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zoom RSS 『道 - 白磁の人』 - 日朝の懸け橋となった浅川巧を描いた映画

<<   作成日時 : 2012/02/24 18:37   >>

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画像 李朝白磁の再評価に当たって功績が大きく、また朝鮮の山の緑化に力を尽くした山梨県北巨摩郡甲村(現在の北杜市)出身である淺川巧の生涯を描いた作品。原作は江宮隆之の小説「白磁の人」(河出文庫)。住宅設備メーカー・小泉、バルブメーカー・キッツの出資や山梨県、北杜市の支援で製作された。中国映画『道の上で』(監督は、北京芸術大映画科に留学した韓国人監督キム・プンギ)と並んで、KOFICの初の海外映画製作支援作に選定されてもいる。当初の企画から7〜8年ぶり、4年前に映画化作業が具体化してからも当初製作会社として名乗りを上げていたシネカノンの倒産、監督、脚本家の度重なる二転三転でどうなることやらと思われた作品だが、ようやくほぼ完成というところにこぎつけた。当面、3月の大阪アジアン映画祭の開幕作上映、そして今年度6/9より一般公開が決まったようだ。最終的に決まった監督は『復讐するは我にあり』『光の雨』等で知られる高橋伴明、脚本は林民夫。製作会社はアマゾン・ラテルナ、韓国側の製作協力会社はCJ Powercast。

 山梨県北巨摩郡甲村出身の浅川巧(吉沢悠)は、一足先に朝鮮に渡った兄、伯教(石垣佑磨)と母けい(手塚里美)を追って1914年朝鮮にわたり、京城近郊にある朝鮮総督府の林業試験所に勤務する。山梨県の田舎育ちの巧にとって、大都市である京城では見るものも聞くものも珍しいものばかり。
 そんな巧は、初出勤途上の京城の市電の中で一人の日本軍人が、朝鮮人のお年寄りを無理やり立たせて席を座る場面を目撃する。それに見かねて自分の席をお年寄りと替わってあげると、お年寄りが朝鮮語でなにやらもにゃもにゃ言う。きょとんとしていると、隣に立っていた朝鮮人の青年が「ありがとう」と言っているのだと教えてくれる。それが巧とイ・チョンニム[李青林](ペ・スビン)との最初の出会いだった。
 林業試験所に着いて、所長(大杉蓮)や上司町田(田中要次)に挨拶し、木の苗をいじっていると、彼をじっと見ている朝鮮人の助手がいる。その青年こそ今朝出会ったチョンニムであった。こうして巧とチョンニムはコンビを組んで仕事をするようになる。
 やがて巧は、朝鮮の山の植林に成長の早い外来種であるカラマツを植えようとする林業試験所の方針に疑問を持ち、朝鮮在来種であるチョウセンゴヨウマツを植えるべきだと進言するが、誰も発芽に成功していないという。そこでチョンニムとともに、チョウセンゴヨウマツの発芽試験を行うがなかなかうまくいかない。だが、やがて本来の生育環境に近い土壌を使えば高い確率で発芽することを発見し、チョウセンゴヨウマツによる植林計画は一歩進むことになる。
 その一方、朝鮮陶磁器の収集家である兄の家で巧は李朝白磁に強く魅せられる。巧は、兄のところに度々出入りしていた柳宗悦(塩谷舜)とともに、生活に根ざした白磁の収集や研究にも熱を入れるようになる。
 そして、巧は山梨から彼を追ってきたみつえ(黒川智花)と結婚し、娘ももうける。
 巧は朝鮮の民衆を愛し、チョンニムについて朝鮮語も学び始める。だが、彼の朝鮮語がある程度上達したところでチョンニムに警告される。朝鮮の人々はあなたにニコニコと笑いかけるけれども、それはあなたが日本人だからだ。日本人にひどい目に合わされないように笑顔で応えるのであって、朝鮮の人々に受け入れられたと勘違いしないように。さらに、巧の母親も巧が示す朝鮮人に対する情を快く思っていないのだった。
 そして1919年、3.1独立運動。試験所で雇用している朝鮮人の中にも蜂起に参加して警官に殺されるものが出る。チョンニムも妻から抗日独立運動に参加すべきだと言われるが、巧との関係上、悩んだ挙句、蜂起に直接参加することは断る。しかし、チョンニムの周辺から蜂起への参加者が出たため、チョンニムも試験所を解雇されてしまう...

 かつて、この手の日韓友好物映画で、新大久保の鉄道事故で亡くなったイ・スヒョン氏を顕彰する映画の出来がかなり酷かったので1)、本作の出来も憂慮していた。関係者から、製作開始初期段階で山田洋二監督にオファーを出したところ、いい脚本がなければ受けられないと断られたという話も聞いていた(おそらく、原作にドラマとしての起伏が乏しいので、そのままでは映画に出来ないと山田監督は考えたのではないか?)。その後、製作会社の倒産もあって、監督、脚本家も二転三転していた。
 しかも、淺川巧も、イ・スヒョン氏同様、とにかく「いい人」であり、もちろん「いい人」は実生活では望ましいだろうが、ドラマ化しようと考えた時に、なかなかドラマになりにくい。朝鮮人女性とのロマンスがあったわけでもない。一体どう料理するつもりなのだろうと思っていたのだが...
 結果的には予想は良い意味で裏切られた。高橋伴明&林民夫コンビは、巧&原作小説に出てくる架空の人物であるチョンニムのコンビを通して朝鮮植民地支配史をたどり、その中で日本と朝鮮の挟間で葛藤する二人の心理に焦点を当てることに着地点を見出した。チョンニムの役割も原作小説よりかなり大きくなった。
 例えば、映画の中で描かれる巧は、3.1独立運動後の日本側の弾圧に抗議の意味で、朝鮮の民族衣装であるパジチョゴリを着て警官の罵声を浴びるが、チョンニムから、所詮抑圧する民族であるあなたがいくらパジチョゴリを着て善人ぶってみても、何もならないと冷たくあしらわれる。
 また、朝鮮人の文化的遺産である李朝白磁が失われてしまわないよう、白磁や白磁に関する資料を収集しようとする巧の意気に感じたチョンニムが巧の作業を手伝おうと決意すると、チョンニムの妻は、所詮日本人が我々の文化まで奪おうとする作業の手伝いをするだけだと冷たく言い放つ。子供たちも父さんが親日派になってしまったと嘆き、父さんが親日派になってしまっても、自分たちだけは日本に抵抗するのだと誓い合う。
 実際彼(ら)の作業は、朝鮮総督府の3.1独立運動後、武断統治から文化統治へと転換する流れに結果的に乗るものでもあった。だから、今日の韓国で、朝鮮の「用の美」を宣揚した柳宗悦が必ずしも肯定的に評価されている訳ではないのである2)。

 日本人である巧がいくら心から「善行」を積んだとしても、それが必ずしも朝鮮の人々から評価されるわけでもなく、時にはむしろ日本の植民地支配の強化の道具に使われる可能性すらあった。原作の基本設定を残しつつも、浅川巧をただ朝鮮人のために良いことをやったで終わらせずに、そういった微妙な部分をきちんと書き込んだ脚本(or映画のロジカルな側面)は評価できる。後は欲を言えば、もうちょっと俳優の演技力があれば... という点、それに「白磁の人」というよりは「木を植える男」になってしまったきらいがあるあたりか。
 ともあれ夜郎自大な歴史観を脱した朝鮮植民地史入門としてお勧めしたい。

 巧の「善行」も所詮日本の植民地支配の強化の道具に使われるものだとしたら、巧は朝鮮語を学ぶべきではなく、パジチョゴリを着るべきではなく、白磁の研究もやるべきではなく、朝鮮の山にチョウセンゴヨウマツの苗を植えるべきではなかったのか...?その答えは皆さんが出して欲しい。

 植民地時代の京城はおそらく陜川(ハプチョン)の撮影セットを使ったものであろう。気になったのは、このセットに出てくる看板の漢字の書体が当用漢字体になっている点、それからこのセットを使った他の映画にも言える点だが、市電が走っているのだから本来空中に架線があるはずなのだが、それが全くない点である。誰か気づく人はいないのかといつも思うのだが...

[試写による評]

1)あえて映画名は出さないが、結局「いい人」のイ・スヒョン氏ではドラマにならないので、ありもしない日本人の女の子とのロマンスを創作し、その女の子の活躍をイ・スヒョン氏が背後霊のようにただ見守るというお話を作って、その最後に新大久保の事故の場面を付け足すという、悪い意味で「実話」モノ韓国映画を見習ったような作品で、一体こんな映画でイ・スヒョン氏の顕彰になるのかなと疑問符をつけざるを得ないような作品であった。

2)高崎宗司の「朝鮮の土となった日本人 - 浅川巧の生涯 [増補新版]」(1998. 草風館)によれば、柳批判の嚆矢は1976年の崔夏林による、柳の朝鮮民族の特徴を悲哀の歴史、悲哀の美、と見る視点に対する批判だという(同書 p59)。これは朝鮮民族の歴史を悲惨の連続としてとらえることは、日本人の朝鮮蔑視並びに植民地支配を正当化することにつながったからである(同書p166)。
 しかし在日朝鮮人歴史家、李進煕によれば柳を「悲哀の美」すべてと評価することは間違っているという(同書p175-6)。むしろ1920年代後半には柳は巧の影響を受けて「悲哀の美」論を克服してたと李は評価する(李進煕ほか.1978.「『季刊三千里』をめぐる思想と行動」.『朝鮮人 - 大村収容所を廃止するために』1978年3月号)。

原題『道 - 白磁の人』 英題『The Way - Man of the White Porcelain (直訳題)』 監督:高橋伴明
2012年 日本=韓国映画 カラー 120分(試写会上映版)


『道 - 白磁の人』公式サイト
http://hakujinohito.com/




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