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zoom RSS 『両江道の子供たち』 - 脱北者監督による北朝鮮児童の生活リアリティ!

<<   作成日時 : 2012/04/25 06:28   >>

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画像 脱北者であるチョン・ソンサン監督による、北朝鮮の子供たちの生活リアリティを描いた、他に類を見ない映画作品。韓国では本作がろくに省みられぬままおざなりに公開され、たいした興行成績も残せずに消えてしまったが、幸いDVDが刊行された。
 なお、クレジットではキム・ソンフン監督との共同監督作品とされているが、Cine21の記事によると1)、キム・ソンフン監督は主にポストプロダクションのみの関与だという。脚本はチョン・ソンサンとキム・ドンヒョン。

 ある年のクリスマスイブ。ソウルの子供たちが北朝鮮に届けとアドバルーンにクリスマスプレゼントをつけ、北朝鮮に向けて飛ばした...

 一方こちら北朝鮮は、金日成抗日闘争のゆかりの地とされる白頭山の麓にある両江(リャンガン)道三池淵(サムチヨン)郡普天堡(ポチョンポ)里。普天堡小学校4年生である男の子ジョンス(キム・ファンヨン)、ヒョンミョン(イ・チュンフン)と女の子コップン(チュ・ヘリ)は大の仲良し。彼らのクラスではあこがれの平壌に修学旅行に行くために、くず鉄・金属供出運動が行われている。父親(キム・デホン)が軍人であるコップンは、大砲の薬莢を持ってきて先生(キム・ジョンヨン)に褒められるものの、母子家庭の上、弟のジョンソン(リュ・ジョンハク)が人民病院に入院中のジョンスは、供出するものがない。コップンのお情けで小銃の薬莢を何個か分けてもらって供出するものの、こんな程度で平壌に行けますかと怒られてしまう。
 しかたなく、家から亡き父の腕時計を探し出して中国人のくず鉄商に売って、くず鉄をたくさん貰って学校に持って行くと先生に褒められる。

 そんなに苦労してまで行くことになった平壌修学旅行であるが、出発の朝ジョンス、ヒョンミョン、コップンの三人は校長先生(チェ・スンチョル)から、背が低い、容貌が冴えずコッチェビ(両親のない浮浪児)みたいで、平壌に行って資本主義諸国の記者に写真を撮られたら我が国の面汚しになるとの理由で、平壌行きを押しとどめられてしまう。
 納得のいかないジョンスはヒッチハイクしてでも平壌に行こうとするが、トラックの運転手(ハン・チョルウ)からは罵倒され、さまよい歩いたあげく森の中で一夜を過ごす。
 森の中で朝起きてみると、木の上に何かかかっている。それはソウルの子供たちがアドバルーンとともに北に送ったクリスマスプレゼントだった。音の出るメッセージカードに、ぴかぴか電気で光るサンタクロースの衣装、それにリモコンで動くロボット...
 喜んだジョンスはコップンとヒョンミョンに見せる。さらに噂を聞きつけたクラスの同級生たちが少しだけでも触らせてくれと、米や味噌を持って頼みにくるように。クラスの中でも冴えない三人組と思われていた彼らは一躍クラスの人気者に。

 一方入院中の弟ジョンソンはこれ以上入院しても回復の見込みがないと退院を迫られる。何とかしてほしいと懇願する母親(イ・カンヒ)に看護師(チョン・ヒス)は、これ以上何とかしたければ道立人民病院に移送するしかないと告げる。だが移送するにも救急車のガソリンがない。ガソリンを持ってくれば、移送してやると言われるのだが...

 本作品は商業映画作品として企画されたにもかかわらず、資金不足で何度も撮影が中断。なんとか完成にこぎつけた後も上映してくれる映画館が探せずに7年間上映館を探す羽目に。ようやく2011年3月公開の目処がついたものの、その時点で6館しかスクリーンを確保できず封切りを延期。ようやく11月に封切られた。しかし客足が伸びずすぐにスクリーンから消えることに。
 だが、興業側が全くやる気がなく、配給会社が準備していた宣伝材料が全く活用されずにお蔵入りしていたことが分かり、配給会社が映画振興委員会に不当な契約不履行だとして上映館側を提訴、振興委員会の仲裁で12/29から再度延長上映が認められたという曰く付きの上映となった。2)

 チョン監督は、北朝鮮、ロシア(モスクワ)、韓国の三カ国で映画製作を学んだとあって、多少北朝鮮の映画を思わせるようなほのぼのとした作風。南側の監督が作りそうな、告発調であったり、イデオロギー過剰なメッセージ性の強い作風では決してない。淡々とした子供たちの日常生活の中の喜びや笑い、悲しみが活写される背景に北朝鮮社会の不条理も透けて見える。
 決して北朝鮮社会をただネガティヴに描いたり、北朝鮮の子供たちをかわいそうな存在として描くのではなく、普遍的な不条理社会の中で力を合わせ、毎日の生活と戦い、時に喜びや笑い、そして何よりも友達同士助け合おうという情のあふれる社会として描いている。その中には得点稼ぎばかり考えている校長や、自分の権勢を利用して子供たちを騙すことをいとわない党幹部のどら息子もでてくれば、厳しいながらも、子供たちのことを思って時に校長に刃向かうことを厭わない、女先生も出てくる。
 北朝鮮社会はシステムとしてはダメなのかも知れないが、良い人もいればロクデナシもいるというのは資本主義社会だって全く変わらない。むしろ子供たちがともに助け合って友達を救おうという姿勢は、韓国社会ではとうに失われてしまっているだろう。脱北者の手記などを見ると、北朝鮮社会をただ監視社会と見るのはネガティブな見方であり、監視社会の一方で、(韓国にはない)お互いがともに助け合おうという暖かさもあるのだという意見が何度も出てくるが、その一端を垣間見せてくれる。決して北朝鮮の住民たちをキム・ジョンイルに洗脳されたロボットとして描くことはない。
 それと細部にわたる北朝鮮社会のリアリティが凄く、さすが脱北者監督と思わされる。例えば、出てくる子供たちが皆、味噌っ歯である(逆に特権者の子どもは歯が白い)。これは物資不足で歯磨きなども入手できないためと思われるが、このようなリアリティはおそらく南側の監督では見落としてしまう点であろう。
 それに、アメリカを敵だとしながらも、北朝鮮の小学校で英語の授業が行われているのも驚き(内容は笑ってしまうが)。しかし、鬼畜米英と称していた戦時中の日本で英語教育が禁止されたのに比べると、今の北朝鮮の方が遙かにましなのかも知れない。少なくとも敵のことをなにも知ろうとせず目をつぶってしまった戦争中の日本に対して、敵だからこそ知らなければ勝てないと思っている今の北朝鮮社会の方が、より優れた戦略的を取れる可能性がある。今の北朝鮮の外交戦略を日本社会は「瀬戸際外交」などと言って馬鹿にしているが、戦前に、敵を直視せず「神風」を国民に信じさせる政策や外交をとっていた日本に彼らを笑う資格はあるのだろうか? そもそも先軍政治に関しては日本の方が北朝鮮の先輩だったのだし...
 もっとも戦前の日本の外交政策がダメだったのでさっさと自滅・破綻して、国民はさっさと解放されて(とはいえ70万とも言われる第二次大戦での犠牲者数と引き替えだったが)助かったが、北朝鮮はがんばっているので国民が苦労を継続させられているという逆説的評価はあり得るだろうが...

 ともあれいろいろ北朝鮮社会に関して発見させてくれる映画である。

 全般として、例えば日本映画で言うならば『二十四の瞳』や『山びこ学校』などに通ずる情緒をたたえた作品になっている。ただこのような情緒の映画作品が、構成力や刺激に満ちた映画作りが行われている今日の韓国映画界で受け入れられるかというと難しいところで、興行側のやる気のなさも分からないでもない(それに韓国側は、政治・軍事面ではともかく、北朝鮮の社会自体や脱北者に対して非常に関心が低い)。それに下記に述べるように「ヨドク・ストーリー」を演出したことで、右派というレッテルを貼られてしまったのかも知れない。映画のエンドクレジットにこの映画の収益金は、撮影を支援して貰った江原道に対し2018年ピョンチャン冬季オリンピック開催のため一部を寄付するとあるが、おそらく寄付できるだけの収益は上げられなかったであろう。

 政治メッセージ性に回収されない、北朝鮮の社会生活面を知りたい人々には必見の作品!

 本作品の韓国封切り日は2011年11月17日。韓国での観客動員数は9,901人(KOBIS 2011年データ)。日本国内未公開。

 監督のチョン・ソンサンは1969年生まれ。平壌演劇映画大を卒業後モスクワ大学に留学し映画演出を学ぶ。1995年脱北し韓国へ。韓国では東国大で演劇映画学博士号を修得。『シュリ』『JSA』『東海の水と白頭山が...(邦題: 踊るJSA)』などの制作に参画。映画製作以外に北朝鮮の耀徳(ヨドク)政治犯収容所を舞台にしたミュージカル「耀徳ストーリー」で名声を得る。以上は朝鮮日報「ヨドク・ストーリーのチョン・ソンサン、今回は子ども映画だ」(2011.2.26日付)http://news.chosun.com/site/data/html_dir/2011/02/25/2011022501506.html およびDaum映画データベースを参考に執筆。
 
 また、共同監督としてクレジットされ、主にポストプロダクションを担当したというキム・ソンフン監督は1971年生まれ。韓国外語大を卒業し、既演出作は2006年の『愛情の欠乏が二人の男に与える影響』。

 おそらく、チョン監督は韓国映画界において、北朝鮮の人々の生活リアリティ表現の演出を監修している人材だと思われる。その人が直接描く北朝鮮の生活リアリティを是非。

 なお、韓国盤 EOS Entertainmentから出されたDVDの画質は、最近のART Service盤あたりと共通する、輪郭のゴーストも出る解像度の甘いもの。エンドクレジットの読み取りも苦労する。このあたりの甘い画質がどうも最近の韓国盤DVDのスタンダードにすっかりなってしまった。

1) Cine21記事「脱北した監督ではなく興業監督と呼ばれたい - 7年かかって封切りされる『両江道の子供たち』のチョン・ソンサン監督」(2011.11.22付 韓国語)
http://www.cine21.com/do/article/article/typeDispatcher?mag_id=68183

2)ナヌム・ニュース キム・ヨンソク記者「映画『両江道の子供たち』が来る29日より延長上映に入る」
映画公式ブログhttp://blog.naver.com/neobob1/20146769580 に記事のコピー(2011/12/27付 韓国語)

原題『량강도 아이들』英題『Merry Christmas, North!』監督:정성산/김성훈
2011年(公開年) 韓国映画 カラー

DVD(韓国盤)情報
発行・販売: EOS Entertainment 画面: NTSC/16:9(1:1.85) 音声: Dolby5.1 韓国語 本編:96分
リージョン3 字幕: 韓/英(On/Off可) 片面二層 2012年 2月発行 希望価格W25300

「両江道の子供たち」公開時挨拶(日本語字幕なし)
http://www.youtube.com/watch?v=nlLZd_bC8PM
※なお、最初に「江原道の子供たち」という誤った日本語のタイトルが出てくる

「両江道の子供たち」オリジナル予告編
http://www.youtube.com/watch?v=TnvXfEiqg0U

韓国における北朝鮮関連映画

『茂山日記』映画評
http://yohnishi.at.webry.info/201203/article_15.html

『豆満江』映画評
http://yohnishi.at.webry.info/201202/article_6.html

『豊山犬』映画評
http://yohnishi.at.webry.info/201111/article_2.html

『境界都市』映画評
http://yohnishi.at.webry.info/201103/article_8.html

『夢はかなう』映画評
http://yohnishi.at.webry.info/201101/article_14.html

『クロッシング』映画評
http://yohnishi.at.webry.info/200904/article_11.html

『境界』映画評
http://yohnishi.at.webry.info/200901/article_11.html





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