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zoom RSS 『高地戦』 - 「帰らざる海兵」への21世紀版答状 [韓国映画]

<<   作成日時 : 2011/12/12 18:04   >>

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画像 2011年韓国で朝鮮戦争をテーマにヒットした作品。本年8月14日現在で2,809,089人の観客動員を記録している1)。監督は『義兄弟』のチャン・フン、脚本は『JSA』のパク・サンヨンとくれば期待がもたれるのも当然であろう。

 1953年2月、休戦協定が難航していた中、交戦が激しさを増していた東部戦線最前線のエロク高地にて戦死した中隊長の死体から自軍の弾丸が発見された。さらに、やはり東部戦線の郵便の中から北朝鮮人民軍の関係者が南側の故郷にあてた手紙も発見される。軍上部ではこれらの事実から、韓国軍内部に敵の内通者がいるのではとの疑いを持つ。
 これらの疑惑の解明のため防諜隊の中でも浮いている存在だったカン・ウンピョ中尉(シン・ハギュン)に東部戦線に行き調査しろとの任務が命じられた。
 カン・ウンピョは、東部戦線に新たに赴任するチェ大領[大佐](チェ・ジョンウ)とまだ10代の二等兵ナム・ソンシク(イ・ダウィ)とともに東部戦線に向かう。東部戦線の中でも最大の激戦地であるエロク高地を守るのは勇猛で名高い「鰐」中隊。そこに配属されたカン・ウンピョはだが、その名声とは裏腹に腑に落ちない点が多い。まず、寒いと北朝鮮人民軍の軍服を着こむ兵がいる。それに中隊長は、ようやく20歳になったばかりのシン・イリョン(イ・ジェフン)大尉。そして死んだと思っていた戦友キム・スヒョク(コ・ス)にも出会う。2年前軟弱な学生兵だったスヒョクと彼は北朝鮮人民軍の捕虜になる。幸いにも、「あと1週間でわが軍は全土を制圧するから諸君は故郷に帰って新朝鮮建設の礎となれ」と豪語していた人民軍中隊長ヒョン・ジョンユン(リュ・スンリョン)のおかげでウンピョは釈放されるが、スヒョクは人民軍に拉致され殺されたものと思っていた。だがスヒョクは、国軍に戻っており2年の間に二等兵から中尉へと特進し、「鰐」中隊の実質的リーダーになっていた。、
 ウンピョは生き残るのがやっとのエロク高地戦線の過酷な現実と向き合うことになるとともに、その中で「鰐」中隊の理解困難な行動にも直面する...

 まず、本作を見て真っ先に感じたのは、この作品は朝鮮戦争を描いたイ・マニ監督の古典的名作『帰らざる海兵』(1962)へのオマージュ、あるいは、彼が提起した問題に対する21世紀版回答ではないのか、という点である。
 場面の随所に『帰らざる海兵』を思わされる場面が挿入されているし、エロク高地をめぐる攻防の場面も『帰らざる海兵』の最後の決戦の場面を髣髴させる。地形面でも、蟻の大群のように押し寄せる中国兵への恐怖にしても... もっとも、『帰らざる海兵』は今でもそうなのかどうかは分からないが、韓国では毎年朝鮮戦争の開戦の日である6月25日になると必ずTV放映されたということであるから、それが彼らの朝鮮戦争イメージのプロトタイプになっているせいかもしれない。だがおそらく、『帰らざる海兵』と同様な設定で、軍事政権下であった『帰らざる海兵』当時盛り込めなかったメッセージを盛り込みたいという、かの映画に対する監督・脚本家なりの回答状という意味合いがあるのではないだろうか。もちろん、本作の脚本家が『JSA』の脚本家であることから、『JSA』を想起させる設定も見受けられる。

 では彼らの本作に込めたメッセージとは何か、ということであるが、最近では図らずも本(2011)年9月にNHKで放映されたドキュメンタリー『おじいちゃんと鉄砲玉』、あるいは古くは深作欣二監督の『軍旗はためく下に』や原一男監督の『ゆきゆきて神軍』などと共通するものがある。つまり、戦争によって理不尽な命令を下された、あるいは不条理な状況に陥れられた時であっても、軍紀(もしくは軍規)にあくまで忠実にあるべきかどうかという葛藤に直面させられた人々を描いている。そしてこの不条理状況の描写を通じて戦争の非人間性、不合理性を告発するとともに、さらに同民族である南北同士の対立の無意味さをも抉り出している3)。
 こういった点で、チャン・フン監督と同じキム・ギドク門下の監督によって撮られた『豊山犬』が厭南北対立感情を浮き彫りにするに留まったのに対し、よりロジカル(論理的)な批判に到達していると同時に、おそらく今まで朝鮮戦争を描いた作品が描けなかった地点から描くことに成功している。これは国内でも公開された『砲火の中で(公開邦題: 戦火の中で)』と比較してみればその立脚点の違い、着眼点の卓越性は鮮明になるだろう。そして日本国内でも『軍旗はためく下に』的な視点が決して多数派を占めているわけではない今日2)、本作品が韓国において300万人近い人々に見られたという意義は決して小さくない。

 ともあれ、韓国の戦争映画史上、新しい視線を切り拓いた傑作として強く推薦したい映画。チャン・フン監督の前作『義兄弟』に関しては、娯楽作として割り切るならばよくできた作品であっても、南北対立の掘り下げという点では不満の残る作品であったが、脚本家にパク・サンヨンを迎えて、その弱点をきちんと克服して出してきた。本年度大鐘賞、最優秀映画作品に選ばれたのも当然であろう。本作は2011年7月20日韓国封切り。国内未公開。

 本作品の韓国盤DVDは初回限定で本編、特典およびサントラCDの入った3枚組。画像解像度に関しては、最近のKD MEDIAからリリースされている諸作品クオリティに準じておりベストとは言いがたい。韓国国内で本作のBlu-rayは2012年1月リリース予定。

1) Cine21データより。

2) 深作欣二監督物故後、国内では過去の深作作品が次々とDVD化されているにもかかわらず、本作品がなぜか依然DVD化されていない(海外ではDVDリリースされているのに)ことでもそれは明らかだろう。靖国問題が対アジア(中国、韓国等)的な視点から批判されることはあっても、靖国から切り捨てられ排除された兵士や、戦場の現場を知らない参謀、軍幹部によって消耗品のように戦場に送られ、犬死させられた兵士の視点から批判されることがあまり(いや、ほとんど)ないというのも、このような観点をとることの難しさを象徴している。

3)やはり、同様のテーマを扱った中国映画『戦場のレクイエム』は、最終的結末を国家による顕彰に委ねてしまった。だが本当にそれでよかったのかという疑問は残る。とはいえ、図らずも中国映画である『戦場のレクイエム』を通して、日本における靖国神社の機能を再確認できるという意味では、この作品の一見もお薦めしておきたい。

原題『고지전』英題『The Front Line』監督:장훈
2011年 韓国映画 カラー 133分(韓国劇場版)

DVD(韓国盤)情報
発行・販売: KD MEDIA 画面: NTSC/16:9(1:2.35) 音声: Dolby5.1 韓国語 本編:133分 リージョン3
字幕: 韓/英(On/Off可) 片面二層(特典盤、サントラCD付3枚組[初回限定]) 2011年 11月発行 
希望価格W23700

『義兄弟』映画評
http://yohnishi.at.webry.info/201007/article_6.html

『軍旗はためく下に』映画評
http://yohnishi.at.webry.info/201108/article_7.html

『戦場のレクイエム』映画評
http://yohnishi.at.webry.info/200901/article_7.html

2012.9付記
本作品は、2012年10月末国内一般劇場公開が予定されている。
国内公式サイトは
http://www.kouchisen.com/

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