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zoom RSS 韓国最初の女性監督映画作品 『未亡人』

<<   作成日時 : 2011/08/13 00:04   >>

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画像 2011年7月に出た韓国映像資料院の古典映画DVDコレクション「戦後の風景」に収められた1枚。本作は韓国初の女性映画監督の手による作品として記録される。

 イ・シンジャ(イ・マンジャ)は、朝鮮戦争で夫を亡くし、娘チュ(イ・ソンジュ)と共に洋品店に勤めながら暮らしている。彼女は亡父の友人で会社社長のイ・ソンジン(シン・ドンフン)の援助を受けてなんとか生計を立てている。イ・ソンジンは彼女が内心気にかかりながら援助しているが、愛人関係ではない。しかしソンジンの妻(パク・ヨンスク)はてっきり愛人関係にあるものだと信じ、夫と手を切るよう怒鳴り込んでくる。しかし彼女はそんな行動をとりながらも夫とは別に若い愛人テク(イ・テッキュン)とつきあっていた。
 偶然、シンジャは娘を連れ漢江沿いのトクソム水泳浴場に遊びに行ったときに、デートに来ていたソンジンの妻とテクと居合わせる。そしてチュが溺れたのをテクが救助する。一方、妻の不倫を知ったイ社長は、シンジャに求愛するが彼女はそれを拒否し、むしろチュを助けてくれたテクと付き合い始める。
 シンジャはテクとの結婚を考え始めるが、チュがテクになつかない。そこで彼女はチュを同じ長屋の住人である男性にお金を払って預けてしまい、自分はテクと別の家で新婚生活を決行する。
 ところが、テクの職場に偶然、彼の元恋人ジン(ナ・エシム)が現れる。実はお互い朝鮮戦争で死んだものとあきらめていたのである。年上のシンジャと結婚したものの、昔の彼女の出現に彼女に走ってしまうテク... それを知ったシンジャは...

 本作品は、16mmのネガフィルムが発見されて韓国映像資料院で復元されたものであるが、最終巻が欠落している。また残っているフィルムの最後の10分も音声トラックが(おそらくフィルム毀損のため)欠落している。最後の結末は、当時の記事などによるとシンジャがテクを刺すという内容だったらしいという。

 いずれにしろ、当時は朝鮮戦争直後で、夫を亡くした未亡人が大量に発生し、彼女たちがどうやって男を捕まえるか、そしてどうやって生き残っていくのかが非常に大きな課題だった時代だったようだ。そのような時代にそれこそ手段を選ばずに生き残り戦略を働かせる女たちの姿を生々しく描いたのが本作。
 ちょうど、本作とほぼ同時期に、ハン・ヒョンモ監督の50年代最大のヒット作と言われる『自由夫人』が封切られるが、『自由夫人』で面白おかしく描かれる、韓国の儒教倫理にもとる不倫の陰に、男性不足で生き残り戦略を駆使することを迫られた女たちの存在があったという盲点を鋭く突く作品。そして男性監督の視点から作られた『自由夫人』が、家父長的秩序を脅かしながらも、最終的には儒教的、家父長的秩序の元へ帰っていくという構成をとったのに対し、本作は女性監督の視点が生かされたのか、「母性」も「儒教的倫理」もかなぐり捨てて、自らの生存戦略に掛ける女のしたたかな姿が生々しく描かれることにも驚かされる。

 題材は当時としては斬新であるが、Mise-en-sceneの技巧面では、現代の感覚からするとやはりまだまだな面がある。というより、「50年代ロマンチックコレクション」を見ても感じたが、50年代(特に前期〜中期)においては、Mise-en-sceneの技巧面でハン・ヒョンモ監督の実力が突出しており、彼が監督または撮影にかかわっていない、当時の映画は、やはり現在の感覚からするともたつき感が感じられてしまうのはやむを得ないところだろう。

 本作の監督である、パク・ナモク(朴南玉)は1923年慶尚北道ハヤン生まれ。父は慶北・大邱地域の製糸生産組合の組合長という、裕福な家庭の10人兄弟の3番目に生まれた。子供時代から文学・映画・芸術に関心を持ってたほか、学生時代は砲丸投げ選手としても活躍。慶北高女卒業後日本留学の夢を持っていたが校長および両親の反対で断念、梨花女子高専(現梨花女子大)に進学。このころ朝鮮の人気スター女優、キム・シンジェに定期的にファンレターを送るほど映画に耽溺した。卒業後結婚しろとうるさい両親の意向により大邱に戻っていたが、その時に投稿した映画評が高く評価され、大邱毎日新報に1944年に入社。
 解放後1946年にソウルへ上京、朝鮮映画社撮影所で働く。しかし再び結婚しろとうるさい両親の要求で再び大邱に戻るも1950年に朝鮮戦争が勃発すると国防軍撮影隊に入隊し、戦争記録映画撮影の仕事に従事。休戦後の1953年、劇作家であるイ・ボラと結婚。彼のシナリオと姉から借りたお金で1954年『未亡人』の撮影に取りかかる。子供を背負いながら撮影と編集作業にとりかかる。しかし女性だという理由で録音設備もなかなか貸してもらえず、検閲さえ、受け付けてもらうだけにひと苦労。劇場を確保するのも苦労し、ようやく1955年封切りにこぎつけるものの、わずか4日間の公開だった。
 1956年には離婚、その後雑誌「シナリオ・ファン」を創刊し活動。1957年には両親の勧めで親戚が運営していた東亜出版社に管理職として入社、21年間を同社で過ごす。この間娘を米国に留学させ、1980年には娘のいる米国ロサンゼルスに移住し現在に至る。
 封切り当時はほとんど知られていなかった『未亡人』は、再発見後の1997年第1回女性映画祭の開幕作に選定され、改めて、韓国史上最初の女性監督作品として知られるとともに、男性至上主義的視点が大半だった50年代映画における破格の作品として改めて脚光を浴びることとなった。
 なお、本DVDに2001年のパク・ナモクの姿を追ったドキュメンタリー『夢』が付加映像として収録されている。一見すると単なる韓国人のおばあちゃんだが、本棚には日本語の映画理論書が並んでおり、またアジア太平洋映画祭で『七人の侍』の三船敏郎から煙草をつけてもらう写真が飾られているが、それが自分にとっての最大の宝物だという。画像
 このドキュメンタリーによると、学生時代の彼女はキム・シンジェに相当入れ込み、のちに撮影現場を通して直接シンジェの知己を得た彼女は、戦中・戦後の混乱期、シンジェの「用心棒」的役割も務めたという。おそらく彼女は同性愛者であったかあるいは少なくとも"S"的傾向があったと思われ、それが度重なる両親の結婚の要請から逃げ回り、また結婚後3年で離婚した理由であったのではないかと思わされる(以上DVD付属パンフレットおよび付加映像の『夢』を参考に執筆)。

 本作DVDは、「戦後の風景」DVDボックスの中の一枚。映像については韓国映像資料院の他のDVDと同様、テレシネ自体は比較的良質で鮮明だが、埃や傷は取り切れていない。本編の字幕は韓国語、英語、日本語から選択できるが、付加映像のドキュメンタリー『夢』に関しては英語、韓国語のみ。

原題『미망인』英題『』監督:박남옥
1955年 韓国映画 モノクロ

DVD(韓国盤「戦後の風景」)情報
発行・発売 Blue Kino 画面: NTSC/16:9(1:1.33) 音声: Dolby1 韓国語
本編:76(本作)分 リージョンALL 字幕: 韓/英/日(On/Off可) 片面一層(4枚組) 2011年 7月発行 
希望価格W44000

「戦後の風景」DVD-BOX収録作品 『地獄花』映画評
http://yohnishi.at.webry.info/201109/article_19.html

「戦後の風景」DVD-BOX収録作品 『金』映画評
http://yohnishi.at.webry.info/201204/article_1.html

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コメント(2件)

内 容 ニックネーム/日時
 毎度、どんぐりです。紹介のあった「夢」というドキュメンタリーは山形国際映画祭のライブラリーに所蔵されています。映画祭に応募された作品だったんですね。
 出羽でわ。
どんぐり
2011/08/16 13:35
そうでしたか。情報有難うございます。
yohnishi
2011/08/16 18:46

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