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zoom RSS 韓国映画『霧』 - 「ポエトリー」のユン・ジョンヒ全盛期の姿が美しい

<<   作成日時 : 2012/02/21 00:33   >>

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画像 キム・スヨン監督全盛期の1967年作品。当時としては実験的であった革新的な手法を大胆に取り入れたと評価される作品で、キム・スヨン監督の代表作のひとつに数えられる。

 製薬会社常務理事、ユン・ギジュン(シン・ソンイル)は倦怠感を感じていた。彼は朝鮮戦争中兵役を忌避して、霧以外名物とは言えるものは何もない田舎である霧津(ムジン)の実家で隠棲し、健康を害しながら、世の中を斜めに見ていた。それが、戦後社会が復興していく中、ソウルに上京し、幸運にも戦争のため未亡人となっていた娘(イ・ビナ)をつかまえて結婚し、今や常務理事。そして今彼を愛する妻は、彼を専務の座につけようと株主総会に向けて準備に余念がない。だがギジュンはそんな絵に描いたような成功街道を歩む自分に割り切れないものを感じていたのだ。
 そんな中、株主総会が開けるまでしばらくあるので、故郷に戻って1週間ほど母(キム・シンジェ)の墓参を兼ねて静養してはどうかと妻から勧められる。その言葉に従ってギジュンは今や列車とおんぼろバスを乗り継いで、ソウルから遠く離れた霧津に戻ったのだ。
 ギジュンは故郷で、かつての同級生の出世頭で、今や税務署長であるチョ・ハンス(イ・ナックン)や、学校の後輩で今や教師となっているパク(キム・ジョンチョル)に久しぶりに出会う。その酒席で、ギジュンはソウルの音楽大学を卒業して、最近この霧津に赴任になったという不思議な雰囲気を持つハ・インスク(ユン・ジョンヒ)に出会う。チョはすっかり彼女と結婚する気になっている一方、パク先生もひそかに彼女にアプローチを仕掛けている模様。地元の男たちを幻惑しつつある彼女であるが、しかしその胸の内は...

 本作は、DVD付属の音声解説(キム・スヨン監督本人×映画研究家キム・ヨンジン)によれば韓国映画史上初めてのフラッシュバック導入作だという。この音声解説におけるキム・スヨン監督の弁によれば、ストーリー重視の当時の韓国映画界にあって、彼は当時の流れに逆らってストーリーよりも映像主導の作品をかねてから作りたいと思っていたという。そんな中、作家キム・スンオクの小説「霧津(ムジン)紀行」を読み、そのような意図を実現する原作として使えそうだと映画化を決意。しかし、通常ならキム・スヨン監督自ら脚本を手がけるところだが、1967年は彼の作品が10本公開され、1年に6本製作するという多忙を極めた年で到底脚本を手がける余裕もなく、原作者のキム・スンオクを脚本家としても起用したという。画像
 ところがキム・スンオクは元々小説家で映画脚本を手がけた経験が少なく、通常の脚本家なら映画の流れや構成を考えながら脚色していくところを、小説の発想そのまま、回想の場面もそのまま残した脚本になったという。
 通常の監督なら現場で脚本を手直しすることは一般的であり、また当時の映画的発想からかけ離れた脚本なら、当時の常識からすれば編集で時間軸順に直していくというのが当然であったが、キム・スヨン監督は、むしろ、意識の流れのまま書かれ、現在と過去が交錯する断絶が面白いと、脚本を積極的に評価、ほぼそのままで撮影・編集に臨んだそうだ。従って、取り立てて、海外作品のフラッシュバックを取り入れようと最初から狙って作った訳ではなく、自分の作品の技法がフラッシュバックと呼ばれるということも後になって指摘されて気づいたという。
 このため脚本家からは自分の脚本がそのまま映像化されたと喜ばれ、日本で編集技術を学んだ編集担当のユ・ジェウォンには、日本でもこんな映画は出会わなかったと時間軸の交錯に面食らわれながらも、編集作業自体はむしろ脚本どおりなので易しかったのだという。
 キム・スヨン監督は、本作を手がけることを通じて、映画と小説のドラマトゥルギーは基本的に共通するという確信を得るに至ったという。

 映画のストーリー自体は都会で成功しながらも心にもやもやとしたものを抱えた男が故郷に戻って一時的に浮気するという、ありがちなパターンではある。しかし、意識の流れのまま徹底的に主観的な視点から描いていくという当時の韓国映画界としては斬新な発想(徹底的に客観ショットしか使わない小津映画の対極を行く作品である)、そして短いカットを活かした映像のリズム感に1)フラッシュバックの多用という技法的な革新性とあいまって、映像でこそモノクロではあるものの、今なお古さを感じさせない。
 また、故郷で実家に隠れて徴兵逃れをしながら、世相に批判的な立場から悶々としていた当時の主人公がの姿を、フラッシュバックを通じて、世俗的な成功を収めすっかり俗物と化した今日の姿を対比させ、そして回想の中の自分によって現在の自分を批判させることで、主人公の心の中の葛藤を巧みに描いていく心情描写にも見るべきものがある。
 それが当時全盛期であったシン・ソンイル、ユン・ジョンヒの魅力を最高度に引き出している。特に、他作品でも姿を何度か見かけているシン・ソンイルがこれほど格好よく描かれている作品は、管見では、他にない。また、今日本で劇場公開されているイ・チャンドン監督の『ポエトリー』で、年老いたユン・ジョンヒしか見ていない観客には、本作の韓国盤DVDには日本語字幕が収録されていることもあり、ぜひ本DVDを通して本作に出てくるユン・ジョンヒの全盛期の魅力に接していただきたい。

 本作品は1967年公開。観客動員数は13万6千人(KMDBデータ)。第14回アジア映画祭(東京)監督賞他受賞。

 本作の韓国盤DVDはキム・スヨン作品4本が収録されている。今まで韓国映像資料院のDVDはデジタル修復と称していても、結構埃が盛大に残っている場合が多かった。しかし本DVDは、完全には取りきれてはいないものの、かなり埃や傷が除去されている。その自信の表れか、修復前、修復後比較映像がDVDに付録として収録されている。
 なお、日本語字幕の収録はオリジナルの台詞に対してのみであり、音声解説には日本語字幕はないものの、韓国語・英語字幕は音声解説に対するものも収録されている点で貴重。音声解説は、オリジナルサウンドトラックより聞き取りやすい上、それに対する韓国語字幕付という点で、韓国語中級者以上のヒアリング教材としてもお勧め。

1)キム・スヨン監督は音声解説の中で、当時の、長回しのロングテイクこそ芸術的であるとありがたがる風潮に対して、違うと思っていたと述べている。

原題『안개』英題『Mist』監督:김수용
1967年 韓国映画 モノクロ 95分(Cine21情報)

DVD(韓国盤「キム・スヨン コレクション」)情報
発行: 韓国映像資料院・Blue Kino 販売: Blue Kino 画面: NTSC/16:9(1:2.56) 音声: Dolby1 韓国語
本編:79(本作)分 リージョンALL 字幕: 韓/英/日(On/Off可) 片面一/二層(4枚組) 2011年 12月発行 
希望価格W49500

キム・スヨン監督『ある女優の告白』映画評
http://yohnishi.at.webry.info/201201/article_9.html

イ・チャンドン監督『詩(ポエトリー アグネスの詩)』映画評
http://yohnishi.at.webry.info/201011/article_8.html

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