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zoom RSS 書籍: 韓洪九,2010(=2009),『倒れゆく韓国』

<<   作成日時 : 2011/09/22 20:19   >>

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韓洪九,2010(=2009),倒れゆく韓国 - 韓洪九の韓国「現在史」講座, 米津篤八訳, 朝日新聞出版社
 韓国革新勢力の代表的知識人である韓洪九(専門は韓国現代史)の、韓国の今の社会情勢を解説した本。本書の1章から8章勝までは2009, "특강 한흥구의 한국 현대사 이야기",ハンギョレ出版の翻訳で、第9章は2009年6月14日に、東京、恵泉女学園大学で行われた特別講演の翻訳。金大中、盧武鉉の系列に連なる韓国の革新勢力が、保守の李明博政権に代わった今日の韓国社会をどう見ているかの貴重な証言であるとともに、今日の韓国社会の見取り図を提供する。

 本書を読んで非常に印象的なのは、親日派(韓国で「親日派(チニルパ)」というと、日本に友好的な韓国人と言う意味ではなく、民族の裏切り者、売国奴と言う意味)に対する非常に厳しい断罪姿勢。とは言え、植民地時代に知識人たろうとすればそれだけで「親日派」になりかねない時代に、やはり単に「親日派」というだけでやみくもに断罪すべきではないと言う(それは当然だ)。その中で、著者によれば、無条件に許せないのは、植民地時代に警察権力にいたり協力していた韓国人(警官および憲兵補助員)だという。それは独立運動家を密告、逮捕、拷問、虐殺した連中からである。そして最大の問題はそういった連中が、解放後の大韓民国にそのまま警察権力等の形で引き継がれたことであるという。それはアメリカが、そのような連中を(一般旧朝鮮総督府官僚組織も含めて)再活用したためだ。そのため、親日行為(=売国行為)の清算が行われなかったと、著者は言う。

 ただ、我々にとって意外なのは、同じ国家の暴力装置である警察と軍のうち、悪質性の高いのは警察であって、軍ではないと著者は主張する。これは、韓国政府から目をつけられた左派が、灯台下暗しと、むしろ軍に潜入するケースが多かったためだという1)。そして、朴正熙や金鐘泌は、実はそれら軍にいた左派だったのだという2)。だから済州4.3事件の際も、住民たちから標的にされたのは警察であって、軍でなかったそうだ。

 そう指摘されてみると、確かにイム・グォンテク監督の『太白山脈』では軍人たちが子どもたちから「軍隊アジョシ」と親しみを込めて呼び掛けられる場面があったし、軍の指揮官が、地主を襲う農民に対して理解があり、地主たちからの憤激を買うという場面があった。また麗水、順天蜂起も、済州へ4.3事件弾圧のため派遣が決まった軍の中から起こっているし、なるほどと納得させられる。

 さらに韓国軍の指揮権は基本的にアメリカ軍が握っており(最近この指揮権を韓国政府に返すかどうかということが話題になった)、権力者は自由に軍という暴力組織を使えないため、李承晩時代に「戦闘警察(日本の機動隊に相当)」という組織を作ったという。同様に、映画化もされた実尾島の特殊部隊を、既に軍の中に特殊部隊があったにもかかわらず、設置したのも指揮権の関係からだという。つまり米軍は北朝鮮と事を構えたくなかったので、北朝鮮と妥協的な立場に立ったのに怒った朴正熙が自分の意のままになる特殊部隊を設置したというのがその真相だという。

 このように謎解きがされてくると、韓国の一般民衆が警察に対して信頼感が非常に薄い理由が見えてくる。勿論賄賂を取った、ということもあるだろうが、そもそも警察が民衆のための組織ではない、権力のための組織だ、という感覚がベースにあるようである。このあたりの感覚が描かれている韓国映画は枚挙にいとまがない。

 ただ、一方で朴正熙や全斗煥らは軍出身であって、彼らの出現、クーデターというのはアメリカの指揮権との関係はどうだったのか、というあたりが依然疑問として残る。また朝鮮戦争当時、夜は人民軍、昼は国軍が来て、それぞれ右派、左派が殺されるというような『太白山脈』に描かれたような事態に直面しても、それでも軍に対する信頼感というのはあり続けたのか、というあたりも気になる。

 また一方ニュー・ライト勢力の出現についても言及しているが3)、韓国におけるニューライトとはもともと運動圏(学生運動や市民運動を行っていた層)出身で近年になって右派的な発言を繰り返すようになった勢力だという。つまり386-486世代で、最近になって右派に転じた人々ということになるのだろう。
 ニューライト勢力の発生を著者は、最近韓国の正統性、アイデンティティが揺らいでいると感じられて、それがニューライト勢力を生み出したとする。そしてニューライトが言う韓国のアイデンティティーとは国家保安法アイデンティティであって、本来の韓国建国憲法に基づいたものではないと著者は断じる。同時にニューライトは親日派を擁護・美化するため、彼らのアイデンティティに「民族」を入れることはできず、彼らが立てられるのは「国家」しかない、とも指摘する。
 ただ、著者の説明だけではなぜ80年代には、今から見ても「立派」な革新的な論陣を張っていた彼らが、後に右派に転じたのかがやはり納得しきれない。日本の場合、西部邁、藤岡信勝らの右派論客が、かつて左派であったことが知られている。しかし、日本においては戦後右派勢力が、すぐ直前までは「鬼畜米英」と非難していたアメリカと180度転換してアメリカと手を組むという「離れ業」をやってのけたお蔭で、右派の現実主義的対応が、決して日本における正統性を獲得できなかったという歴史的事情があった。一体何のため、日本人たちは死んでいったのか、右派はその理由を提供できなくなったのだ。右派を支持することは戦死者を犬死と認めることになる... 従って、戦後あっさり「親米」に転向することに躊躇した人々は、左翼を支持することによってその「正統性」感覚を維持しようとしてのである。だから、日本の右派の無節操な転向が忘れられるようになった最近になって、日本の正統性を求めて左派に肩入れしてきた人々がこぞって右派に転向したのも、無理からぬことである。
 しかし、韓国の場合はかつて国家保安法アイデンティティを非難してきた人々が、なぜ突然支持に回ったのかが、本書を読んでもよく分からない。彼らが利権にありつくような社会的立場になったから? それとも金大中、盧武鉉政権とも、イデオロギー的には革新的だったが、政策的にはネオ・リベ的政策を推進してきており(というふうに私には感じられるが)、そのネオ・リベに対する反発だったのか? それとも北朝鮮に対する評価を巡る対立? あるいは日本の植民地時代を巡る評価の問題なのか?
 また土建国家韓国と言う指摘は、私にとっては想定内。「何でも民営化」=ネオ・リベ的施策に反対する著者の姿勢も理解はできるが、問題はなぜ金大中、盧武鉉政権下でネオ・リベ的政策がどんどん浸透したのかというところだろう。金大中政権時はIMF管理下だったのでという説明もつくが、では盧武鉉政権では、という疑問に十分に応えられていない。

 また、私教育共和国(第7章)の指摘もおおむね想定内だが、面白いのは全斗煥政権下で「課外」学習を禁止たお蔭で、人々の教育費負担が下がり、機会均等が進んだということ。ただしこれも2000年に憲法裁判所が課外学習の禁止は憲法違反との判断を下して廃止されたという。また韓国の教員組合の全教組は、80年代は非常に国民から高い支持率を誇っていたが、今日それが地に落ちているということ。これは日本の日教組と似ている。その理由としては、「鉄飯椀(日本でいえば「親方日の丸」)」との批判を受けているということだが、それは同時に、今日の教育体制の不備が、すべて教員の責任に転化されているということ、それに対して全教組は、待遇問題は盛んに取り上げるが、教育問題は十分取り上げてこなかったという戦略的失敗を挙げている。

 いずれにしろ、本書は今日の韓国人の政治・社会感覚を包括的に紹介する興味深い書だが、私にとっては、100%その社会感覚の謎が解明されたわけではなかった。別の立場からの本も探してみたいと思う。

1)第6章、警察暴力の歴史、日本の巡査からデモ鎮圧まで
2)朴正熙の場合、解放後一時南朝鮮労働党で活動していたことがあったという(p240)。
3)第1章 歴史の内戦、ニューライトの登場



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