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zoom RSS 『茂山(ムサン)日記』 - 韓国における脱北者の希望なき日常を描く

<<   作成日時 : 2012/03/26 07:57   >>

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画像 2011年に韓国で『番人』『豆満江』と並び話題となったインディー映画の一角。韓国では無視されがちな韓国における脱北者の日常生活を描く。

 スンチョル(パク・ジョンボム)は脱北者。ハナ院(脱北者に対して、韓国社会への適応訓練を行う施設)を出たが、金もなく、ハナ院で顔を合わせた友人、キョンチョル(ジン・ヨンウク)が借りているアパートに転がり込んでいる。世渡り上手のキョンチョルに対して、スンチョルは世渡り下手。キョンチョルが自分のアパートに女の子を連れ込んでも、スンチョルは石のようにじっと息を潜めているいるだけ。
 スンチョルはハナ院からお世話になっているパク刑事(パク・ヨンドク)の紹介で衣料会社の就職面接に行くものの、住民登録番号に125がつく(=脱北者である)ことで、拒絶されてしまう。というのはこの会社で要求されるポジションでは、中国にたびたび出張に行かなければならないのだが、中国政府は脱北者に対しビザを出さないからだ。
 仕方なく、勝手に街角にポスターを貼るアルバイトをして糊口をしのいでいる。だが彼のポスターの貼り方は悪いと上司から邪険にされ、さらにポスターを貼る場所にも縄張りがあるらしく、スンチョルはやはりポスター貼りで糊口をしのいでいる連中から、縄張りを荒らすなと脅迫されている。
 そんな彼にとって唯一の心の慰めは仕事の途中で拾ってきた犬、ペック(白狗)であった。
 世渡り上手でお調子者である同居人のキョンチョルも、それなりにスンチョルに対して友情を感じており、ろくなものを着ていないスンチョルに対し、暖かいダウンジャケットを買ってやるのだった。

 スンチョルは、一方で熱心なキリスト教徒であり、教会に通っている。彼には教会に憧れの女性がいた。それは聖歌隊で歌を歌っているスギョン(カン・ウンジン)である。彼はいつも彼女が聖歌隊で歌の練習をしているのを外から密かにのぞいていたのだった。彼はある日、スギョンの後をつけ、彼女がカラオケで働いていることを知る。そして、彼はそのカラオケにアルバイトとして応募し、採用される。そのカラオケ店はスギョンの父が経営する店であり、彼女はそこで父の仕事をサポートしているのだった。
 スギョンにとってのスンチョルは、彼が教会に通っているとは気づいてもいないような存在であったが、彼女から手ほどきを受けて仕事をするスンチョルにとっては天にも上る心地だった。
 だが、スンチョルにとっての幸せな日々は長く続かなかった。同居しているキョンチョルが、同じ脱北者仲間から、北朝鮮に送金してやると証して、金をぱくったのではないかという疑いをかけられる。そしてスンチョル自身も、客からセクハラを受けていたアルバイトの女の子をかばったことで客とトラブルになり、スギョンから解雇を宣告される...

 本作は、監督の大学の後輩で脱北者だった故チョン・スンチョル(2008年死去)から監督が聞いた体験談に基づいて創作されており、主人公のスンチョル役は監督自身が演じている。
 韓国において脱北者が決して北朝鮮から苦労して逃げてきた人たちだと同情を持って見られているわけではなく、所詮二等国民としてしか見られていない冷徹な現実を赤裸々に描く。
 ラストシーンの、いきなり切断されたような衝撃的な終わり方は、フランスのアブドラティフ・ケシシュ監督の作品を髣髴させる。そういえば本作は脱北者という移民、そしてケシシュ監督の作品も主にマグレブ系フランス人もしくはマグレブ系移民の世界を描いているという点も共通している。
 おそらく本作に出てくるペック(白狗)は、いささか融通が利かない点もあった彼の良心のシンボルなのであろう。
 なお韓国盤DVDには監督が2008年に撮った短編映画『125 チョン・スンチョル』が収録されているが、本作は『125 チョン・スンチョル』の基本コンセプトを引き継いだ作品であることが分かる。
 ちなみに、本作に出てくる犬のペックは、映画ドラマ出演用の犬をレンタルしたのではなく、ソウル近郊の牡丹市場で売っていた犬の中からおとなし目の犬を選んで買ってきたそうだ(DVD収録の監督・俳優コメンタリーによる)。犬がうまく演技してくれず、映画の撮影全体がだめになる可能性も考えながら心配もしていたそうだが、結果的に予想外の名演技を発揮してくれて非常に助かったそうである。またパク刑事役は監督の父親。『125 チョン・スンチョル』にも出演している。監督の母親は映画撮影時に製作経費節約のため撮影クルーの食事の炊き出し係を務めたそうで、まさに家内工業で作られた作品。

 本作は韓国では2011年4月4日封切り。韓国での観客動員数は11,082人。日本では、2011年東京フィルメックスに出品され審査員特別賞を受賞している。また国内一般公開の予定もあるようだ。

 監督のパク・ジョンボムは1976年生まれ。2000年東国大学映像大学院在学中に短編『死境』で延世映画祭大賞を受賞。引き続き『死境をさまよう』で2001年釜山アジア短編映画祭大賞と観客賞。2008年に作った『125 チョン・スンチョル』でMise-en-scene映画祭(韓国)で審査委員特別賞を受賞。この短編がかなり好評で各地の映画祭に招待されたほか、イ・チャンドン監督の『詩 (ポエトリー)』に助監督として参加。そして『125 チョン・スンチョル』拡大版である初長編の本作で2010年釜山映画祭ニューカレンツ部門受賞。2011年イタリア、ピサロ映画祭大賞等多数の国際映画祭で受賞した(以上Daum映画データベース記述を元に執筆)。

 本作の韓国盤DVDだが、解像度が甘い上に輪郭強調も目立ち画質は芳しくない。おそらく一旦Mpeg圧縮かけたものを再度解像度を落してエンコーディングしなおしたのではないかとしか思えない。とはいえ、日本の新作映画でさえこの程度の画質のDVDはあるので、一概にだめとも言えないところではあるが。

原題『무산일기』英題『Journal of Musan』監督:박정범
2010年 韓国映画 カラー 127分(東京フィルメックス上映時間)

DVD(韓国盤)情報
発行・販売: Art Service 画面: NTSC/16:9(1:1.85) 音声: Dolby2 韓国語 本編:128分
リージョン3 字幕: 韓/英(On/Off可) 片面二層 2012年3月発行 希望価格W25300

東京フィルメックス『茂山日記 - 白い犬』
http://filmex.net/2011/fc06.html

日本語版予告編
http://videotopics.yahoo.co.jp/videolist/official/movie/p040753f9f2bc8434b275326be01641d9


アブドラティフ・ケシュシュ監督作品
『ヴォルテールでの過ち』
http://yohnishi.at.webry.info/201111/article_1.html

『エスキーヴ』
http://yohnishi.at.webry.info/201008/article_4.html

『クスクス粒の秘密』
http://yohnishi.at.webry.info/200907/article_4.html


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コメント(1件)

内 容 ニックネーム/日時
こんにちは!
とても興味深い内容ですね。


笠木忍
2012/04/06 14:26

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