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zoom RSS 『花嫁たちの歌 (The Wedding Song)』 - 視線の良さが光るフランス=チュニジア映画

<<   作成日時 : 2013/01/22 07:21   >>

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画像 第2次大戦中、ナチ占領時代のチュニジアを舞台に、引きされていくユダヤ人とアラブ人少女の友情を描いた作品。個人的には大特薦作品。我々日本人が全く気づいていなかった様々な視点を提供してくれる。

 時は1942年、チュニジアのチュニス。ユダヤ人のミリアム(Lizzie Brocheré)とアラブ人のヌール(Olympe Borval)は、同じアパートに住む隣人同士で親友だった。ミリアムの父は既に亡い。だがミリアムの母ティタ(Karin Albou)は、チュニジアにナチが進軍してきてから、フランス人の雇用主に解雇されてしまい、洋裁で糊口をしのいでいた。
 ヌールは学校に行くことを許されていなかったが、ミリアムは学校に通っていた。彼女は学校に行くことを許されないヌールに、密かにアラビア文字を教えてあげていた。そんなヌールには親が認めた婚約者がいた。彼の名はカレド(Najib Oudghiri)。ヌールは早くカレドと結婚したがっていたが、カレドは未だに職を得ることができない。ヌールの父はカレドが就職できるまで結婚は許そうとしなかった。カレドに会いたいヌールは、夜中に密かにミリアムの手引きで二人で逢い引きをまでいた。
 一方、ミリアムにも、母の意向で結婚話が突然持ち上がった。相手はフランス帰りの医師ラウル(Simon Abkarian)でミリアムよりも10歳以上年の離れた、30代前半の男性。ラウルはミリアムを学校で見かけて見初めたという。だがミリアムはそんな年上の男性ととうてい結婚する気になれない。しかし母のティタは、ドイツのチュニジア侵攻以後、フランス人の雇用主から解雇され、チュニジアのユダヤ人全体に危機が迫っているのを知り、ユダヤ人とはいえ医師であるラウルと結婚させれば、何とかミリアムを救えると考えてのことだったのだ。婚約の顔合わせの場でもラウルに対して露骨に不快感を隠そうとしないミリアム。それは、アラブ人の親友ヌールを持つミリアムにとって、ラウルの両親がアラブ人の従僕に対して示した露骨な優越意識に対する不快感でもあった。
 だが、ナチスのチュニジア支配はますます深まる。町に増えた金髪のドイツ軍人に対する、アラブ人の女の子から上がるあこがれの声に、アラブ人の若い男たちは浮かぬ顔。そして空からはドイツ軍の飛行機から、ナチはアラブ人の友人だ、ナチはユダヤ人のパレスチナを奪い取ろうという策動に反対する、ともにユダヤ人に対抗して戦っていこう、と書かれたビラがばらまかれる。
 長年ユダヤ人との共存を見てきた長老たちは、それらに対してフンと一瞥をくれただけ。だが不満を持つ若者たちの間には、その宣伝を真に受けるものも出てくる。
 ミリアムの手引きでカレドと逢い引きしていたヌールは、カレドがついに就職口を見つけたと聞かされる。だが、彼がまだ誰にも教えていないというその就職先は、ナチの事務所だった。それを知らされて息をのむヌール。
 一方、ミリアムも不本意な結婚を余儀なくされる一方、町のユダヤ人たちは強制徴用にかり出されるように...
 時代の波が、そして政治の、男たちのロジックが徐々にミリアムとヌールの友情を残酷に引き裂き始める...

 そしてヌールがそのロジックに乗るのはやむを得ないと思ったそのとき...

 監督兼脚本のカリン・アルブーは、映画に描かれているようなチュニジア系ユダヤ人の母を持つフランス国籍のユダヤ人。アルブーという姓は、かなりオーソドックスなユダヤ人の姓らしい。欧州人であればいざ知らず、日本人が全く気がついていないであろう、ナチ占領下のマグレブのユダヤ人の存在という、非常に特異な題材を選んだのもその彼女の出自故であろう。
 本作は、私にとって全く盲点であった様々な事情を教えてくれる。例えば、私は、ユダヤ人がナチに迫害されたという受難の歴史は理解するものの、受難を受けたその民族が、なぜパレスチナ人に対し自分たちが受けたような迫害(といってもさすがにガス室送りまでしないが)を与えることを正当化できるのか、訝しんでいた。なぜユダヤ人の中から自分たちの行為に対する自省の念がもっと出てこないのだろうかと。
 だが、本作を見て、ナチが、もちろんあくまでも便宜的な宣伝とはいえ、アラブ人に対し連帯を呼びかけ、そしてアラブ人側にもそれに応じようとする動きが、もちろん全員でないとはいえ、あったということは全く知らなかった。それこそが今日のイスラエルの行動を彼らが正当化する大きな根拠になっている可能性に、本作を見て初めて気がついた。
 そして、カリン・アルブー監督の非常に多角的な視線のあり方も非常に高い評価に値する。ミリアムとヌールの友情に象徴されるような、伝統的なユダヤ人とアラブ人の共存関係の一方で、ラウルの家族に見られるような、ユダヤ人の植民者であるフランス人と結託してアラブを見下す視線、そして、ハンナ・アーレントがアイヒマン裁判の際に厳しく批判した、ユダヤ人コミュニティの中に存在したユダヤ人コミュニティの特権者が自らの特権性を守るために仲間をナチに売り渡したことに対する批判と共通する視角と、その一方で生き残りに必要などのようなツテさえも活用しようとする人間のしたたかさ。その一方でしたたかさや戦略だけに還元されない人間の持つ誠実さ。人間の悪魔的な側面と寛容さの共存... そんな複雑な人間関係や視線の絡み合いの巧みさには驚嘆させられる。
 盤石と思われたミリアムとヌールの友情が、時代の波に翻弄されきしみ始めるのも、彼女たちに間に潜在的不平等な関係、つまりミリアムはユダヤ人家庭であるが故に、貧しく、女性であっても教育を受けられたにもかかわらず、ヌールはそれを享受できなかったことが、彼女たちが男のロジックに巻き込まれてしまう契機となってしまうのだ。
 だが、監督の、すっきりと図式的に割り切ることへの根源的な疑いこそが本作品を成立させている。そしてこのような視点こそが、今日の日本人にとってもっとも欠けておりもっとも必要な視点なのではないだろうか。
 本作は是非強力に推薦したい作品。

 本作は2008年12月17日フランス封切り。パーム・スプリングス国際映画祭新人賞候補作。国内未公開。

 監督のカリン・アルブーは、初ドキュメンタリー『母国から見捨てられ("Mon pays m'a quitté")』撮影後、1992年短編『 Chut !』でシネシネマ映画祭1等賞、彼女の家族の出身地であるアルジェリアについて描いた短編2作目の『Aïd el Kébir』でクレルモンフェラン国際短編映画祭グランプリ。
 2005年に初長編映画『小さなイェルサレム(La Petite Jérusalem)』を発表。カンヌ映画祭国際批評家週間に選ばれSACD賞を受賞。またセザール賞の最優秀女性映画賞候補。本作は彼女の長編第2作。また2011年短編『ヤスミンと革命(Yasmine et la Révolution)』を発表し、現在は『Aline & Wolfe』の準備中。以上Wikipediaフランス語版およびIMDBの記述を参考に執筆。

 なお、イギリス盤DVDは、おそらくフランスマスターと思われる、コントラストの鮮明で高精度の映像。その面でもお薦めである。Pyramid Videoから出ているフランス盤もある。おそらくこちらがオリジナルと思われるが、仏語字幕のみ。なお、Strand Releasingが出している米盤もあるが、画像にこだわりがある方にはヨーロッパのPAL盤をお薦めしたい。

原題『Le chant des mariées』英題『The Wedding Song』 監督: Karin Albou
2008年 フランス=チュニジア映画 カラー 100分(IMDBデータ)

DVD(UK盤)
発行・発売:Peccadillo Pictures 画面: Pal/16:9(1:1.85) 音声: Dolby2 アラビア・仏語 本編: 100分
リージョン2 字幕: 英(On/Off可) 片面二層 発行年2011年5月 Amazon.uk価格 £9.00

カリン・アルブー・インタビュー(JESTHER ENTERTAINMENT 英語)2009.11.9
http://jestherent.blogspot.jp/2009/11/exclusive-interview-karin-albou.html

チュニジア映画『Satin Rouge (サテン・ルージュ)』映画評
http://yohnishi.at.webry.info/200909/article_10.html


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