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zoom RSS 『パパをお貸しします』 - 父親の存在の揺らぎをコメディ化した韓国映画

<<   作成日時 : 2015/07/04 13:57   >>

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画像 2013年製作、2014年秋に公開された、父親の権威失墜状況をコメディ化した韓国映画。

 テマン (キム・サンギョン) とジス (ムン・ジョンヒ) 夫婦は一人娘で小学生のアヨン (チェ・ダイン)と暮らす。問題は、学歴だけはソウル大卒と高く一家の大黒柱であるはずのテマンが失業10年目で、ジスが美容院を経営して一家の家計を支えている。
 そんな中、ある日テマンはアヨンから授業参観に来るように言われる。ママが行けばいいじゃないか、とテマンは答えるのだが、なぜかアヨンはパパでなきゃダメだと言い張る。仕方なく翌日娘の小学校に足を運んでみると、じつは、家の不要品を持参して友達に貸してあげようという授業だったのだ。つまりアヨンは、学歴だけは高いが使い道のないパパを友達に貸しだそうとパパを学校に呼んだのであった。
 もちろん、担任の先生はこんなことしちゃダメとたしなめるのだが、生徒の中で一人パパを借りたいという子、ジンテ (チョ・ヒョンド) が現れて、テマンの足にしがみつく。仕方なくテマンはジンテの家に向かうのだが、そこにいたのは、テマンが大ファンであった往年のアイドルスター、ミヨン (チェ・ジョンア) の家だった。ジンテは父親を亡くし、母親もTVの仕事で忙しく、同居の祖母=ミヨンの義母は認知症で、遊んでくれる人がいなかったのだ。暫くして帰ってきたミヨンは、もちろん、ジンテを「知らないおじさんを家に連れてきちゃダメ」としかり、テマンに早く帰るよう促すのだが、なぜかミヨンの義母 (ソ・ウリム) が亡くなった息子 (=ミヨンの夫) だとテマンを錯覚してすっかりなついてしまう。
 その翌日、アヨンは学校でジンテからミヨンからの多額のお礼を渡され、また来て欲しいと言われる。そこで、アヨンは父親レンタル業が儲かる商売だと悟り、父親の友人でPC房の主人スンイル (チョ・ジェユン)を巻き込んで、テマンに「父親レンタル業」で金を稼ぐよう仕向けたところ...

 この映画の最大のテーマは、経済だけでなく社会関係においても市場化が進み、誰でもが交換可能・取り替え可能な存在となってしまった今日、交換可能ではない、かけがえのない「私」が求められる場所探しということになるだろう。結局そのような居場所は家族の中に求められる訳なのだが...
 この映画、最後はハッピーエンドに終わるのだが、そうであるからこそ、逆説的に今日の韓国において、単なる家父長制の崩壊のみならず、家族関係においてさえももはや市場化、交換可能化が進んできたという深刻な事態が進行しつつあることが見て取れると言える。
 おそらくかつては韓国家族において、それぞれの構成員のかけがえのなさを保証するものは、ネガティブな側面もあるものの、やはり「血統」であり家父長制であった。しかし今日教育費の高騰、労働環境の悪化により極端な少子化が進み、もはや韓国社会において「血統」にこだわっている余裕はなくなってしまった。だから、最近の韓国ドラマを見ている日本人が、「韓国って養子が盛んなの?」と錯覚するほど、韓国ドラマには養子の話が頻々と出てくるが、これは逆に、これ程少子化が進んでも血統にこだわりがちな韓国社会に対して、思考方式を切り替えろよとの啓蒙的メッセージであると考えられる。
 だが「キロギアッパー」問題に見るように、血統へこだわっていられなくなった韓国社会では、家族関係においてさえも市場化が進み (同時に家父長制の基盤も掘り崩されつつあるのだが)、それぞれが交換可能な存在となってしまった。この映画に見られる、娘からも「使い物にならない」と見なされるキム・サンギョン演じるパパという存在は、まさにそのような交換可能な家族関係の象徴と言える。つまり「パパ」は単純に生物学的父親ではもはやダメで、「パパ」としての市場価値が求められるようになったのだ。
 ただ、最後はハッピーエンドになるとは言え、結局映画に出てくるパパは「パパ市場」において自分の市場価値を証明することを通して、自分のかけがえのなさを証明しなければならないところに、一抹のもやもや、批判的視点の不徹底が残る。単に金を稼いでくる「キロギアッパー」的なものが父親の本質ではない、という批判にはなりえても、「イクメン」的な価値を、父親市場において証明することによって父親の地位を取り戻すことになるからである。つまり、交換不可能性 (かけがえのなさ) を求めつつも、賃金・労働者市場における交換価値で父親の価値を計ることは否定しつつも、別の市場価値で父親の価値を測ることは否定していない、ということである。

 それと同時に、やはり韓国の厳しい労働市場や環境が、どれほど韓国の伝統的「家父長性」を破壊し傷つけているのか (父親の失業等によって。もちろんそれらが破壊されていいじゃないという見方もあり得るのだが) ということもうかがい知れる一作である。このような現実を不愉快に思っている人々には、あまり愉快に思えない映画だった可能性がある。
 また、コメディとしては若干スピード感に欠け、もたつく側面も認められた。このあたりを退屈と感じる人はいたであろう。

 残念ながら興行的な成功作とは言えなかったにせよ、ともあれ、現代韓国における家族像の揺らぎを象徴する映画であることは間違いない。

 主演は『殺人の追憶』の都市出身の刑事を印象的に演じたキム・サンギョンと『カフェノワール』『ヨンガシ』『カート』等に出演しているムン・ジョンヒ。そして娘役の子役、チェ・ダインが可愛く達者な演技を見せる。監督は本作が長編劇映画デビュー作のキム・ドクス。原作はホン・ブヨン。

 本作の韓国封切り日は2014.11.20、韓国における観客動員数は153,578人 (Cine21データ)。国内未公開。

原題『아빠를 빌려드립니다』英題『rent daddy』監督: 김덕수
2013年 韓国映画 カラー 1:2.35 112分

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