yohnishi's blog (韓国語 映画他)

アクセスカウンタ

zoom RSS 神風特攻隊とイスラム「自爆テロ」をつなぐもの (2)

<<   作成日時 : 2013/09/16 08:28   >>

なるほど(納得、参考になった、ヘー) ブログ気持玉 1 / トラックバック 0 / コメント 0

 そこで、先日からカミカゼとイスラム「自爆テロ」の関連を探していた。もちろん日本語の文献は期待できないので、英語で何かないかとGoogle Scholarをあさっていたところ、こんな論文を捜し当てた。

 「正義のための死」、著者はパリ大学心理分析・医学・社会研究センター教授(精神病理学)のベンスラマ(Fethi Benslama)教授である 1)。この人はチュニジア科学アカデミーの会員だそうで、チュニジア人もしくはチュニジア出身のフランス人のようである2)。

 この論文のテーマは、元々自殺攻撃という意味を含んでいなかったイスラム圏の「ジハード(聖戦)」という概念が、如何に自殺攻撃という意味を含むようになったのかという分析である。

 まずはじめに、彼はエルンスト・カントロヴィッチ3)の議論を引きながら、聖戦、あるいは殉教者概念はイスラム圏特有ではなく、キリスト教圏にもあり、それが20世紀初頭如何に宗教的聖戦から祖国への聖戦へと概念が変化し、第1次、第2次世界大戦の厄災につながったかを論じる。

 その上で、今日(つまり自殺攻撃時代)イスラム圏で使われる「ジハード」の概念の中には、「ムジャヒード(戦士)」と「シャヒード(殉教者)」が同義で使われるようになっているが、本来のイスラム圏の文脈では二つが結合することはなく、むしろ「殉教者」は意図せざる死、イスラムを迫害するものに対して、無抵抗でその身を投げ出し抗議して、その結果相手によって殺されてしまった場合を指すのであり、意図的に「殉教者」になること、つまり殉教を志願することはできなかったことが指摘される。

 しかし、全く自殺攻撃が存在しなかったイスラム圏に初めて「カミカゼ」攻撃が現れたのは1972年の日本赤軍によるテルアヴィヴ空港乱射事件、そしてムスリムによる初の「カミカゼ」攻撃は、その10余年後、イスラエル南レバノン侵攻時、1983年ヒズボラによって行われたもの。

 この1972年の日本赤軍から1983年のヒズボラによる攻撃に至る間に、ジハード(聖戦)概念の次のような転換が行われたという。

 まず「カミカゼ」攻撃が受容されているのはイスラム教少数派のシーア派のみである4)。そしてシーア派で「カミカゼ」が受容されているのは次のような歴史的背景がある。現在多数派であるスンニ派とシーア派の違いとは、イスラムの開祖ムハンマド(マホメット)の正当な後継者として誰を認めるかというところで分岐した。後にスンニ派となったグループは聖職者達の集団指導体制を正当化したのに対し、後にシーア派となったグループはムハンマドの直系子孫を正当な後継者として認めたグループ。結局この見解の相違が血で血を争うこととなり、ムハンマドのいとこで義理の息子(女婿)アリとその子(孫)フセインはこの闘いの中で惨殺された。
 この時孫のフセインは敵により八つ裂きにされて殺されたという。このフセインの体が八つ裂きにされたという事実が、「カミカゼ」攻撃により自分の体が八つ裂きにされることとオーバーラップする。そしてこの時この闘いのあったコウファという町の人々はフセインの支援を約束したにもかかわらず、敵がやってきたとき援軍を送らずフセインを見殺しにしてしまったという。そしてシーア派の人々とはムハンマドの孫を見殺しにしたという原罪意識を共有しているのだという。

 この原罪意識を背景に「ジハード」を「カミカゼ」と結びつけるイデオロギー的理論化を行ったのが、イランの社会理論家であるアリ・シャリアティ(Ali Shariati: 1933-1977)である。シャリアティは、パリ大学ソルボンヌ校で社会学の博士号を取り、イスラム教とマルクス主義を結びつける理論化を行うと共に、フランツ・ファノンのアラブ圏への紹介者、「赤いシーア主義」の創始者としても知られる5)。彼の主張の概要は次の通りである。

1. フセインは殺されると知りながら闘いに赴いたことは、「殉教志願者(イスティシャディ)」だと解釈できる。

2. シーア派は、フセインを見捨てた者の子孫として、集団的に罪を負うだけではなく、個々人もその罪を負うべきである。この彼の主張によりフロイドのいう強迫観念に似た、集団的自己犠牲強迫観念の「個人化」が進んだ。

3. 従って革命的シーア派人士は、原罪を皆と共有するだけではなく、フセインと一体化し、彼の殉教への志願をなぞる(ことで罪をあがなう)べきである。そしてフセインの犠牲を記憶するだけでなく、新たに再生産すべきである。

 このシャリアティの理論化に基づいて、ヒズボラは「自爆テロ」を組織化していったのだと筆者は主張する。そしてヒズボラにより「殉教志願者(イスティシャディ)」は「シャフィ(仲介者)」の役割がオーソライズされた。「シャフィ」とは、アラビア語で「容赦」「恩赦」という意味から来た語である。それは、ある者に代って、その者の罪や呵責に対する神(恐れ多い者)の恩赦を仲介する(乞う)第三者である。つまり、殉教志願者は、その身を自ら滅ぼす(フセインの受難を再生産する)ことで(つまり自爆攻撃をすることで)、親兄弟やコミュニティの罪、原罪への恩赦を乞い、彼らの代わりに神の罰を受けるのであると、ヒズボラによってイデオロギー化されたのであるという6)。
 もちろん言葉やイデオロギーだけで人は自爆攻撃をする訳ではない。しかし「殉教志願者(イスティシャディ)」という言葉が創作されなければ、それまでのイスラム歴史上全く未知であった自殺攻撃にムスリム達が赴くこともあり得なかった、と筆者は論じている。

 ここで、日本人にほとんど知られていない議論としては、イスラムの「カミカゼ・アタック」が基本的にイスラム少数派であるシーア派に限られているということであろう。おそらく、イスラムでは多数派である、敬虔なスンニ派ムスリムは自殺攻撃に赴くことはないのである7)。
 なるほど、このような議論に接してみると、シーア派のイラン革命政府が、日本に対して極めて友好的なのも非常に納得がいく(なのに、日本はアメリカの尻馬にくっつくことしか考えておらず、彼らの「好意」を全く活かせていない)。私たちが、神風特攻隊の犠牲者に思いをはせるとき、彼らの世界的な、9.11にも及ぶ影響にも思いをはせることが必要だろう。


1) Benslama, Fethi (2009) Dying for Justice. "Umbr(a): Isram".2009. Center for the Study of Psychoanalysis and Culture University at Buffalo, State University of New York. pp. 13-23 掲載誌"Umbr(a)"は無意識に関する年刊専門誌(英語)。なお本論文は以下の仏文論文の英訳らしい。
Benslama, Fethi (2008) « L’agonie pour la justice », Topique, n° 102, pp. 71-82, 2008.

2)パリ大学ディデロ校、心理分析・医学・社会研究センターのディレクトリ参照
http://www.crpm.univ-paris-diderot.fr/spip.php?article90

3) エルンスト・カントロヴィッチはユダヤ系ドイツ人の歴史家。邦訳に『祖国のために死ぬこと』(甚野尚志訳)みすず書房 また解説書に『カントロヴィッチ -ある歴史家の物語』アラン・ブーロー著, 藤田朋久訳, みすず書房がある。

参考: Ernst Kantorowicz (Wikipedia英語版) ※日本語版記事もあるが記述が少ない
http://en.wikipedia.org/wiki/Ernst_Kantorowicz

4) 「ヒズボラ」とはアラビア語で「神の党」という意味である。ヒズボラは、イスラエルによる南レバノンへの侵攻への対抗として1982年6月に、軍事部門を含んだレバノン・シーア派政治宗教運動として創設された。なおシーア派は全イスラム人口の15-20%程度の少数派である。

5) この場合の「赤い」は殉教者の血とマルクス主義の二重の意味がある。なお、彼は危険人物としてパーレビ朝時代の秘密警察に抹殺されたとも噂される。

参考: Ali Shariati (Wikipedia 英語版)
http://en.wikipedia.org/wiki/Ali_Shariati

6) これは、イエス・キリストが人々の原罪をすべて背負って代わりに神の罰を受けたことで、衆生を救ったという発想と似ていると私は思う。もちろん、キリストは自爆攻撃をした訳ではなく、迫害者によって殺されたのであって、伝統的な「殉教者」の概念に留まることは言うまでもない。

7) 逆に元々スンニ派ムスリムであっても、世俗的、西欧的なムスリムが、何らかのきっかけでイスラム回帰した時に、過激なシーア派イスラム思想に染まってしまうことは十分あり得ることである。むしろ元々敬虔なスンニ派ムスリムの方が穏健である可能性が高いのではないか。
 9.11実行犯の多くが、一旦西欧留学などを経験した者が多かったのも、その理由からであろう。

前回記事
http://yohnishi.at.webry.info/201309/article_9.html


▼ベンスラマ論文の入手はこちらから


▼関連: カントロヴィッチ文献

テーマ

関連テーマ 一覧


月別リンク

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!
ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。
→ログインへ
気持玉数 : 1
なるほど(納得、参考になった、ヘー)

コメント(0件)

内 容 ニックネーム/日時

コメントする help

ニックネーム
本 文
神風特攻隊とイスラム「自爆テロ」をつなぐもの (2) yohnishi's blog (韓国語 映画他)/BIGLOBEウェブリブログ
文字サイズ:       閉じる