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zoom RSS ヤン・ヨンヒ監督『かぞくのくに』

<<   作成日時 : 2013/05/25 07:44   >>

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画像 在日朝鮮人であるヤン・ヨンヒ監督初の長編劇映画。北朝鮮から一時帰国した兄を迎える家族の顛末を描いた作品。

あらすじはこちら。
http://movie.walkerplus.com/mv49398/

 冒頭1997年 月というテロップが妙に具体的。これはひょっとするとヤン・ヨンヒ監督の実体験に基づく作品ではと思わされるが、まさしく、ネット上にあったヤン監督のインタビューを見るとその通りであるようだ1)。

 舞台こそ、大阪が東京は千住・三河島地区、家族の姓はヤン氏がユン氏に、そして朝鮮総連の名前も仮名に変わってこそいるが、非常にリアル。日本政府が特別措置としてビザを出す、という話もこれも非常にあり得る話だ。
 因みに、大阪、猪飼野地区と東京、千住・三河島地区はいずれも済州島出身者の集住地として有名。さらにヤン・ヨンヒ監督の姓である梁(ヤン)、ならびに高(コ)は、済州島出身者に特有の姓である。済州島には必ずしも元々共産主義者が取り立てて多かったわけではない。しかし、済州4.3事件で韓国政府から弾圧を受け、多くの住民が虐殺されたため、そこから日本に逃れてきて、韓国政府への恨みから朝鮮総連の熱心な支持者になった人々が多かった。
 済州島と韓国本土との関係はちょうど沖縄と日本本土と同様の関係にあり、沖縄に独自の言語 (琉球語=うちなーぐち)があるように、済州島にも、韓国語とは近縁であるが独自の済州語が存在し独自の文化を持っていた。
 済州島にも、土地問題から共産主義に走った者はある程度の数はいたであろうが、それは他の韓国本土と事情は同じだったはず。それにもかかわらず済州島の住民が虐殺の対象になったのは、ちょうど、第二次大戦中、沖縄決戦末期に、日本軍が、日本人(ヤマトンチュ)の分からない琉球語を話す琉球人(ウチナンチュ)がアメリカ軍に内通するのを恐れて集団自決をさせたのと同様な事情であろう。

 映画のストーリーは非常にシンプル。病気治療のため、父親が朝鮮総連の最高レベルの幹部という特権を持ってしても、5年越しの申請の末ようやく日本への3ヶ月の滞在が認められた兄が、結局、再び北朝鮮政府の気まぐれな命令で、治療を受ける暇もなく突然帰国させられるという顛末を描いたもの。
 ただ、朝鮮総連の最高レベルの関係者であれば、5年越しとはいえ、一時的に北朝鮮から日本に帰国できたということ、そして日本政府も特別ビザを出していたという事実はタブーに近い話であろうことは想像に難くない。フィクションの形を取ったとはいえ(またフィクションという形を取らなければ描くことは不可能だったろう)、よくぞ描いたと思わされる。ただこのあたりのヤン・ヨンヒ監督の覚悟の重みを理解できる人は今の日本にどれほどいるだろうか?

 なお、下にURLを記したぴあのインタビューによれば、ヤン・イクチュンが演じたような家の前までべったりつく監視人の存在はフィクションだそうだが、付添人は本国から実際に来たそうだ。

 ヤン・ヨンヒ監督の以前の作『ディア・ピョンヤン』などを見ると、ヤン・ヨンヒ監督の父親が、兄たちを北朝鮮に送ったのは、たしか70年代に入ってから。このころ既に在日朝鮮人社会では、北朝鮮が決して「地上の楽園」などではないことは既に知られていた。おそらく、彼女の父親がこの時期にあえて兄たちを北朝鮮に送ったのは、既に自分が朝鮮総連幹部として多くの同胞を北送してしまった失敗、罪に対する、彼なりの責任の取り方だったのだろう。そして、彼が日本で稼いだ金を、自分が北送してしまった仲間たちを支えるために必死に送金していたのも... あるいは噂を息子の目から検証させようとしていたのか...

 だから監督の父親は、娘からの父親の信条に対する批判を待つまでもなく、誰よりも自分の罪を自覚していたし、娘の批判の言葉は内心ぐさぐさと自分の胸に刺さっていたように思う。

 そしておそらく、映画にも描かれる監督の父親の信条に対する批判は、このときまではよくある娘の父親に対する反発を半分含んだものであっただろう。しかし、おそらくこの事件をきっかけに、北朝鮮に体制に対する全面的な不信感と批判に転化したものと思われる。

 決して声高に叫ぶわけではなく、シンプルで淡々と出来事が描かれる分、それだけそのことの重みが伝わり、あぁ、そうだったのか、と思わされるが、先も言ったように、そのことの重みや意味が理解できる人間が今の日本に一体どれほどいるのだろうか。

 因みに、井浦新、安藤サクラ、津嘉山正種らは在日朝鮮人を演じて違和感がない。顔立ちが弥生系(朝鮮半島からの渡来人系)だからだろう。但し母親を演じた宮崎美子には激しく違和感。彼女の顔立ちは縄文系色が濃く朝鮮人には見えない。

 鑑賞媒体はレンタル版DVD。日本盤らしく、ローパスフィルターがかなりかかっており、ゴーストも明確。ただ遠景は少ないので違和感は比較的少ない。


1) 「 映画「かぞくのくに」ヤン・ヨンヒ監督インタビュー」(ぴあサイト 2012.8.10更新)
http://www.pia.co.jp/chubu/starcat/ent/1208073.html

P.S.
ところで、ネットを見ていたら、「『かぞくのくに』上映打ち切りを要請します」というブログを書いている方がいた。このブログでは、

「監督自身の兄が共和国に帰国していることを基に作られたフィクションということだが、フィクションを用いた部分が、ひどい。
映画の中で兄が「病気治癒を理由に日本に一時戻るが、共和国が中途で何の説明もなくそれを妨げた」という部分は、捏造されているそうだ。
実際の彼女の兄達は日本に帰還したことなどない、と聞いている(違っていたら、ごめんなさい!)
行ったこともない国のことを想像で残酷性を描写しただけのこの映画は、「北朝鮮=悪」としたい輩にとっては、かっこうの題材として利用されるだろう。」

とある。

 もちろん、書き手の方が言うように「実際の彼女の兄達は日本に帰還したことなどない」のだとすれば、ありもしない事実をねつ造して、北朝鮮への憎悪を煽って、日本に暮らす朝鮮人が脅威に晒す悪意ある映画という評はその通りだろうし、在日へのヘイトスピーチが大手を振ってまかり通るようになったこの国で、この方の心配は良く理解できる。また、ヤン・イクチュン演じるフィクションの人物への違和感はその通りだろう。
 ただ、監督インタビューを見る限り、彼女の兄は日本に一旦帰国し、理不尽に帰されたというのは事実であるようだし、また、ヤン・ヨンヒの今までのドキュメンタリーを見れば、彼女が「行ったこともない国のことを想像で残酷性を描写しただけ」という指摘も誤りであることは明らかである。

 ヤン・ヨンヒ監督の家族は明らかに総連の中で相当な特権層であり、度々北朝鮮へ訪問することも出来、そして非特権層には到底不可能な、北朝鮮へ渡った家族の日本呼び寄せも、1回ぐらいは可能なのだ。
 一方、日本の周囲の無理解の中で朝鮮民族としてのアイデンティティを保持しつつ、北朝鮮を支持する非特権層・一般の在日朝鮮人にとっては、北朝鮮への訪問自体そうた易くはなく、まして親族の呼び寄せなど不可能だ。そういう人たちにとっては、「実際の彼女の兄達は日本に帰還したことなどない」と推測するのも当然だろう。とはいえ、その人たちにとって自分のアイデンティティのシンボルとしての「北朝鮮」の意味は、実際に度々北朝鮮に渡航できてその実態を否応もなく知らざるを得ない人々にとっての「北朝鮮」の意味とは全く異なるはずだ。

 そして、おそらく前者の「北朝鮮」と後者の「北朝鮮」のぶつかり合いに最も苦悩したのがヤン・ヨンヒ監督の父親だったろう。彼女の父親が総連の活動に入り始めた当時の動機自体は、今でも決して否定されるべきものとは思わない。そして、実態としての「北朝鮮」を知ったとしても、アイデンティティ・シンボルとしての「北朝鮮」を軽々しく否定することが出来ない苦しい立場にいたとも思う。もちろん単に個人の思想の問題であれば、苦しいけれども、(しかも後付けの理由により)過去の自己否定は可能ではある。しかし、彼には周囲に北への「帰還」を勧めた立場があり、昔は間違っていました、ごめんなさい、では済まされない責任を感じていたはずだ。そういう意味ではどんなに娘から批判されようと(そしてその批判の意味も理解できていたと思うが)出来る限り自分の責任を全うしようと努力する、苦しい立場だったと思う。

 その点、ヤン・ヨンヒ監督は、こう言っては失礼かも知れないが、父親よりは気楽に批判できる立場であり、先の批判者の言う「浅薄な自己洞察で、悪意を持ったものに簡単に利用されてしまうような作品を世に送り出」してしまったというコメントも全く的外れとは言えないだろう。ただ、その「浅薄」さがなければ、彼女の父親の苦悩は彼一人で抱えたまま墓まで持って行くしかなく、その葛藤も知られることはなかった。あるいは、彼女の父親が、娘にドキュメンタリーの撮影を許したのも、自分には決して出来ない、自分の抱えた葛藤や荷物を後世に伝えてほしいという思いが、半ばあったのではないかと推定する。

原題『かぞくのくに』英題『Our Homeland 』監督: 梁英姫 (양영희)
2012年 日本映画 カラー 100分




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