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zoom RSS 『ハン・コンジュ』 - レイプされたものの痛みを描く韓国映画

<<   作成日時 : 2014/10/09 17:51   >>

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画像 強姦事件被害者が、被害を受けた後も社会から何重にも精神的に「強姦」される様を描いた社会派映画。監督・脚本は、過去インディペンデント短編映画で釜山国際映画祭から何度も注目を浴びてきたイ・スジン。

 冒頭、主人公のハン・コンジュ(チョン・ウヒ)は多くのおとなたちに取り囲まれ、「私、間違ったことしていません」とつぶやくコンジュ。その騒ぎの後、高校の担任のイ・ナムド先生(チョ・テヒ)の手引きで家から突然出て身を隠すことになったコンジュ。「どこへ行くのですか」と問うコンジュに、「僕も分からない」と答える先生。先生は、彼女に新しく契約した携帯電話を渡し「僕とお父さんからの電話だけ出なさい、いやお父さんからの電話も出るな」と言う。
 先生があちこち連絡したあげく、最終的に首都圏にあるとある高校に転校することになる1)。そして、とりあえず身を寄せる先として、先生は、自分の母親、チョ女史(イ・ヨンラン)が一人で暮らすソウルにある実家にコンジュを連れて行く。コンジュを疑わしそうな目で見、「何か事故を起こしたの」と問いかけてくる先生の母。息子が「お手つき」をしたのではないかと疑っているのだ。
 一人、トイレに入るコンジュに、亡くなった同級生、ファオク(キム・ソヨン)の幻覚が声を掛けてくる。
 先生の母の家に滞在するようになってすぐ、コンジュは産婦人科に行く。「女の先生はいますか」と問うコンジュに看護婦は「いますよ」とはいうが、実際に呼ばれたときの担当は男の先生だった。仕方なくそのままそこで中絶をする。

 その事件の前、コンジュは一人で暮らしていた。父(ユ・スンモク)は酒に酔ってはどこかをさまよい歩き、母親(ソン・ヨジン)は父とコンジュを捨てて出奔。コンジュの親友はやはり一人暮らしをしていたファオクだけだった。
 そんな中、コンジュはアルバイト先のコンビニ・オーナーの息子、ドンユン(キム・チェヨン)が気に掛かっていた。彼は父がいない時を見計らっては必死の形相でコンビニに来て、飲料水、ビールやお菓子などを持ち出していく。どうやら同級生からカツアゲされて巻き上げられているらしい。顔にはいつも殴られた傷跡がある。
 そんな中、ファオクが家に遊びに来るようコンジュを誘う。そしてファオクが気になっていたドンユンも呼んだという。連れてくるな、というコンジュ。だがドンユンとともに時間を過ごす中で、ドンユンのギターや歌が上手い一面をコンジュははじめて知る。

 だが、ミノ(キム・ヒョンジュン)らにカツアゲされ続けてきたドンユンはやがてミノらの強要により彼らをファオクの家に連れてくるようになる。そして父母が不在のファオクの家がミノらのたまり場になるにはまでには時間が掛からなかった...

 先生の母親は、小さなスーパーを経営して生計を立てているとともに、彼女には恋人がいた。それは警察の派出所所長(クォン・ボムテク)で不倫の恋だった。だからコンジュを受け入れることに難色を示したのだ。だがコンジュの誠意に、彼女から一緒に住もうかといってくれるようになる。
 コンジュが新生活の中で真っ先にはじめたことは、水泳を習うこと。そして、コンジュが新しい学校で生活をはじめると、同級生のイ・ウニ(チョン・インソン)が何かとちょっかいを掛けてくるようになる。彼女はアカペラ・グループ活動をしており、たまたまコンジュが音楽室で歌を歌うのを聴いて、関心を持ったのだ。
 そんな中コンジュは、出奔した母親の携帯に電話をするが、電話番号が変わっている。しかたなく直接彼女の職場に出向くと、口では娘のことを思っているといいながらも明らかに迷惑そうな態度。動物病院長である新しい恋人(キム・ジョンソク)がいたからだ。母親から新しい電話番号と教えられた電話番号は、嘘の番号だった。
 ウニからアカペラをやろうと熱心に勧誘されていたが、目立つことは何もするまいと決意していたコンジュは、当初勧誘を拒絶していた。だが、根負けして一緒に歌うことに。やがて彼女の歌に惹かれたウニは、いやがるコンジュの歌う姿をビデオに収めるが、それが後で大きな災いの種となるのだった...

 題名は、主人公の名前から取っているが、「あるお姫様」とも読める。この映画のモチーフになっているのは、2004年に発覚した有名な密陽集団強姦事件 2)と思われる。ただ設定が大幅に変えられているので、この事件を再現しようと製作されている訳ではない。それよりも性暴行を受けた被害者が、さらに二重に社会から精神的な「強姦」を受けかねない世相を告発する映画と言える。モデルになったと思われる密陽集団強姦事件も、被害者が強姦される映像がインターネットに流されたり、被害者の身元が明かされたり、さらに加害者の内ごく僅かしか処罰されず、また加害学生の父母の中に有力者がいたことから、逆に加害側が居直り、被害者に精神的圧迫を加えたことなどが問題視された事件だった。そういった状況はこの映画の中でも描かれている。
 映画は現在のシーンと過去の回想シーンが交錯して進行する。現在のシーンは事件が発覚し、担任の先生の母宅に逃げていくシーンから時系列的に進んでいくが、回想シーンは必ずしも時系列順に回想が進む訳ではないので注意が必要。

 映画で描かれたハン・コンジュは被害者にもかかわらず、まず家庭的に問題があり誰も守ってくれない状態である。辛うじて元の高校の担任の先生がある程度支援してくれるものの、新しく移った先で事件の当事者の一人であることが発覚すると、新しい学校側も誰も守ってくれる人がいなくなってしまう。アルコールに溺れている父親は金ほしさに本人の意志とは関係なく、加害者側と勝手に和解してしまい、娘を利用することしかしない(これは実際の密陽事件も同様だったようである)。これによって、ハン・コンジュは周囲から被害者なのだか、被疑者なのだか分からない存在とされ、社会的に排除され居場所を失ってしまう。韓国社会とは基本的に家族・親族ネットワークによる保護が前提とされているうえに、水に落ちた犬を叩くような弱者に冷たく強者の論理がまかり通る韓国社会の特性から、親族ネットワークがハン・コンジュのように断ち切られてしまうともはやどうにもならなくなる蟻地獄状態になってしまい、追い込まれてしまう。そのような状況が必ずしもいかにも告発調ではなく、淡々と心理描写されていく。その分だけ映像に説得力があるとも言えるが、その一方時間軸の交錯、そして全体的に敢えて明確なストーリー展開を避け、心理的にほのめかすような描写で一貫しているため、分かりにくいと感じる人もいるだろう。同じ暴行事件をモチーフにした映画でも、国内で公開された『ドントクライ・ママ』とはかなり方向性が異なる作品。
 この映画はインディー映画にもかかわらず、韓国においてそこそこ多くの観客に見られたということは、セウォル号以降、韓国社会の「強者の論理まかり通り」状況に対する異議が静かに広がっていることを示唆するものだと言える3)。
 なお、コンジュをアカペラグループに誘うウニを演じるチョン・インソンはかの『殺人の追憶』のラストシーンで、ソン・ガンホ演じる刑事に意味深い質問を問いかける少女役をつとめていた。

 本作品の韓国封切りは、2014年4月17日。韓国での観客動員数は210,625人(cine21データ)。今年の釜山国際映画祭で上映される。

 監督・脚本のイ・スジンは本作が初長編劇映画。1977年2月生まれ。短編映画『父さん』(2004)が釜山映画国際映画祭に招待され、またソウル独立映画祭で韓国映像資料院賞を受賞。また『敵の謝罪』(2007)で釜山映画祭ワイドアングル部門招待およびmise-en-scene映画祭でも撮影賞受賞。
 また主演のチョン・ウヒは1987年生まれ。京畿大学演技学科卒。『優雅な嘘』でも主人公の親友であるミラン役で出ていた。
以上Daum映画データベースを参考に執筆。

1) ロケ地は仁川だが、それが明示されている訳ではない。エンハウィキ「ハン・コンジュ」項目参照 ( https://mirror.enha.kr/wiki/%ED%95%9C%EA%B3%B5%EC%A3%BC )。

2) これについてはWikipedia韓国語版「密陽地域高校生の女子中学生集団性暴行事件」の項目を参照 ( http://ko.wikipedia.org/wiki/%EB%B0%80%EC%96%91%EC%A7%80%EC%97%AD_%EA%B3%A0%EA%B5%90%EC%83%9D%EC%9D%98_%EC%97%AC%EC%A4%91%EC%83%9D_%EC%A7%91%EB%8B%A8_%EC%84%B1%ED%8F%AD%ED%96%89_%EC%82%AC%EA%B1%B4 )。日本語にも記述もあり。

3) なお、日本社会は韓国社会とは逆に、戦前・戦中時代への反省から戦後「弱者への配慮」を重視する社会であったものが、ここ最近「本音のむきだし」「強者の論理まかり通り」社会への転換が進んでいるように思う。言わば日本社会は「韓国社会化」への道をひた走っているようにしか、筆者には見えない。

原題『한공주』英題『Han Gong-ju』監督: 이수진
2013年 韓国映画 カラー 1:2.35 112分

韓国版ビデオ情報
[DL File]
720p(AVI) 480p(MP4)16:9 DRM Free 2521/438MB W4000

予告編 (韓国語 YES24サイト)
http://vod.yes24.com/MovieContents/MovieDetail.aspx?did=M000046715

付記
 本作は2015.2.10より、国内劇場公開予定。

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