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zoom RSS 海外版DVDでしか見られない日本映画(2)『軍旗はためく下に』

<<   作成日時 : 2011/08/09 07:21   >>

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画像 1972年、深作欣二監督が『トラ、トラ、トラ』の日本側監督を引き受けた収益で、自腹を切って製作した映画作品。現在東宝が権利を持っているものの国内ではDVD化されておらず、CS等でも放映されていないようだ。但し上映用フィルムは存在し、比較的近年でも深作追悼特集上映等で上映されている模様。VHSはかつて出ていた。

本作品のあらすじに関してはこちら(Goo映画)
http://movie.goo.ne.jp/movies/p19645/

 原作は結城昌治(1927-96)の同名の小説。小説の後書きなどを読むと、結城自身は戦争末期に海軍に志願したものの、ここに描かれる悲惨な前線経験はないようだ。しかし、戦後戦犯等の恩赦のための調査・書類作成作業の仕事に携わり、この小説に描かれているような悲惨な実例を数多く知ることになり、何とかこれらの事実を書き残さなければという使命感で小説化したのが原作小説だったようだ。
 この小説を読んで惚れ込んだ深作が自腹を切って映画化権を買い、映画化したのが本作品。この企画は今井正、山本薩夫ら日本共産党のシンパだった映画人が興した独立プロダクション、新星映画社に持ち込まれ、新星映画社・東宝提携作品として製作された。

 本作品は原作小説の中の主に「敵前党与逃亡」「上官殺害」のエピソードを中心に再構成されている。映画の中では、夫が終戦直後に処刑されたという理由で、恩給の拒否および靖国への祭祀を拒否された未亡人が夫の名誉を守るため、かつての夫の所属していた部隊関係者を一人一人捜し訪ね歩いて、夫の死の真相を探るという形に構成され直されている。従って左幸子演じる未亡人富樫夫人のキャラクターは映画で付け加えられたキャラクター。

 映画は何度も厚生省に、敵前逃亡で処刑との処分を受けた夫の名誉回復のため足を運ぶ富樫未亡人が、役人から夫の死の状況を知っていそうな元同僚を紹介され、彼らを一人一人訪ねて話を聞くのだが、ちょうど『羅生門』のようにそれぞれの言うことが皆異なり、真相はますます藪の中に入っていく。だが結局はそれは生き残ったものの自己保身、不都合な真相を知られたくないという思い、あるいは死んだ者への罪悪感から、それぞれが自分に不都合な事実を隠したり、嘘をついているという事情が透けて見えてくる。結局戦争という極限状態の中で人間が生き残るには倫理観もきれい事も捨てて薄汚く生きていくしかない、そしてその薄汚い生命力を肯定するしかない(肯定できなければ死ぬしかない)、ということを思い知らされる、という話であり、のちに『バトルロワイヤル』につながっていくようなテーマが現れている。
 同時に靖国や天皇による戦没者の顕彰、そして軍旗、日の丸といった聖化装置が、生き残った者が勝ちという「勝」者の後ろめたさや罪悪感を浄化し正当化する装置として働いているという構造が明らかになっていく。最後の「父ちゃん、あんたやっぱり、天皇陛下に花をあげて貰うわけにはいかねぇだね。もっとも、何をされたところであんたはうかばれもしねぇだね」という富樫未亡人の科白が重い。

 キャストは、死んだ富樫勝男軍曹役に名優、丹波哲郎、富樫未亡人サキエ役に左幸子、厚生省係官役に山本耕一、元上等兵寺島継夫役に、ウルトラマンシリーズなどで活躍し、自身も左目が義眼である三谷昇、元陸軍伍長でコメディアンの秋葉友孝役に関武志(ラッキー7)、その相方にポール牧(ラッキー7)、サキエの娘トモ子役に藤田弓子、その夫に小林稔侍、元憲兵軍曹で現在は失明し按摩師となっている越智信行役に前進座の市川祥之助、その妻に中原早苗、元少尉で現在国語教師の大橋忠彦役に内藤武敏、元少佐千田武雄役に前進座創立者の中村翫右衛門、富樫と共に処刑される堺上等兵夏八木勲、小針上等兵に寺田誠、後藤少尉に江原真二郎。また脚本には新藤兼人も参加している。

 なお、映画中に横井さん1)の帰還を揶揄したようなコントが出てくるが、このあたりの時代を感じさせるエピソードは今となっては改めて解説が必要かも知れない。また君が代の斉唱を拒否する人々がなぜいるのかその意味を知りたい人は是非本作を見て欲しい。
 原一男監督の『ゆきゆきて神軍』は本作のテーマと被ってくる。というのは奥崎謙三の怒りの源泉は、戦時中上官が自分たちが生き残るために部下を殺して食べたあげく、罪を逃れるためにその部下に敵前逃亡の濡れ衣を着せたのではないかという疑いだったからだ。この両者はより良い理解のために併せて見ることを特にお薦めしたい。

 なお、DVD付属の山根貞夫のインタビュー映像によると、本作のカメラマン瀬川浩はドキュメンタリー映画畑出身で、彼を起用したことによるドキュメンタリー映画風の絵作りが、深作の後の『仁義なき戦い』シリーズの実録路線誕生のきっかけになったという。そういった意味でも深作フィルモグラフィー上で非常に重要な映画なのだが、それが国内でDVD化されていないというのはまさに噴飯もの。東宝は、最近の右傾化傾向の中で、「英霊の皆様ご苦労様」という様な発想を痛烈に批判し打ち砕く本作DVDを出すと、「反日」映画をDVD化したなどと批判されるのではないかと恐れて出さないのではないだろうか。海外版DVDの購入を強く勧めたい作品。

 しかし、やはり靖国神社のA級戦犯合祀は許せない。それは中国や韓国が批判しているから、やるべきではないというのではない。もし戦場で散っていった兵士たちが「英霊」であるならば、その彼らと、自分は何の身の危険もなくぬくぬくと地図上で将棋の駒を動かすように作戦を命令して彼らを死に追いやった人間とを、同列の「英霊」として祀ることは、戦場で無念に死に追いやられた人々に対する冒涜であり、日本人として許してはいけないことなのだ。

 本作品のDVDはHome Vision Entertainmentから出ている米国盤のみ。画像はやや粒状感があり若干ソフト気味ではあるが、輪郭線の強調・ゴーストは非常に少なくかなり良質。

1)横井庄一(1915-97) グアム島から1972年に帰還した元日本兵。終戦後27年間に亘ってジャングルに潜伏したとして大きな話題を呼んだ。 参考 Wikipedia 記事 > http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%A8%AA%E4%BA%95%E5%BA%84%E4%B8%80

原題『軍旗はためく下に』英題『Under the Flag of the Rising Sun』
監督: 深作欣二
1972年 日本映画 カラー

DVD(US盤) 
発行・発売:Home Vision Entertainment 画面: NTSC/16:9(1:2.35) 音声: Dolby1 日本語 本編: 96分
リージョン1 字幕: 米(On/Off可) 片面二層 発行年2005年6月 希望価格 $24.98
※再生にはリージョン1再生可能なDVDプレイヤーが必要


海外版DVDでしか見られない日本映画 - 『出所祝い』
http://yohnishi.at.webry.info/200812/article_13.html







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