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zoom RSS 『ハリウッド・キッドの生涯』- 韓国版「ニュー・シネマ・パラダイス」5,60年代の回顧が良い

<<   作成日時 : 2012/09/21 00:06   >>

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画像 維新革命以後初めて朝鮮山岳パルチザンを描いた『南部軍』、そしてヴェトナム戦争を描いた『ホワイトバッジ』で知られ、最近では『折れた矢』で奇跡の復活を遂げたチョン・ジヨン監督の第3作(1994年)。
 映画愛で回顧する、韓国の1950-60年代! とはいえ、社会派チョン・ジヨンなので単なる懐旧では終わらない。

 国産映画スクリーンクォータ廃止で揺れる現代(といっても1990年頃の)の韓国1)。子どもの頃の夢を実現させて、今や映画監督となっているユン・ミョンギル(ドッコ・ヨンジェ)。彼は警察から連絡を受けて警察署へ向かっている。旧友のイム・ビョンソク(チェ・ミンス)が放火殺人の容疑者として拘束されているという。自宅に放火して子どもを殺したというのだ。だが彼は何も話そうとしないという。彼が警察に到着すると、原因は漏電だったと分かり彼の容疑は晴れる。だが、子供を喪ったショックのためか一言も発しない彼の態度は異常で、そのまま精神病院送りに。ビョンソクはミョンギルが映画の道を歩むきっかけとなった重要な人物だった。

 朝鮮戦争直後の韓国。町は荒廃し何もなかったが山河だけは健在だった。そんな未だ自然豊かなソウル麻浦の、漢江のほとりでミョンギルを含む子供たちが泳ぎながら遊んでいるとよそ者の子どもが岩の上に立っている。あいつは馬鹿じゃないかと噂する子供たちの目の前で、少年は見事に飛び込んで見せ、子供たちの賞賛を浴びる。それがビョンソクだった。
 やがて中学校で二人は再開する。いささか大人びたビョンソク(中学生役:チャン・ムン)は、教師たちの補導見回りをものともせず、映画館に通いつめ、学校では映画に対する博識を披露する。そんな彼に見せられたビョンソクを含む何人かが、彼に従って映画館に通うようになる。金のなかった彼らは時には料金を誤魔化そうと他の大人の連れを装って入ろうとしたり、映画館の裏の塀を越えてトイレの窓から入ろうとしたり。あるいはせっかく金を払って入場しても、先生の補導にあって慌てて逃げ出したり。
 そんな中、ビョンソクは時に補導にかかり、教師の制裁を受ける一方で、教師たちは学校で開く映画会にかける映画の選定に、彼のアドバイスを参考にもした。
 そんな中、ミョンギル(中学生役:パク・ボンチョル)は仲間と共にビョンソクの家に遊びに行く。というのはビョンソクとミョンギルは映画に関する知識を競い合い、ある知識に関してどちらが正しいか確認しようとやってきたのだ。彼の家はタルトンネ2)の上にあった。そして彼の膨大な映画に関する知識は彼が映画館に行って求めた膨大な映画パンフレットの上に成り立っていることが明らかになる。そしてやはりビョンソクが正しかったのだ。
 彼は父母はなく、ダンサーとして働く美しい姉ソミ(ユン・スジン)の生計で暮らしを立てていた。そしてしばしば姉に映画館に連れて行って貰ったり、姉が地方公演に行ったときに映画パンフレットをお土産として買ってくれるのだという。画像
 映画パンフレットを貸してほしいというミョンギルに、ビョンソクは見たければ俺の家へ来いと言う。だがミョンギルは密かにパンフレットを持ち出してしまう。それにより仲間たちの間に喧嘩が。結局ミョンギルが持ち出したことがバレて、仲間たちはばらばらに。だがもはや彼らの映画中毒は治らず、結局また集まってともにハリウッドに行こうと密航計画をたてるまでに...
 やがて彼らは高校に進学する。そんな中ビョンソク(高校生役:キム・ジョンヒョン)、ミョンギル(高校生役:ホン・ギョンイン)たちは映画サークルを立ち上げる。そんな中、ミョンギルは映画館でヒョンスク(高校生役:チョン・スルレ)という少女に出会う。ミョンギルはヒョンスクを自分たちの映画サークルに連れてくる。そこで、彼女を主演に映画を撮ってみようという話に。だが撮影が進行するうちにヒョンスクの心はミョンギルからビョンソクに急速に傾いていく...

 本映画の原作は、アン・ジョンヒョの同名の小説(1992年民族と文学社刊行、現在絶版。但し本映画のシナリオ本はある)。1950-60年代、韓国で映画が唯一最大の娯楽だった時代、欧米の映画に対するあこがれと熱気、そしてその当時の時代の空気感が伝わってくる。もっとも本作品を監督したチョン・ジヨンはオーディオコメンタリーで、自分は映画に出てくる子供たちのように欧米映画ばかり見ていたのではなく、国産映画も見ていたし、彼が映画界に進もうと決意したのも、ユ・ヒョンモク監督の『誤発弾』を見たからだ、とも語っていた。
 また、米軍に依存して働くピョンソクの姉の姿などを通して、戦後の虚脱状態の韓国にあって、米軍の存在、そして欧米文化の存在が、韓国社会においてどのような希望の光として存在していたのかということも実感される。
 それとともに、『九月に降る風』や『あの頃、君を追いかけた』のような、仲間同士の友情とライバルの関係の交差、尊敬・あこがれと羨み、妬みの入り交じった微妙な関係、そして少年たちの大人の女性へのあこがれなどが丁寧に描かれており、それらが、その時代の空気感と相まってほろ苦くリアルな懐かしさがうまく再現されている。単なる甘い懐旧談に終わっていない。
 さらに、より欧米映画の世界に浸ったビョンソクが、現実の韓国映画界に立脚点を確保できない一方、時に現実との妥協も厭わないミョンギルがむしろ映画界入りを実現するという構成も、さまざまなシンボライズとして読むことができる。たぶんこの二人の違いとは、実は大学まで出ることので来たミョンギルとタルトンネに住んでいたビョンソクの社会・文化的資本の差なのだろう。
 だが、より理想主義的なビョンソクと現実主義的なミョンギルとの差として描くことで、産業化した(夢を失ってしまった)韓国映画界への批判、あるいは、韓国社会の現実と接点を持てない、借り物的欧米流文化へのあこがれに対する批判、さらには欧米流文化侵略への風刺など多重なレイヤーで解釈することもできる。
画像
 含蓄の深い映画として推薦に値する作品。ただ一点残念なのは(これは『南部軍』のも共通する)、当時としては最先端であった(と思われていたであ)ろう、シンセサイザーを多用した音楽が、今となっては安っぽく聞こえてしまう点である。

 本作品は、1994年7月30日韓国封切り。ソウルでの観客動員数は37,063人(KMDBデータ)で残念ながら興行的には失敗に終わってしまった。しかし同年の第15回青龍映画賞で最優秀作品賞を獲っている。国内未公開。おそらく、ハリウッド映画が写り込んでいる場面が多く、著作権クリアに多額のお金がかかりそうなので、フォーマルな国内上映は困難であろう。

 監督のチョン・ジヨンは1946年生まれ。高麗大学仏文科卒業後、同言論大学院修了。大学卒業後キム・スヨン監督の助監督に付き映画界入門。1982年『霧は女のようにささやく』でデビュー。その後は放送局プロデューサーとして働く。さらに『南部軍』等10余編の映画を撮ると共に、映画振興法改正運動、スクリーンクォータ監視活動等を主導する。1998年『カ』を演出するが、その興行的失敗で13年間映画製作の断念を余儀なくされ、2011年に撮影した『折れた矢』で奇跡の復活を遂げる。以上Daum映画データベースデータを参考に執筆。

 手持ちの韓国盤DVDは2005年にSpectrum DVDより出たディスク。これを元にDVDの品質を論じる。ディスクにデジタルリマスタリングとあるように、画質はかなり良く、はっきり言って最近の韓国盤DVDを明らかに凌駕する。Criterionのようにフィルムの粒状感を残したテレシネで、部分的には輪郭線のゴーストが目立つところもなくはないが、おおむね適度に抑制されており、精細感の高い画面。色彩に関してはややくすんだ感じであるが、これはレトロ感を演出するための、オリジナルのフィルムを再現した意図的なものかも知れない。またフィルムの傷、埃がほとんど目立たずきれいに取られているのも良い。テレシネ時点でのフィルムの保存状態はかなり良好であったものと推定される。韓国盤DVDの全盛期を伝える貴重な一枚。DVDに関して言えば今の方がむしろ退化してしまっている。但し字幕は韓国語のみで、鑑賞にはすくなくとも韓国語読解もしくは聴解能力が必要。なお、KMDBでは120分となっており、DVDは115分となっているがその差が場面カットによるものかどうかは明らかではない。
 なお、刊行元のSpectrum DVDはテウォンに吸収され、2010年に再版されたようだが、現在品切れのままのようである。

1) なお、韓国では現在も国産映画スクリーンクォータ制度は縮小されながらも辛うじて維持されているが、FTAとのからみで風前の灯火となっている。

2) タルトンネに関しては、私のブログのこちらの記事(『1番街の奇跡』映画評 http://yohnishi.at.webry.info/200811/article_9.html)参照。また、ハウジング・スタディ・グループ(1990)『韓国現代住居学』建築知識刊行も参考になる。

原題『헐리우드 키드의 생애』英題『Life and Death of Hollywood Kid』監督:정지영
1994年 韓国映画 カラー 120分

DVD(韓国盤)情報
発行・販売: Spectrum DVD 画面: NTSC/16:9(1:1.85) 音声:Dolby2 韓国語 本編:115分 リージョン3
字幕: 韓(On/Off可) 片面二層 2005年 6月発行 

再版発行・販売 テウォンDVD 2010年11月刊行 希望価格W2900

チョン・ジヨン監督『南部軍』映画評
http://yohnishi.at.webry.info/200810/article_7.html


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