yohnishi's blog (韓国語 映画他)

アクセスカウンタ

zoom RSS 今さらながら、『捏造の科学者 - STAP細胞事件』を読む

<<   作成日時 : 2016/06/06 19:34   >>

ブログ気持玉 0 / トラックバック 1 / コメント 0

須田桃子, 2014『捏造の科学者 - STAP細胞事件』, 文芸春秋

 今さらながらであるが、小保方氏による反論書も出版された今、STAP細胞事件を追って評判となった須田桃子毎日新聞記者の著書を読んでみた。

 まず本書の基本的なスタンスは、STAP細胞が実在したかどうかよりも、事件再発防止のため、なぜこのような事件が起こったのか、事実経過を明らかにしたいという立場から書かれている。また当事者に対する取材は、小保方氏には殆ど取材ができておらず、若山氏、そして笹井氏とのメールによる取材が中心となっているので、それに引きずられた結論になっている可能性は注意しなければならない。

 そしてSTAP現象とされた件に関しては、既に周知の話ではあるが、ES細胞の混入の可能性、もしくは細胞がマクロファージによって食われ死滅する直前の蛍光現象を誤認した可能性を指摘すると共に、STAP現象かどうかを厳密に確認するためには、細胞の塊で現象を調べるのではなく、個々の単一細胞レベルで実際にSTAP現象(細胞の万能性発揮)が発生したかどうかを確認しなければならないが、STAP論文ではそれが行われていないという点が指摘されている。

 また、今までの報道で十分知られていない話としてはネイチャーに掲載したSTAP論文が掲載される以前に同趣旨の小保方氏の論文がネイチャーやサイエンスに投稿され却下されているが、須田記者がそのうちの3本の論文について精査したところ、その査読の中で、査読者からすでにSTAP細胞疑惑につながる論点がすべて網羅され丁寧に指摘されている点、そしてその疑問に丁寧に答えていれば、このような問題は起こらなかったはずであるということが明らかにされている。また小保方氏はこれらの査読の中で「細胞生物学の歴史を愚弄されている」と頭ごなしに否定されたと言っていたが、そのような指摘は須田記者が検討した査読結果には含まれておらず、もちろん査読者の多くはSTAP細胞の実在には懐疑的もしくは否定的ではあったが、クリアすべき問題点の細かな指摘、さらには読むべき参考文献をアドバイスするなど、かなり丁寧なアドバイスを行っていた。

 しかしながら2014年のネイチャー論文ではそれらのアドバイスに耳を傾けた形跡がなく、小保方氏の共著者は、以前の論文における査読者の指摘についても十分承知していなかった、読んでいなかったと証言していることが明らかにされている。

 但し、2014年ネイチャー氏に掲載された論文の査読結果では懐疑的な姿勢が減り、前向きなコメントが増えている。それにもかかわらず、やはり依然単一細胞レベルでの細胞の万能性の検証が必要だとのコメントがなされているが、それに対し著者たちが答えた様子はなく、追加実験はSTAP細胞や幹細胞の遺伝子解析のみであった。その遺伝子データさえ、論文発表後の検証で様々な齟齬が指摘された。また不都合なデータが一部削除されて再投稿されており、それがネガティブなコメントが減った一因となっている。
 本来ならば却下されても良い案件だったが、掲載に至ったのはネイチャー編集部がバックアップする姿勢に転じたためと推測されている。これらに関しては幹細胞分野で信用の高い笹井氏や丹羽氏が入ったことで編集者が賢明な判断ができなくなったのではないかという関係者の証言が紹介されている。(以上p. 302-317)

 またこれも周知のことであるが、STAP実験に使われたマウスは若山山梨大教授が提供したとされるものの、若山教授が小保方氏から手渡されたSTAP細胞が、もはや若山教授が培養したマウス由来のものかどうかも分からないと、若山教授は証言している(p. 300)。

 また須田記者が小保方氏の博士論文の内容を検討したところ、小保方氏は博士論文中の本来STAP細胞とは異なる細胞である「スフィア」細胞をSTAP細胞であるという独自の認識を示している1)、とも指摘されている (p. 325)。もし本来STAP細胞でないものをSTAPと認識していたとしたら小保方氏がSTAP細胞は何度もできていると発言したことにも納得がいくが...

 またこのようなミスが発生したバックグラウンドとして、ある研究者のこのような声を紹介している。若山氏は専門分野が違うので分子生物学的データが分からず、小保方氏の実験結果を分子生物学的観点から検証するという意識がそのそもなく、笹井氏は多能性幹細胞から神経を作るのはプロだが多能性幹細胞そのものには興味がないため、小保方氏のデータの不自然さに気付かなかったのではないか (p. 283)。
 仮にこれが事実だとすると専門分野のタコツボ化が進行しこの論文を統括できる人が誰もいなかった、という話である。

 なお、これも話題になった小保方氏の「ポエムノート」に関しても、ある関係者の話として、公開された部分以外にはまともな記述もあったらしいのだが、弁護士が小保方氏の責任能力回避の伏線として、わざわざあのページを選んで公開したのではないかという話を紹介している (p. 210)。これも一般メディアでは殆ど報じられていなかった点である。

 なお、ハーバード大教授バカンティ氏に関しても、元々の専門は麻酔科で、ブリガム・アンド・ウィメンズ病院の麻酔科長。ただ1980年代後半から組織工学の研究を始め、1995年にBBCの包装でマウスの背中に人の耳の形をした軟骨を生やした通称「バカンティ・マウス」で世界の注目を集めたという。彼は2001年にSTAP細胞の元の考えとなる論文を発表したが (当時はspore-like cells [胞子様細胞])、エヴィデンスが不十分で酷評されたという(p. 98-100)。
 その後小保方氏、バカンティ氏に若山氏らも名を連ねて2012年以降ネイチャー、セル、サイエンスにSTAP細胞 (当時はAnimal Cllus cells 動物カルス細胞) に関する論文を連続して投稿するがいずれも不採択になった(p. 11-2)。だが2012.4にハーバード大が中心となりバカンティ氏、小保方氏らを発明者とする米国特許の仮出願がなされている。
 またバカンティ氏は2014.3 STAP細胞の独自の作成方法をWebで公開したが、これも専門家の証言によれば、科学的な評価をしようのないものという (p. 126)。

 以前、私のブログでも指摘したが、ハーバード大の研究だから一流だという思い込みが生んだ事件なのではないだろうか。ハーバード大の「一流の」研究水準とは予算の潤沢さと英語で発表できるという有利さをバックグランドに下手な鉄砲も数打ちゃ当たる式で確保されているのであって、「一流」の研究の絶対数は多いのかもしれないが、平均的な研究水準は実は低いのではないか。決して「グローバル」研究・教育の水準は高いとは限らないのではないかという気がしてならない。

 結局この事件は、仮に須田記者の主張が正しいとすれば、学問のタコツボ化と日本の学界のアメリカコンプレックスの複合事件という気がするのであるが....

 それと、妙にショーアップしてしまったのでこの事件は大きな社会問題になったが、理研が下手な工作に乗り出さなければ、この件は粛々と学科プロトコルに沿って処理され、小保方氏も学界での面目を失う程度でここまで社会的バッシングを受けなかったのではという気がしてならない。

1) この認識は博士論文の中でそう認識しているのか、その後そう認識しているのかは本書の記述からは不明。ただSTAPという言葉は2013年に投稿し2014年に掲載されたネイチャー論文からのようなので、少なくとも博論の中ではSTAPという言葉は使っていないはず。













テーマ

関連テーマ 一覧


月別リンク

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!
ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。
→ログインへ

トラックバック(1件)

タイトル (本文) ブログ名/日時
STAP問題の領域はそもそもサイエンスではない
 須田桃子氏のSTAP細胞を巡るルポルタージュを読んで考えたことは、そもそもSTAP細胞問題とはサイエンス (Science) の領域の問題ではない、ということである。これはSTAP細胞事件が捏造だからそうだと言っているのではない。仮にSTAP細胞が正しくできていたとしても、そもそもサイエンスではないのである。 ...続きを見る
yohnishi's blog (韓国語...
2016/06/09 23:28

トラックバック用URL help


自分のブログにトラックバック記事作成(会員用) help

タイトル
本 文

コメント(0件)

内 容 ニックネーム/日時

コメントする help

ニックネーム
本 文
今さらながら、『捏造の科学者 - STAP細胞事件』を読む yohnishi's blog (韓国語 映画他)/BIGLOBEウェブリブログ
文字サイズ:       閉じる