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zoom RSS ヤン・ヨンヒ著「兄 かぞくのくに」

<<   作成日時 : 2013/08/07 22:59   >>

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ヤン・ヨンヒ,2012,『兄 かぞくのくに』小学館
 ヤン・ヨンヒ監督の自作の映画『かぞくのくに』に関するコメントに、映画で描ききれなかったことは本に書いたとあったので読んでみた。

 映画『かぞくのくに』や『Dear Pyongyang』を見て、個人的に一番知りたかったことはなぜ兄たちが北朝鮮に渡ったのか、ということだった。彼らの兄たちが北朝鮮に渡った時期(1970年代前半)には、既に北朝鮮が決して「楽園の国」などではないことは、在日朝鮮人コミュニティにある程度知れ渡っていたはず。私としては、朝鮮総連地方幹部として、同胞を大量に「北送」してしまったことに責任を感じていた父親が、敢えて自分の息子達を送ることで罪滅ぼしをしようとしていたのでは、と推測していた。

 本書を読んで印象的だったのは、ヤン・ヨンヒ監督の家庭が伝統的な朝鮮人家庭であり、家父長的で父親に逆らえない雰囲気の家庭だったこと(にもかかわらず、父親はヨンヒに対してだけは例外的にべた甘だったという)。
 このような環境下、さらに日本社会全体が、在日にとって未来が閉ざされている雰囲気の中で(この閉塞感に対する最初の突破口となった朴鐘碩[パク・ジョンソク]さんの日立就職差別闘争裁判の結審は1974年だった)、ついうっかり将来は建築家になりたいので北朝鮮に帰ってみたいと口走った次兄、そしてついそれに同調してしまった三兄。だがその朝鮮学校における「模範家族」のその発言は周囲を驚喜させ、あっという間に引き返すことの出来ないジェットコースターに乗せられてしまった、ということだった。「帰国」直前にはやはり日本に残りたいとも漏らしていたともいう。おそらくは父親も北に渡った仲間に対しこれでメンツが立つと喜んだことだろうし、父親に逆らえない家族では面と向かって取り消して欲しいとも最早言えなかったことだろう。

 次兄、三兄は「自己責任」だったとしても、当時北朝鮮で禁じられていたクラシック音楽愛好家の長兄の場合は悲惨だった。朝鮮大学在学中に、金日成還暦祝いの「人間プレゼント」として北送されてしまったのだ。当時「帰国」が奨励された中でも長男は免除するという慣例があったらしい。にもかかわらず、総連の中でも済州出身者は潜在的反抗者と見なされ差別されるという構図があったようで、彼らは総連の中でも出世しても地方の副委員長止まりと言われていたそうだ(そしてヤン・ヨンヒ監督の父親もその通りになった)。父親は何とか長兄の北送を阻止しようと密かに奔走したらしいが叶わなかったという。

 済州四・三事件のため、熱心な総連支持者が多かった筈の済州出身者コミュニティ。それにもかかわらず、本国における差別構造が維持され、総連内で差別されるという皮肉(あるいは済州出身者コミュニティには、総連=日本共産党友好時代に、親日本共産党勢力、あるいは活動家が多く、総連/日本共産党決別後、不穏分子扱いされていたのかもしれない)。

 ヤン・ヨンヒ監督自身、学生時代に出来た恋人が、日本の大学に進学しながらも学生時代ににカミングアウトし、総連の活動にも携わった(おそらく父親も気に入ってくれるだろうと本人は思っていた)にもかかわらず、恋人が母子家庭出身で母親が障害を持っていると(差別に反対していた筈の)父母から反対されるという矛盾を経験している。もっとも、差別される者こそ最も差別的であるという逆説は良くある話だ。
 それともう少し父親の側に立って考えると、とにかく文字通り目に入れても痛くないほどかわいがっていた娘に恋人が出来たこと自体が大きなショックで、とにかく反対する理由として手当たり次第挙げてみたのが、たまたまそういう理由だったのかも知れないのではあるが(とはいえ、そういう理由が挙がってしまうこと自体、やはり自身もある程度差別的であったことは間違いないだろう)。

 また、三兄の日本一時帰国の際、映画のように監視員は家の前まで付いてくることはなかったにせよ、でもやはり監視員が付いてきたことは事実のようだ(同時に日本の公安にも監視されていたようだ)。

 とはいえこの三兄弟は、北朝鮮で、日本の仕送りに辛うじて支えられている生活を送っているにもかかわらず、それでも今の北朝鮮の中で極めて恵まれた例外的な生活を送れている(/た)のは間違いない。特に三兄は中国にも出入りできる例外的なエリートである。次兄も、決して出世頭ではあり得ないものの、曲がりなりにも建築関係の仕事に北朝鮮で就けている。亡くなった長兄にしても、職場から彼の病気に対して理解が得られていたという。

 ともあれ、映画を見て色々考えさせられた方には本の方も一読を勧めたい。

ヤン・ヨンヒ監督『かぞくのくに』
http://yohnishi.at.webry.info/201305/article_7.html

ヤン・ヨンヒ インタビュー(アジアプレス)
http://www.asiapress.org/apn/archives/2012/08/06124951.php





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