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zoom RSS 『もう一つの約束』 - サムソン電子労災問題を告発する韓国映画

<<   作成日時 : 2014/09/03 00:24   >>

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画像 サムソン電子職業病問題を告発する目的でつくられた映画。かなり多くの注目を集めた作品で、この映画が注目されたということ自体が、セウォル号事件と併せて、韓国社会が大きな転換点を迎えているということの象徴と言える。監督・脚本は国内でも公開された『残酷な出勤』のキム・テユン。

 金剛山に近い江原道束草(ソクチョ)で半世紀以上個人タクシーの運転手をしているハン・サング(パク・チョルミン)は娘、ユンミ(パク・ヒジョン)と息子、ユンソク(ユ・セヒョン)、妻のユン・ジョンイム(ユン・ユソン)の4人家族。
 成績優秀だったが、家計が苦しかったユンミは、高校を卒業すると大学に進学せず、韓国随一の優良企業ジンソン半導体への就職を決める。父サングは、韓国で一番良い会社に就職したと大喜び。そして労組でデモなんかやらずにまじめに頑張れと娘を諭すと、娘はそもそもうちの会社には労組なんかないんだって、と答える。
 だがその20ヶ月後の2004年、ユンミの運命は暗転する。体調が悪いと会社を休職して両親と共に病院を訪れると白血病だとの診断を受ける。そして、抗がん剤の治療といずれ骨髄移植が必要だと告げられる。
 そして休職一年が経過した2005年、会社からイ室長(キム・ヒョンジェ)が束草の家にやってきて、休職一年になるので辞職書を書いて貰わなければなりません、と言う。そして小切手を渡すと共に、辞職書を書き、労災申請をしないと約束してくれれば、さらに4000万ウォン差し上げます、という。当惑するサングとジョンイム。だが、いずれ骨髄移植に向けお金が必要だからと、白紙の辞職書にユンミの指紋を押させてしまう。
 闘病生活を続ける姉ユンミを疎ましく思う弟ユンソク。その一方ユンミは会社の対応に疑問を感じネットで検索すると、ほかにジムソン半導体で働いていて白血病にかかった人が他にもいるらしいことを突き止め、父と共に労働福祉公団に労災(韓国では「産業災害[略称『産災(산재)』])申請をすることを決意する。だが、二人の意向を知った会社側は約束した4000万ウォンの代わりに500万ウォンしか渡さず、しかも彼ら家族の周辺に社員の見張りをつけるようになる。
 だが、娘の労災を証明しようとするサング親子に世間は冷たかった。工場のある水原の病院からは協力を断られ、あちらこちらの医療機関や弁護士事務所に電話を掛けまくるものの、韓国随一のジムソンと対決することになる、と聞いただけでどこも門前払い。ただ、労務事務所の労務士ユ・ナンジュ(キム・ギュリ)のみが、うちは医療機関ではないがそれでも良いのかと話を聞いてくれることになった。
 ユンミ、ジョンイムと共に出向くサング。ユンミの話を聞いたナンジュは、これはたいへんな闘いになる。始めるなら途中で降りては困るが、その覚悟があるのかと親子に尋ねる。だが、その場で妻のジョンイムは娘の書いた労災申請書を破り捨ててしまう。それを見てナンジュは、それならジムソンと和解した方が良いと忠告して立ち去る。
 それから数ヶ月後、ユンミの容態の急変に、緊急に病院まで連れて行こうとする父のタクシーの中でユンミはついに力尽きる。
 「アカ」にそそのかされていると噂まで流され、地域で孤立するサング一家。一方ジムスンはサングに労災申請をあきらめさせようと、息子のユンソクを自社にスカウトまでする。そんな中、夫の労災申請に反対していたジョンイムは、残されたユンミの日記を発見する。そしてユンミの思いを知り、夫に対して、「アンタはみんなから『キチガイ(또라이)』と言われているけど、その通りね。でもあいつらに立ち向かうには『キチガイ』でなきゃできないでしょう」とゴーサインを出す。
 こうしてサングはナンジュと共に労災申請に向けて動き出すが、しかし娘の労災申請を証明するのは簡単ではなかった...

 本作品は実際に起ったサムスン半導体労災事件の実話に基づいて作られている。モデルになったのは、実際束草でタクシー運転手をしているファン・サンギ氏とその娘ファン・ユミ氏のエピソードで、脚色されてはいるものの基本的な経過は事実のようである。映画を通してサムスン半導体の労災問題の不正(韓国語で言うところの「非理」)を世間に訴えるという目的で製作されている。脚色に伴って企業名、登場人物名は仮名になっている。

 率直に言って、本作品は映画の出来としては非常にベタ。ファン・ドンヒョク監督の『トガニ』がストーリーラインとしては非常にストレートであったものの、ある種「ホラー映画」の新ジャンルを開拓したといえるほどの卓越した演出力で見せたのに対して、本作品はストーリー構成、演出とも、よく言えば素直。やはり、実話の重みと、パク・チョルミンの熱演で救われた映画であろう。パク・チョルミンは、かつては韓国の竹中直人と言いうるほど、何の役を演じてもパク・チョルミンにしか見えないという感じであったが、最近は非常に渋い演技をするようになり、本作の説得力にも大きく貢献している。

 ただ、映画それ自体の出来はともかく、そこに描かれた内容は非常に重い。結局、彼らは労働福祉公団(実在の団体名は「勤労福祉公団」)に労災申請を行うのだが、予想通り不認定。そこで労働福祉公団を被告に訴訟を起こす。ところが、あくまで被告は公団のはずなのだが、法廷ではなぜかジンソン半導体が被告の「補助人」として認定され(これは公団とジンソンが、ぐるになっている、ということを示している)、結局ジンソンの弁護士と彼らが法廷でやりあうことになる。その結審直前最後の論告の中で、原告側何か言うことがありますか、という裁判長の問いかけに、サングは次のように答える。タクシーの客の中には、酔っ払って金を払わずに逃げる客がいる。そういった客を追いかけて捕まえると、客はたいてい、俺は払った、俺が払わなかった証明をしろ、あんたが詐欺をしようと追いかけてきたのではないか、と居直る。今回の裁判でも、会社側に資料を出せと言うと、企業秘密だと言って何も情報を出そうとしない。そのくせ、我々の側に、勤務と病気との関係を証明しろと要求される、そんな話がどこにある、という話を切々と訴える。まさに乗り逃げの客と同じ構図があるという不条理。
 そして、訴訟の準備中に、彼らは、ジンソン側は作業従事者の中の白血病発症率は一般的な白血病の発症率に比べて著しく高いわけではないと主張するだろう、と予測する。しかし、一般の発症率は、高齢者や障害者を含んだ数字であるが、工場労働者の場合、ある程度健康で若くなければ労働の従事できない訳だから、ある程度若く健康である人との発症率を見ないときちんと労働被害について論じられないはずだ、と指摘する。これも重要な指摘であろう。

 そして、実は安全設備面では完備していたはずの会社でなぜこのような健康被害が起こったかというと、確かに設備は完備していたが、半導体労働者の基本給は月80万ウォンと非常に低く、残りは実績による歩合給であった。その中で労働者間で競争させ、よりたくさん作業をこなせないとそれなりの給料を稼げない構図があって、結局安全確保手順をきっちり踏んでいると作業が遅れ、生産性が上がらない。そのため、労働者は自発的に安全装置を外すなど安全確保手続きを怠り、その結果有害な化学物質に直接接触して健康被害を受けていった、ということが明らかにされる。但し、安全確保手続きの省略はあくまで会社側は指示をしていない。給与体系を通して、自発的に労働者が安全確認を怠ってでも生産性を上げるよう駆り立てているだけだ、という構図が示される。

 さらに、アメリカ企業が半導体生産工場をアジアなどに移転しているのも、半導体労働者が健康被害を受ける可能性がある一方で、被害を防止するのは生産性低下は免れないので、結局汚れ仕事をアジアに押し付けているのだ、という指摘。

 日本ではこのような半導体製造過程における健康被害の話はほとんど聞かないが、仮に日本では真面目に被害防止対策を行っているがゆえに、高コスト体質となり、韓国や中国に負けているとしたら... やはりフェア・トレードという観点から日本におけるものづくりを擁護していくという可能性があるのではないだろうか。

 なお、サムソン側は本映画が事実を歪曲していると主張しているようだが、監督によれば主要場面はすべて事実とのこと2)。例えば映画の中でサングがサムソン(映画の中ではジンソン)工場前で情報提供者を捜すビラをまいていると大型バスが3台取り囲んで、サングを労働者の目から遮断する場面が出てくる。これはサムソン側は事実ではないと主張しているが、監督によれば、音楽が実際はガールグループのものだったのを著作権料の関係からトロットに変更した以外は事実だという。

 ともあれ、社会的問題提起資料としては必見。そして裁判は上告審に移り、依然継続しているという。なお、聯合ニュースの今年8/21付記事では、同日ソウル高裁でも原審と同様、ファン氏ら勝訴の判決を下したようだ1)

 本作品の韓国封切りは2014.2.6。韓国での観客動員数は44万2793人(Cine21データベース)。本作品は投資先を見つけるのに難航し、クラウド・ファンディングで資金を確保して製作された。封切りも、試写会の好評から、当初300館程度上映館を確保できるのではと言われていたが、実際には上映を断られたりポスター掲示を断られるケースが続出。封切り初日はソウルで、ピカデリー一館のみ、他の地方大都市でも郊外館しか確保できず、上映できても、朝一番またはレイトショー上映と言う扱いが多数だったという2)。それでも何とか上映にこぎつけたというのは、やはり韓国社会の変化の表れであろう。

 なお国内では11月に特別上映会が予定されている。特別上映会公式サイトはこちら。
http://jimakusha.co.jp/1yakusoku/

 監督のキム・テユンは1972年6月生まれ。1999年韓国芸術総合学校映像院映画科入学。在学中に短編『捜査班長ツィスト・キム』(2001)『彼女はゾンビ』(2001)等を演出。卒業後『残酷な出勤』(2006)で長編劇映画デビュー。なお、この映画は、先のインタビュー記事によると、本来はノワール映画として企画され、凄惨なラストで終わるはずが、主役のキャスティングが上手く行かず、脇役でキャスティングされていたキム・スロが主役に昇格したため、製作プロダクションの意向に従って急遽コメディ映画に路線を変更して製作され、また編集からも外されて不本意に終わってしまったという。その後『仁寺洞スキャンダル』(2009)原案、『容疑者X』(2012)のシナリオを担当。本作は長編第2作。

1) 「サムソン電子白血病被害者2名控訴審も産災認定」聯合ニュース 2014.8.21(韓国語)
http://www.yonhapnews.co.kr/society/2014/08/21/0702000000AKR20140821114051004.HTML

2) 「死なずにずっと生きているこの映画を見よ」キム・テユン監督インタビュー 2014.3.5 Cine21(韓国語)
http://www.cine21.com/news/view/mag_id/75974

原題『또 하나의 약속』英題『Another Family』監督:김태윤
2013年 韓国映画 カラー 1:2.35 120分

韓国盤ビデオ情報
[DVD]
発行・販売: Art Service 画面: Anamorphic 1:2.35 音声: Dolby5.1 韓国語 本編:115分 リージョンALL
字幕: 韓/英 2014年 7月発行 希望価格W25300
[DL File]
720p 16:9 120分 DRM Free 価格W1000

サムソン半導体労災事件の経過紹介
http://yohnishi.at.webry.info/201409/article_5.html

関連外部ニュース記事
「三星(サムスン)白血病を扱った‘もう一つの約束’英国<ガーディアン>も注目」ハンギョレ・ジャパン 2014.2.6
http://japan.hani.co.kr/arti/culture/16640.html

「三星(サムスン)労働者白血病死亡を扱った映画…‘外圧論難’」ハンギョレ・ジャパン 2014.2.4
http://japan.hani.co.kr/arti/politics/16622.html

「サムスンの主張は間違いだ」ソン・ジンウ(韓国労働安全保健研究所) レイバーネット 2012.02.08
http://www.labornetjp.org/worldnews/korea/issue/samsung/1328755809783Staff/view

「三星(サムスン)、労災認定訴訟の中断を要求… パンオルリム "対話とは別"」ハンギョレ・ジャパン 2013.1.22
http://japan.hani.co.kr/arti/politics/13849.html

サムソン白血病労災事件のあらましについては以下のインタビュー&追加取材記事が詳しい(すべて韓国語)
「死んでいく娘にサムソンは白紙辞表を要求した -ファン・ユミそして6年(1)」Pressian 2013.3.5 (韓国語)
http://www.pressian.com/news/article.html?no=40510

「'グローバル'サムソン、6年の血の涙をぬぐってくれるか -ファン・ユミそして6年(2)」Pressian 2013.3.6
http://www.pressian.com/news/article.html?no=40511

「イ・ゴンヒと対決したタクシー運転手実話、上映されるか -ファン・ユミそして6年(3)」Pressian 2013.3.6
http://www.pressian.com/news/article.html?no=40519

「死の半導体、サムソンだけ問題? アップルは? -ファン・ユミそして6年(4)」Pressian 2013.3.6 (韓国語)
http://www.pressian.com/news/article.html?no=40521

「サムソンが目をつぶる母の影と追憶を消す男 -ファン・ユミそして6年(5)」Pressian 2013.3.19 (韓国語)
http://www.pressian.com/news/article.html?no=108661

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「アップルの中国工場に各種基準違反、調査団体が指摘」AFP日本語版 2014.9.5
http://www.afpbb.com/articles/-/3025085?blog=webryblog

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