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zoom RSS 『曼陀羅』 - 初めてイム・グォンテクの名を国際的に知らしめた映画

<<   作成日時 : 2013/02/23 00:10   >>

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画像 韓国映像資料院のイム・グォンテク・コレクションDVD収録作品の紹介も、本作が最後になる。個人的にはこのDVDボックスに、韓国で刊行されたビデオディスクの2012年大賞をあげたい気持ちである。
 1981年、イム・グォンテク監督による仏教映画。本作品は、ベルリン国際映画祭に最初に出品された韓国映画として知られ、彼の名をはじめて欧米映画界に知らしめた作品。原作は、キム・ソンドン(金聖東)の同名小説。戒律を守って修行のために諸国を行脚する若い僧と、戒律を破って修行の行脚を続ける破戒僧との一種の仏教ロードムービー。また、アジア映画社の配給で日本国内一般劇場配給されたことがある。

 以下、あらすじをDVD付属パンフレットより引用・翻訳して紹介する。

 三ヶ月の冬安居(仏教、特に禅宗における冬の集団修行)期間。バス一台が検問所前で停まり、軍人による検問が始まる。僧侶証がない僧が連れて行かれ、若い僧も後を付いて降りる。彼らはそれぞれチサン(ジョン・ムソン)とポブン(アン・ソンギ)だ。チサンは軍人たちが命ずる念仏を唱え、釈放される。行脚(韓国語では「万行」)中のポブンはチサンの読経の声に好感を感じたが、チサンは自分の道を行く。ポブンはある寺で酒を飲んでいるチサンに再び出会う。チサンは仏は仏殿にだけいるのではないと話し、ポブンは6年間修行しても何も得ていないことに気づく。ポブンは再び旅に出てチサンについて行く。画像
 チサンはポブンに僧籍を失った事情を話す。彼はある夏、参禅中、オクスン(パン・ヒ)に会い、破戒覚悟で彼女と関係を持つ。オクスンの友人の服毒自殺は彼が原因だと指弾され、濡れ衣ははれたものの僧籍は剥奪された。彼はオクスンについてソウルに上京し、欲望と虚妄に明け暮れたあげく、自分が出家者(「比丘」)であると悟り、彼女と別れた。ポブンはチサンに夏安居まで共に過ごそうと言い、共にソウルに上京する。ポブンは大学生時代のヨンジュ(イム・オッキョン)とのことが思い出される。チサンは、オクスンが娼婦をしている私娼街にポブンを連れて行き、愛欲から脱するには女性を知らなければならないと言う。ポブンはヨンジュを犯した幻影にすがり、そこから逃げ出して故郷に帰る。彼は帰郷して家に帰り、母が家出していなくなった時を思い出す。
 ポブンは沈黙行をしているスグァン(キ・ジョンス)の指供養を見守る。スグァンとポブンは冬の参禅を終え、別々に道を歩む。スグァンはこれからは他人の中で修行すると言い、真の僧侶に会ったことがあるが、それはチサンだと話してくれる。チサンを訪ね当てたポブンは山の中にある小さな庵で共に生活する。あるムーダンの点眼式を手伝うチサンは、自分の目の点眼式は誰がやってくれるのかと酒を飲み、あぐらを組んで凍死する。ポブンはチサンを荼毘に付し、チサンが持って歩いた煩悶に満ちた顔の仏像をオクスンに渡す。ポブンは最後に母に会い、長い行脚の途に就く。

 本作品をDVDで見始めて、ボプンがバスの中で検問に引っかかったチサンを助ける場面で、この作品、劇場公開当時見ていたことを思い出した。破戒僧であり、酒や女に溺れてしまうチサンこそが、実は高位にあり公案をもてあそぶ高僧や、形式的な戒律にこだわるポブンよりも、いざとなるとより慈悲深く、誰にでも容易くできる訳ではない実践に取り組める... そんな逆説に当時、感銘を受けたものである。私自身、見てくれや形よりも中身や実質がより重要だという発想があるが、そんな自分の考え方にマッチする本作に共感を覚えるところ大であった。
画像
 今改めて見直してみて、当時の印象に変わりはないものの、いくつか気づいた点がある。
 本作は明らかにペ・ヨンギュンの『達磨はなぜ東へ行ったのか』に大きな影響を与えている。特にチサンの死を受け荼毘に付すポブンの様子は『達磨はなぜ東へ行ったのか』の住職ヘゴクを荼毘に付すキボンの姿を想起させざるを得ない。

 『曼陀羅』では、登場人物たちは意外に饒舌。たしかに二人が修行の行脚を続ける冬の光景は非常に美しい。しかし、映像自体で仏教哲学が語られる場面は意外に少ない。そして、あくまでも台詞、二人の対話が重要なのだ。彼らの饒舌な台詞の中に、文字通り「禅問答」ではなく、日常の比較的平易な言葉の中に、主として彼らの仏教哲学が語られるからである。それは、形式化され文字通り「禅問答」と化した、庶民に通じない、形式化された禅宗に対する批判の一方、禅の精神、あるいは仏教の小乗仏教的側面を称揚することにつながる。さらに悟り(見性成仏)を仏教の(静的な)到達地点と見るのではなく、見性成仏を求めて道を究めていくことこ自体が重要だと示唆している。その考え方はチサンが、決して到達点にたどり着かぬまま、文字通り道半ばで野垂れ死ぬ姿に象徴されているし、ポブンが与えられた公案を解けぬまま、各地を行脚・放浪し続けるのもその象徴である。
 そして本作の饒舌性は、本作が1981年ベルリン国際映画祭審査員特別賞を受賞したことを考えると、意外でもある。欧米の国際映画祭で、アジア映画が高く評価される場合、台詞が饒舌なケースは少ない。欧米人にとってなじみのないアジア映画(アジア言語)はどうしても字幕を通して観られることになり、字幕が多いのは不利に作用するからである。
画像
 一方、ペ・ヨンギュンの『達磨はなぜ東へ行ったのか』は、おそらくペ・ヨンギュンが自分が『曼陀羅』を撮るとしたらこう撮る、というところから出発したのではないかと、『曼陀羅』を改めて見て思った。
 『達磨... 』では、登場人物たちは、自分たちの哲学に対して決して饒舌ではない。むしろ哲学はあくまで映像を通して語られる。これはペ・ヨンギュンが美術界出身ということとが大きいように思う。また、禅の公案という形式に対しても決して批判的ではない。より哲学的に公案が語られ、やはり禅/仏教の重要な要素として肯定される。そしてイム・グォンテクは世俗の中であっても、道を求めていくことは可能というメッセージを発しているのに対し、ペ・ヨンギュンにあっては、あくまでも世俗は(女性も)業である。おそらく見性成仏を静的な到達点として見ないし、到達可能なものとしても見ない、という点では両作品は共通しているようようだ。しかし、ペ・ヨンギュンは、それでもやはりイム・グォンテクのメッセージはちょっと違う、という思いで、『達磨... 』を撮っていたのではないか、と改めて思わされた。そして、『達磨... 』がロカルノ国際映画祭で最優秀作品賞を獲ったのは、ある意味、正攻法と言えよう。

 なお、以下DVDコメンタリーからエピソードを取り上げる(やはりコメンタリーには日本語字幕はない)。

画像 イム・グォンテク監督が仏教に関心を持ち始めたのは、本作撮影の少し前。たまたま日本人が書いた「阿含経の話し」1)という本を読んで、仏教について非常に明快に説明されており、面白く読んだ。その後、映画会社からキム・ソンドンのこの小説を映画化しないかと本を渡され、非常に感銘を受け、是非自分に監督を任せてほしいと頼み込んだ。

 キム・ソンドンの小説『曼陀羅』は、元々僧籍にあった著者が還俗して書いた小説で、当時ベストセラーになった。ところが仏教界の不正をも書いたので、仏教界は著者を告訴すると息巻いている状態であった。

 このため、監督が韓国各地の寺に撮影を頼みにいっても、片っ端から断られる状態であった。特に曹渓宗の本山からは、イム・グォンテクの撮影に協力しないようにとのお達しが出て、傘下の寺からはことごとく、上からの命令だと断られた。
 最後にここに断られたら、はや撮影は出来ないという気持ちで、全羅北道のある寺に行くと、当時その寺の教務部長だかの要職にいた、若い美男子の僧侶が出てきて話を聞き、やはり上からの命令で協力は出来ないが、順天にある、ある古刹なら曹渓宗ではなく太古宗なので受け入れてくれるかも知れないとアドバイスをくれた。
 そこでその古刹に向かうと、うちでもその作家を告訴したいぐらいで協力できないという。ところが、当時は寺の職員だと思っていたが後に有名な雑誌社の社長だと分かった、その寺にゆかりのある人物が、あちらこちら境内を案内してくれ、さらに僧侶との会食も仲介してくれたところ、とにかく台本をもってこいという話になった。そこで製作部長と二人で台本を持って行くと、寺の住職が2、3日で読んでくれ、この内容なら協力しても良いと言ってくれた。

 こうして撮影に入れることになったのだが、最初の江原道からのロケから戻ってみると、最初に順天の寺を紹介してくれた全羅北道の曹渓宗の寺の僧侶がやってきて、謝礼を支払う訳でもないのに、以来撮影現場にずっと付いて歩くようになり、撮影現場で仏教について分からないことを色々教えてくれる。この僧侶、実はお酒が好きで、一緒に酒を飲んで意気投合したのはいいのだが、ロケ先の、対立する太古宗の寺でも付いてくるので、ロケ先の寺でも曹渓宗の僧侶がなぜ付いて来るのか、と神経をとがらせる一面もあった。画像
 時に監督が粗相をしたのを、この僧侶が年若いのをいいことに冗談半分で、彼に濡れ衣を着せたこともあったが、彼は文句一つ言わず、我々のために働いてくれる。後から聞いた話では、彼は曹渓宗の本山から、なぜイム・グォンテクの撮影を手伝うのか、一体いくら貰ったのか、協力を止めなければ僧籍を剥奪するぞ、とまで詰問されたという。
 撮影が終わって、初めて、この僧侶は、仏教に対する知識の余りない我々が仏教を損ねるのを心配して、本山の反対にもめげず、ボランティアで色々我々を助けてくれたのだと気づいた。そして、我々は本当の僧侶に出会ったのだと、感動した。そこでクレジットに、彼の名前として、監修:平常(ピョンサン)師、と入れたのである。

 ズームレンズの使用について。当初非常に良いレンズだと思い、頻繁に使用していたが、やがて映画の品位を損なうことが多いと感じるようになり、完全に使用しないわけではないが、特に慎重に使うようになった。(1980年代後半以降、イム・グォンテク作品からはズームレンズを使った場面は大幅に減った)

 曼荼羅の視覚効果について。非常にシネマスコープの活用法が上手い。その秘訣は何か?>監督:チョン・イルソン撮影監督の功績が大きい。当時、彼は生死のかかった大病にかかり大手術を受けた。そこで、彼は命を長らえた恩を撮影で返そうと、今までになく、画面のフレームについて深く考えながら撮影してくれたとおもう。

画像 本作品は、1981.9.21韓国封切り。韓国での観客動員数12万8932人(ソウル基準、KMDBデータ)。この観客動員数は、1970年代のイム・グォンテク監督のどの作品よりも多く、韓国社会に改めてイム・グォンテク監督をアルティザン監督として知らしめた作品ともなった。日本公開は1992.1.18(配給:アジア映画社)。
 本作品は、次の賞を受賞している。第20回(1981)大鐘賞優秀作品賞・監督賞(イム・グォンテク)・脚色賞(イ・サンヒョン,ソン・ギラン)・男優助演賞(チョン・ムソン)・編集賞(イ・ドウォン)・照明賞(チャ・ジョンナム)・新人賞(ジョン・ムソン)、第18回(1982)韓国演劇映画芸術賞男子演技賞(アン・ソンギ)・シナリオ賞・撮影賞、第2回(1982)映画評論家協会賞男子演技賞(ジョン・ムソン)・撮影賞、1981年ベルリン国際映画祭審査員特別賞。

 なお、韓国盤DVDだが、オリジナルネガからのHDリマスターということであり、埃、傷はかなり少なく、あるいは修復され、本DVDボックスの中でマスターの状態は最も良い。DVDでの説明によると、後半部の損傷が比較的大きかったということだが、退色が主のようで、色彩補正と埃除去が行われている。付加映像に補正前と補正後の比較映像がある。日本語字幕は他の三作とは異なり、イ・ヒラと坂野慎治(国立済州大学・通訳大学院副教授)。


1)増谷文雄(1902-1987 元東京外語大、大正大教授、都留文科大学学長)が著した以下の書のようだ。
「아함경 이야기」イ・ウォンソプ訳 ヒョンアム社1976年刊 ISBN-13 2008264003001
http://www.kyobobook.co.kr/product/detailViewKor.laf?ejkGb=KOR&mallGb=KOR&barcode=2008264003001&orderClick=LAG&Kc=SETLBkserp1_5
おそらく「原初経典・阿含経」(1970年筑摩書房刊)の翻訳ではないだろうか。
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原題『曼陀羅 (만다라)』英題『Mandara』監督:임권택
1981年 韓国映画 カラー 112分(DVDパンフレットデータ)

DVD(韓国盤「イム・グォンテク・コレクション」)情報画像
発行・発売 Blue Kino 画面: NTSC/16:9(1:2.35)[本作] 音声: Dolby1 韓国語
本編:112(本作)分 リージョンALL 字幕: 韓/英/日(On/Off可) 片面二層(4枚組) 2012年 12月発行 
希望価格W49800



『達磨はなぜ東へ行ったのか』リマスターDVDで再発
http://yohnishi.at.webry.info/200805/article_3.html

韓国初の仏教映画『心の故郷』映画評
http://yohnishi.at.webry.info/201107/article_13.html

韓国映像資料院イム・グォンテク コレクション『往十里』映画評
http://yohnishi.at.webry.info/201302/article_7.html

韓国映像資料院イム・グォンテク コレクション『チャッコ』映画評
http://yohnishi.at.webry.info/201301/article_10.html

韓国映像資料院イム・グォンテク コレクション『族譜』映画評
http://yohnishi.at.webry.info/201301/article_8.html

イム・グォンテク監督『常緑樹』映画評
http://yohnishi.at.webry.info/201206/article_18.html

同『月の光をすくい上げる』映画評
http://yohnishi.at.webry.info/201108/article_4.html

『西便制』韓国盤DVDについて
http://yohnishi.at.webry.info/200907/article_9.html

ワンズショップ「イム・グォンテクコレクション」販売サイト
http://www.onesshop.com/goods/goods_view.asp?item_name=&idx=12658&g_cate1=B19&g_value=3

Korean Film Director: Im kwon-taek (Seoul Selection)販売サイト
http://www.seoulselection.com/bookstore/default/product_view.php?part_idx=265&goods_data=aWR4PTEyODImc3RhcnRQYWdlPTYwJmxpc3RObz0xMyZ0YWJsZT1jc19nb29kcyZwYXJ0X2lkeD0yNjUmc2VhcmNoX2l0ZW09Mw==

2012.12韓国盤DVD化 韓国映画評
https://bblog.sso.biglobe.ne.jp/ap/tool/newscaredisplay.do




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