されているのに対し、『ベテラン』では財閥の悪があからさまなものとして設定され、勧善懲悪図式を踏襲している点であろう。ただ、日本の勧善懲悪図式と異なるのは、決して水戸黄門図式にならないということだ2)。
 そう言う意味では、『ベテラン』では大ヒットのパターンが自覚的に分析され、採用されていたのではないかという気がする。


1) ある韓国人の知人の話だと今は『パリ・バケット』と一強状態になったということだ。韓国での噂では『パリ・バゲット』の商品開発センターは日本にあると言われているらしい。それが本当かどうかは知らないが、今の韓国における日本の立ち位置を象徴するような噂ではある。

2) 考えてみれば、正義の味方が上からやってきて怪獣を「征伐」する「ウルトラマン」も水戸黄門図式のバリエーションであった。

原題『베테랑』 英題『Veteran』 監督: 류승완
2014年 韓国映画 123分 1:2.35

韓国封切り日 2015.8.3 韓国観客動員数 13,414,200人 (Daum映画データ)

Daum映画リンク
http://movie.daum.net/moviedb/main?movieId=81734

国内公式サイト
http://veteran-movie.jp/








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