yohnishi's blog (韓国語 映画他)

アクセスカウンタ

zoom RSS 『ソウォン(願い)』 - 子供が性暴行の被害にあった家族の姿を描く韓国映画

<<   作成日時 : 2014/01/06 00:25   >>

なるほど(納得、参考になった、ヘー) ブログ気持玉 2 / トラックバック 0 / コメント 0

画像 そこそこ観客数を集めたものの投資額が大きくペイしなかった『平壌城』の後、商業映画引退宣言を行っていたイ・ジュニク監督の復帰・最新作。児童強姦事件の被害者家族を描いた作品。題名は子供の名前と、それから「願い」という意味の掛け合わせから。

 慶尚南道、昌原(チャンウォン)に住む工員ドンフン(ソル・ギョング)は、「ソウォンスーパー」という名の万屋を営む妻ミヒ(オム・ジウォン)、そして小学生の娘ソウォン(イ・レ)の三人の平凡な家族。ドンフン一家は、同僚クァンシク(キム・サンホ)、その息子ヨンソク(キム・ドヨプ)、その母(ラ・ミラン)と家族ぐるみのつきあい。ヨンソクとソウォンは同級生であり、ミヒはヨンソクの母とPTAを通しても親しくしている。
 だがある雨の日、ヨンソクに遅れて学校に出かけたソウォンは酒に酔って落ちた凧を拾っていたおかしな男に出会う...
 やがて、ドンフンの携帯電話に警察から「娘さんの身に大変なことが起こり病院に移送されている」との連絡が。慌てて病院に駆けつけるドンフンとミヒ。病院側の、腹部がえぐられ腸が露出している状態で、人工肛門をつければ助かるかも知れない、だが一生そのままで過ごすことになるだろうとの説明に、ただドンフンは「娘を助けて下さい」と言うしか選択肢がなかった。

 緊急手術の結果、何とか一命を取り留めたソウォン。面会に行ったドンフンに、今話さないと忘れてしまうかも知れないと、必至に犯人像を伝えようとするソウォンに、無理をするな、警察のおじさんが必ず犯人をつかまえてくれるから、と声を掛けるドンフン。
 やがて、警察から連絡があり、現場から指紋や犯人のものと思われる血液が検出されたとのこと。だがほぼ犯人像が固まったというのに、警察は一向に逮捕しようとしない。逮捕を急くドンフンに、刑事は、監視カメラの映像など決定的証拠がないと逮捕令状が出ないという。そしてソウォンの証言があれば令状が下りるかも知れないとの言に、ドンフンは、ソウォンは犯人逮捕を望んでいた証言をさせようという。しかし母のミヒは、娘の精神的衝撃を考え承諾しない。そして両親二人の承諾がないと証言は取れないという。ドンフンの強引な説得によって、渋々証言を取ることを認めるミヒ。
 そしてカウンセラー・ジョンスク(キム・ヘスク)の立ち会いの下、ソウォンの証言が撮影され、犯人は逮捕されことになる。だが、そのことはドンフン一家がマスメディアの視線に晒されることを意味したのだった。ドンフンは休職を余儀なくされ、さらにソウォンの医療費の負担が膨らむ中、ドンフンはソウォンに嫌われてしまう...

 本作品は、2008年京畿道安山で起こったチョ・ドゥスン児童強姦事件がモデルになっていると目される。本事件は手口の残忍さ、その割には刑期が軽かったことが多くの社会的批判に晒され、児童性暴行前歴者情報公開等、児童性暴行防止対策が取られる契機となった事件1)。昨年にはやはり社会的に大きな話題となった密陽集団強姦事件をモデルに映画『ドンド・クライ・ママ』が撮られ、公開されている。
 本作では舞台が昌原に移され、また実話を元にしている云々というクレジットもないので。基本的にフィクションと考えるべきだが、被害者の少女が下腹部に生涯治すことのできないひどい傷を負ったこと、犯人が強姦の累犯者であり、犯行当時ひどく酒に酔っていて、心神耗弱が認められ懲役12年という比較的軽い刑で判決を受けたことなどは、実際のチョ・ドゥスン事件と一致する。

 本作品は、さすがイ・ジュニク作品だけのことはあり、観客を終始引きつけて放さない。事件自体は陰惨であり、腹立たしい話ではあるが、単純に暗い話が続くのではなく闇の中の一灯、喜びや感動をも巧みに浮き彫りにしている。イ・チャンドン作品をもっと前向きにしたような趣と言うべきか。
 児童性暴行被害家族にとってその精神的打撃は非常に大きい。そしてその衝撃をある程度共感を持って伝えることに成功している。しかし本作品は悲惨さをただ提示するのではなく、そのような被害者家族の精神的衝撃を緩和していくための社会的支援の様々な可能性も提示される。例えば、最近の日本の場合、児童に精神的衝撃の大きな事件が発生すると、その現場に精神カウンセラーが派遣されるようなシステムが整備されつつある。本作品を見る限り、韓国でもそのような仕組みはある程度あるようなのだが、だがそのような精神的衝撃の緩和は、「制度」や「システム」が整備されさえすれば救われる、という訳ではないことも本作品の中に描かれる。
 例えば、ドンフン一家は事件発生ソウォンの証言を取るため、警察から「ひまわり児童センター」の精神カウンセラー、ジョンスクを紹介される。証言後、ジョンスクから、このような事件が起こった場合は、時には家族全員の心の治療が必要になるかもと、名刺を渡されるのだが、素直に受け取ろうとするドンフンに対しミヒはそれに反発して突き返す。
 最終的にはミヒはジョンスクを受け入れるのだが、それはジョンスクがこの仕事を始めたのが、彼女の娘が強姦され、後にそれを娘が苦にして自殺するという経験があったからだ、ということを知ってからであった。もちろん、精神的カウンセリングを受けるのも無料ではない。しかしドンフンが着ぐるみを借りたいとセンターに申し出たとき、センターの職員がドンフンの経済的苦境を知って、特別に無料で貸与することを承諾した。
 そして、クァンシク一家も、大変な精神的打撃に遭ったドンフン一家を果たして救うことが出来るのだろうかと悩みながらも、いささかお節介かつ差し出がましくドンフン一家に手をさしのべようとする。時にそのお節介は、所詮クァンシク一家にとって他人事でしかない、とドンフンに感じさせクァンシクに怒りを爆発させることもある。それでも懲りずに、時に感情的にぶつかることも恐れずお節介に手をさしのべようとするクァンシク一家の態度が、ドンフン一家を救うことにもなるのである。

 実際のチョ・ドゥスン事件の被害者家族がこのような精神的支援を地域コミュニティから得られたのかどうかは分からない。しかし日本だったら、その周辺の人たちは、きっとなまじっかな支援はかえって被害者家族の心を傷つけることになる、感情的な対立を起こしてしまうかも知れないとの「配慮」から、何もせずに見守る、という態度に出るのではないだろうか。あるいはそもそも、時にお節介なこのようなサポートコミュニティが崩壊しているのではないだろうか。
 日本で凶悪犯罪が起こったとき、すぐ厳罰論がわき上がってくるのも、日本の「高度配慮」社会の逆説、もしくは何かあったときその人をサポートしてくれるような身近なコミュニティの崩壊の反映なのではないかと思わされる2)。お節介サポートネットが崩壊しているからこそ、何かシステム的な対応が求められざるを得ない... その反映なのではないだろうか3)。

 という訳で色々考えさせられる映画であった。推薦。

 本作品は2013年10月2日韓国公開。韓国での観客動員数は2,710,944人(KOBIS 2013年12月中旬データ)。脚本は『隣人の犯罪』キム・ジヘ、『ブルー』『麻婆島』等のチョ・ジュンフン、撮影は、長編は初めてのキム・テギョン。第34回青龍映画賞 最優秀作品賞、脚本賞、女優助演賞(ラ・ミラン)受賞。国内では「ダマー映画祭 in ヒロシマ2013」にて2013年11月上映。アット・エンタテインメントの配給により本年中の劇場公開が予定。

1) 本事件の詳細は、Wikipedia韓国語版「チョ・ドゥスン事件」の項参考。
http://ko.wikipedia.org/wiki/%EC%A1%B0%EB%91%90%EC%88%9C_%EC%82%AC%EA%B1%B4

2) もっとも映画の中でもドンフン一家は犯人に対する懲役12年という量刑に決して満足している訳ではない。

3) 因みに韓国の公共交通機関の中で、老人に対する気遣いというのは、日本より遙かにある。ただその理由は、私の考えでは、韓国が儒教社会であるとか、韓国人の方が公徳心が高いから、ということよりも、バスの運転が非常に粗いので、物理的に年寄りが立って乗るのがそもそも不可能、という事実によってこのような「公徳心」が維持されているのではないかと考えている。逆に日本では老人でも立って乗れるような高い配慮が為されているシステムの逆説として、若者が年寄りに席を譲らないのではないだろうか。
 なお、アメリカ保守主義者に多い、「大きな政府」への警戒論は、このようなシステム的整備が、社会の自治力や自律モラルを破壊するという発想、警戒から来ていると思う。こういうアメリカ保守主義者的発想からいえば、日本のような行き届いたシステム社会(それにより人びとの自律力が低下した社会)よりは、社会システムが穴だらけで人びとの自発的な相互扶助が求められる韓国社会の方が望ましい社会、ということになる。
 だが、問題は今日のグローバル化し、巨大な社会分業によって組織化された社会が、最早人びとの自発的な相互扶助で繕いきれるのかという点、さらに、いい加減な社会システムを放置しておけば、必ず人びとの自主的で自立的な秩序が自生しうるのか、ということになるのではないか。
 

原題『소원』英題『Hope』監督: 이준익
2013年 韓国映画 カラー 1:2.35 122分

「ダマー映画祭 in ヒロシマ2013」イ・ジュニク監督トーク採録
http://www.damah.jp/info/sowon/

関連記事
『カシコッ(いばら)』 - 強姦の痛みを異色の視点から描く韓国インディー映画
http://yohnishi.at.webry.info/201312/article_11.html

2014.7追記
『ソウォン』 2014.8.9より国内一般劇場公開予定 公式サイト
http://hopemovie2014.com/

テーマ

関連テーマ 一覧


月別リンク

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!
ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。
→ログインへ
気持玉数 : 2
なるほど(納得、参考になった、ヘー) なるほど(納得、参考になった、ヘー)

トラックバック(0件)

タイトル (本文) ブログ名/日時

トラックバック用URL help


自分のブログにトラックバック記事作成(会員用) help

タイトル
本 文

コメント(0件)

内 容 ニックネーム/日時

コメントする help

ニックネーム
本 文
『ソウォン(願い)』 - 子供が性暴行の被害にあった家族の姿を描く韓国映画 yohnishi's blog (韓国語 映画他)/BIGLOBEウェブリブログ
文字サイズ:       閉じる