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zoom RSS マルクスと「さよなら! 僕らのソニー」

<<   作成日時 : 2013/07/26 22:48   >>

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 既にストリンガーも退任し、いささか古いのだが、3年前に書かれた立石泰則「さよなら! 僕らのソニー」(文春新書, 2010)。もっともストリンガーが退任したとはいえ、ストリンガーの子飼いだった平井一夫氏がCEOでは、ソニーの復活も期待薄か。

 本書は、ものづくりのソニー、新たなエレクトロニクス製品を生み出していたソニーが、グローバル経営の中でかつて得意としたエレクトロニクス製品を、コンテンツを売り出すための儲からない道具と、如何に格下げしていったか、その中でかつてのソニースピリッツを以下に失っていったかを、外部からの取材で克明に描いたルポルタージュ。

 とはいえ、立石氏は自ら書いている。「ハード軽視のストリンガー体制に失望するエンジニアの不満の声も分からない訳ではない。しかし彼らは、そのような感情が自分たちが『日本から』、そして『エレクトロニクス事業から』SONYを見ていることに起因するものであることに気付かない」」(同書287-8ページ)。
 立石氏は、自らの感慨は所詮「グローバル経営」の中では、感傷に過ぎないと見なされることを良く自覚している。事実ストリンガーが見ていたように、デジタル家電はコモディディと化し、儲からなくなっている。それは歴史的必然なのか、それともストリンガーによる「予言の自己実現」1)なのかは分からない。少なくとも言えることは、ストリンガーも十分「正しかった」と言いうることだけは事実である。

 ただ、立石氏の「感傷」を思うと、改めてマルクスの慧眼ぶりが想起されるのだ。マルクスは資本論の中で、資本制生産において、生産/ものづくりが、本来のあり方である、ものを消費するために行われるのではなく、作ったものを商品として販売し儲けるために、資本を拡大するために行われるという本末転倒(マルクスの用語ではフェティシズム[物神崇拝])を繰り返し批判的に指摘した。その指摘には、生産資本の社会性の捨象も含まれていた。
 このマルクスの考え方を援用すればこうなるだろう。消費するためにものを作るなら、使うためにものづくりがあるなら当然そこにものに対するこだわりやその社会性がある。しかし商品として販売し儲けるためにものをつくるなら、そこでは如何に儲かるかが重要なのであり、如何によいものを作るかというものづくりへのこだわりや、その社会的意義付けは二の次、三の次になってしまう。
 もちろん、資本制生産においてものづくりへのこだわりが全面的に否定される、と考えるのは短絡に過ぎる。しかし、ものづくりへのこだわりが、それが如何に利益を生むか、如何に会社の株価を押し上げるかという文脈でしか評価されない、ということは明確である。時にものづくりにこだわるよりも手っ取り早く利益が上がる方策があれば、「合理的な発想」の下では当然、そちらが優先されても仕方がない。立石氏の思いは、既にマルクスによって予言されていたのだ。

 資本制社会を前提とするならば、立石氏のソニーへの思い入れは所詮「感傷」に過ぎないことは、立石氏自身良くわかっている。だから私たちは「さよなら! 僕らのソニー」と心の中で小さく叫ぶことしかできない... それはちょうど高度経済成長時代、「自然を守れ」と叫ぶことが、経済的に無意味な感傷に過ぎないと片付けられてきたように...

 逆に言えば、井深、盛田のような、時に売り上げやシェアを度外視してのものづくりへのこだわりや、社員の士気を重視した会社運営は、ある種のコミュニズム(共同体主義/共産主義)以外の何物でもなかった。そういう自覚が今必要なのではないだろうか。
 マルクスだって資本制社会の中で、社会の中の構成員たる労働者が資本の道具としてこき使われ、彼らが属していたコミュニティが解体されるのに抗して、弁証法的なコミュニティの再生を夢見た... それこそがコミュニズムであったのだから。

1) 社会学者、R.K.マートンの概念。「予言の自己成就」との訳語が当てられることもある。例えば大阪大学入江幸男氏の解説(http://www.let.osaka-u.ac.jp/~irie/kougi/kyotsu/1999/9902prophecy.htm)を参照。

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「日本人技術者争奪戦とは言うが... 」 2012.2
http://yohnishi.at.webry.info/201202/article_5.html



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