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zoom RSS イム・グォンテク監督の『族譜』が日本語字幕付きDVD化!

<<   作成日時 : 2013/01/19 05:04   >>

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画像 1978年にイム・グォンテク監督が撮った彼の67番目の映画作品。原作は梶山季之の同名の短編小説。創氏改名を迫られて苦痛の決断を下したある地方名望家と彼の創氏改名を迫られた日本人職員の苦悩を描く。

以下、DVDの解説書にあるあらすじ紹介を翻訳して内容を紹介する。結末が書かれているのに注意。
 日本植民地期、朝鮮半島に創氏改名の嵐が吹き荒れた。美術を専攻した谷(ハ・ミョンジュン)は徴用を避けるために京畿道庁、総務1課に勤務していたが、創氏改名の実績が低調で課長から責められていた。課長(トッコ・ソン)はソル氏の宗家であるソル・ジニョン(チュ・ソンテ)が創氏を行わないのがその理由だと、谷を水原郡へ遣わした。ソル・ジニョンは谷に朝鮮の風俗画を描く画家だと知っており、朝鮮の美を理解してくれてありがとうと語った。谷が創氏改名のため伺ったと言うと、ソル・ジニョンは700年に渡る家門の記録を記した族譜を見せながら、献金や供出はできても創氏は無理だと伝えた。「ソル」を「まさき」と読むことができるという話を聞いて谷はソウルへ戻った。
 道知事(イ・ヒャン)は「ソル」の字をそのまま使うのは認められないと、ソル・ジニョンを呼び創氏を再考するよう言った。課長はソル・ジニョンの創氏を再度させようと谷を再び水原郡に遣った。しかしとりたてて進展がなく、課長は谷の手を引かせ、憲兵隊にソルの娘オクスン(ハン・ヘスク)の婚約者(チェ・ナミョン)を捕まえさせた。オクスンも造兵廠に徴用される危機に瀕して、谷はオクスンを陸軍倉庫に就職させ、徴用から逃れさせた。しかし孫たちが日本名がなく学校で差別されると聞いて、ソル・ジニョンは創氏改名を決意する。
 ソル・ジニョンは自分を除き家族たちを創氏改名させた帰り、知人たちの家を一つ一つ訪ね挨拶した。彼は創氏改名で家名が途絶えるのを恥じて命を絶つと族譜にしるし自決した。葬式に来た谷は、族譜を京城帝国大学に寄贈してくれと書かれた手紙を読んだ。自責感に苛まれた谷はオクスンとともに長い葬列を見守った。画像

 本作の原作者である梶山季之は、1930年植民地時代の朝鮮京城に、朝鮮総督府職員だった父とハワイ移民の経験を持つ母の下に生まれる。旧制中学3年まで朝鮮に住み、戦後日本に帰国する。週刊誌のフリーライター(いわゆる「トップ屋」)として活躍後、小説に転じ、フリーライター時代の経験を生かした様々なジャンルの多様な大衆小説を量産。1975年、香港に取材に訪れた際に食道静脈瘤破裂で45歳の若さで死去。朝鮮という題材は彼の小説テーマ中一つの柱であった。韓国で映画化された彼の小説は「族譜」以外に「李朝残映」(シン・サンオク監督)がある。

 本DVDのイム・グォンテク監督のコメンタリーによると、日本人である梶山季之の小説を原作にした理由は、日本人原作の小説であれば、日本人がこんなことはなかったと言い逃れができないだろうという意味、そして本作品は全羅道淳昌で実際にあった創氏改名を迫られた薛氏が石を抱いて井戸に飛び込んだという事件をモデルにしていること、そして映画を作るちょっと前に、韓国のTV局で本作を原作としたドラマが製作されたことだという。
 但し、TVドラマ版では、主人公のソル・ジニョンはソンビ(在野の学者)との設定でチャン・ミノ(1924-2012)が演じ、非常に名演だとの評価も得ていたが、イム・グォンテク版では親日派人士にもかかわらず、創氏改名だけは受け入れられなかったという設定を強調するために、俗っぽい側面もある地主として設定し、そのイメージに合うチュ・ソンテ(1921-2000)を起用したという。しかし、チャン・ミノは彼の演技の評価の高さから当然映画版でも自分が主人公として起用されるものと期待し、それを裏切るキャスティングをイム・グォンテク監督が行ったことから、彼から監督はかなり恨まれたそうである。しかし、監督自身は、彼の好演に関する評判は聞いていたものの、このドラマ自体は見ていなかったため、そのイメージにとらわれることなくキャスティングを決定したようだ。結局その恨みが解けたのは、イム・グォンテク監督が『千年鶴』(2006)でチャン・ミノを起用した時だったという。

 また、イム・グォンテク監督自身この『族譜』を撮った動機に、自分自身の植民地時代小学校の記憶を込めた作品を作りたいと思っていたことがあるという。そのエピソードとは、小学校時代は、彼は日本人の目から見ても無難に過ごしていたにもかかわらず、たまたま野外授業で同級生に韓国語で話しかけられたのを、国本という先生に見とがめられ、ひどく制裁を受けた経験、そしててっきりその先生はその顔つきから日本人だと思っていたにもかかわらず、解放後実は王族の血を引く全州李氏の家系で、王族の血を引くから「国本」という名前に改名していた朝鮮人だったということを知った衝撃。そして、また、彼自身は日本人にもある「林」という姓名だったので創氏改名せずにすんだが、それ以外の朝鮮人の友人たちは創氏改名を迫られて悩んでいた姿を描きたかったのだという。

画像 さすがに徹底した取材魔として知られた梶山季之が原作の小説であるだけに、建前上は創氏改名はあくまでも朝鮮人による「自発的な」改名とされていたにもかかわらず、実際には役人たちにノルマが課せられ、大々的に創氏改名の半強制的な説得工作が行われていたということが描き込まれている。今日、法律の条文だけを見て、創氏改名は強制でなかったという言説を流布するものがいるが、運用面では決してそうとは言い切れなかったことが描かれる。
 最近でもニューヨークタイムズが従軍慰安婦問題に対する反省を表明した河野談話の撤回を示唆した安倍首相を手厳しい批判に見るように1)、旧日本の蛮行を否定しようとする論者が横行している。これらの否定論者は法令だけを根拠にそれらの出来事がなかったと否定しようとしているようだが、この映画に描かれているように、これらの出来事の有無は単に法令を見るだけではなく、法令に現れない運用面まで見ていく必要がある。

 イム・グォンテク監督は、1960年代に50本のアメリカ二、三流映画をまねた映画を作ってきたものの、70年代に入ってこれでは駄目だと考えはじめ、韓国らしい映画作りをいろいろ試したものの、どうしてもそれまでの映画作りの癖が抜けず満足できなかった。しかし、本人としては本作がようやく初めて韓国らしい映画として納得のいく最初の映画になったという。しかし、当時は今にまして排日の雰囲気が強い時代。主人公の一人、谷が韓国に理解ある日本人という設定もよく思われず、監督としては願うような評価を当時得られなかったという。なお、日本人役がすべて韓国語をしゃべっているのは当時映画に原則として日本語セリフを出すことが許されなかったため。もちろん、当時の経済事情であれば本格的な日本人俳優を起用するのも困難だったろう。

 内容面では、日本人社会の中の異端者であり、朝鮮社会の良き理解者である谷の苦悩、そして、日本統治に協力をしながらも、自分の氏族のルーツだけは守り通したいとするソルの苦悩、そして当時の日本人の目から見れば「滅び行く」と見られた、庶民の苦悩が込められた朝鮮の美意識(柳宗悦曰く)が非常に心にしみる作品。また、後のイム・グォンテク監督の『西便制』にも通じる、本作に描かれた朝鮮社会の情操にも非常に心惹かれる。考えてみると最近日本で制作された『白磁の人』にも通じるところのある作品である。特に最後の葬式の場面などは特に。
 本作は、日本語字幕付きプリントが福岡市立総合図書館に所蔵されているほか、昨年、韓国文化院でも、DVD上映されたようだが、ともあれ、おそらく30年ほど前にNHKテレビで見て非常に心を打たれ、ビデオ化されることを心待ちにした作品。今回日本語字幕付きで日本でも通信販売を通せば入手可能な形でDVD化されたことを素直に喜びたい。

 本作品は、1978年5月1日韓国封切り。国内では先も述べたように福岡市立総合図書館にプリントが所蔵されており、何度か上映もされている。なお、本作品は1978年の大鐘賞優秀作品賞、監督賞、主演男優賞を受賞している。画像

 なお、イム・グォンテク・コレクションと題された4枚組の本DVD集に収録された本作DVDについてだが、マスターとなったフィルム自体は、多少の埃、一部フィルムの傷が見られるものの、全般的には良好。DVDのマスタリングも、比較的コントラストが高く鮮明で、全盛期の韓国DVDの画質を彷彿させる。色調的にはやや派手気味かもしれない。また本作品の特典として監督&映画評論家によるオーディオコメンタリーおよびスティル・ギャラリーが収録されている。また、いつもながら韓国語と英語の充実したパンフレットがつく。日本語字幕は韓国映像資料院で制作したものと思われ翻訳者は琴仙姫(クム・ソニ)と梁仁実(ヤン・インシル)。琴仙姫はおそらく、東京出身の在日三世で現在韓国で映像作家パフォーマーとして活躍している琴仙姫だと思われる。
 なお、本作以外に収録されているのは、『往十里』(1976)『チャッコ』(1980)『曼荼羅』(1981)である。

1) New York Times Editorial "Another Attempt to Deny Japan’s History"2013.1.2
http://www.nytimes.com/2013/01/03/opinion/another-attempt-to-deny-japans-history.html

原題『족보』英題『The Genealogy / The Family Pedigree』監督:임권택
1978年 韓国映画 カラー 106分(福岡市立総合図書館所蔵フィルムデータ)

DVD(韓国盤「イム・グォンテク・コレクション」)情報
発行・発売 Blue Kino 画面: NTSC/16:9(1:2.35)[本作] 音声: Dolby1 韓国語
本編:106(本作)分 リージョンALL 字幕: 韓/英/日(On/Off可) 片面二層(4枚組) 2012年 12月発行 
希望価格W49800

イム・グォンテク監督『常緑樹』映画評
http://yohnishi.at.webry.info/201206/article_18.html

同『月の光をすくい上げる』映画評
http://yohnishi.at.webry.info/201108/article_4.html

『西便制』韓国盤DVDについて
http://yohnishi.at.webry.info/200907/article_9.html

イム・グォンテク監督日本語字幕付き韓国盤DVDについて
http://yohnishi.at.webry.info/200803/article_7.html

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琴仙姫監督『フォーリング・スカイ』(山形ドキュメンタリー映画祭サイト)
http://www.yidff.jp/2009/cat079/09c082-1.html



ワンズショップ「イム・グォンテクコレクション」販売サイト
http://www.onesshop.com/goods/goods_view.asp?item_name=&idx=12658&g_cate1=B19&g_value=3



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