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zoom RSS 『月の光をすくい上げる』- イム・グォンテク監督101番目作品は韓紙PR映画

<<   作成日時 : 2011/08/05 06:52   >>

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画像 本年(2011年)3月に公開されたイム・グォンテク監督101番目の映画作品。『月の光をすくい上げる』(直訳だと「月の光すくい上げ」)の英題は"Hanji"つまり「韓紙」。英題が示す通り本作品は、世に知られない韓紙を宣伝するのが主目的である作品だ。民間資本も入っているが主に全州市(全羅北道)が資金提供し、全州国際映画祭実行委員会が制作主体となって作った言わば、市の作った町おこし映画と言える。実話を元にして作られた作品だという。

 全州市職員ハン・ピルヨン(パク・チュンフン)は、意に染まなかった青少年課から離れて、韓国の伝統文化や伝統産業を振興する韓スタイル課主査として移動することになり、晴れて、韓紙(韓国における和紙に相当する伝統的な紙)振興担当チーム長を任されることになった。彼の妻ホギョン(イェ・ジウォン)は韓紙職人家庭の出身であり、韓紙振興担当になることは彼の願いでもあった。そしてホギョンは2年前脳梗塞で倒れて今からだが不自由な身であったが、それはピルヨンのせいでもあった...画像
 韓紙担当チームでは丁度、中央政府の文化体育観光部(日本における省に相当)が企画した、朝鮮王朝の歴史的古文書である「朝鮮王朝実録」をより多くの人に見て貰うため複製本作成プロジェクトに関わっていた。この複製本に全州市の韓紙が採用されることとなり、このための昔ながらの韓紙の復元開発に政府からの補助もうけつつ、1億ウォンのプロジェクトが進行中だったのだ。市ではこのプロジェクトに全州市の韓紙が採用されれば、それ自体が零細企業の多い全州市の韓紙産業にとって需要となるばかりではなく、PR効果も出て販路拡大、ひいては海外輸出の可能性を探れる良い機会だと見ていたのだ。
 ところが文化体育観光部の担当課長が替わったとたん、プロジェクトを撤回すると言い出したのだ。騒ぎになったのは地元の韓紙業界。プロジェクトを当て込んで材料も買い込んだのにと、市長にまで地元業者が押しかけてくる始末。あわててピルヨンと韓スタイル課長がソウルに飛んでいくと、文化部課長は、韓紙産業は全州だけではなく、安東、南原など他の地域にもあるので、全州だけ参加させるのは不公平であるし、そもそも全州市のプロジェクトの目的が曖昧だと冷たい言葉。それを全州は韓紙の発祥地であると説明した上に、酒好きだという課長を接待責めにしてかろうじてプロジェクト中止を思いとどまらせる。
 なんとかプロジェクトは発信したものの、朝鮮時代の韓紙を分析した大学教授が、このプロジェクトで採用する韓紙は、伝統的材料と工法で作らなければならないと、詳細な納入仕様を発表するやいなや、なぜそんな面倒な仕様を定めるんだとまたまた業者が大騒ぎ。多くの業者が納入に躊躇する事態に。
画像 そんなプロジェクトの動きを横でカメラを構えている女性がいた。彼女の名はミン・ジウォン(カン・スヨン)。西海岸の石油流出事故のドキュメンタリーを作って、山形国際ドキュメンタリー映画祭で賞を取ったという映画監督だ。韓紙仕様説明会での騒動をしつこく追っていた彼女にピルヨンは反感を抱いたが、課長が、彼女は今回韓紙のドキュメンタリーを作るので協力してやるようにと指示を出してしぶしぶ彼女のフォローをするピルヨン。
 ともあれ、市内の韓紙業者に納入に参加するように一社一社説得するため、そして伝統的な韓紙作りを再現できる業者を探すために行脚に出るピルヨン。彼が注目した一人に、説明会の当日、他の業者に、俺が作った韓紙を安く買いたたいた上に、さも自分のところで作ったかのようなふりをして高く他人に売っているだろうと詰め寄った業者、トクスン(アン・ビョンギョン)がいた...

 この作品の主人公はパク・チュンフン演じるピルヨンとカン・スヨン演じるジウォン... と一見見える。だが、そうだとするとプロット的に今ひとつ整理が付いていない様な印象を禁じ得ない。特にピルヨン、ジウォンとホギョンの煮え切らない三角関係は何なのだとか、業者同士の争いの話は何なのだ... という話になる。実は彼らも、彼らのドラマも所詮狂言回しに過ぎず、本当の本作品の主人公は、英題にずばりあるように、韓紙そのものなのだ。そう考えるとすっきり整理が付く。そして三人を見守る月の光こそは三人をつなぐ韓紙の象徴なのである。基本は、エピソードを絡めながら、如何に教養・説教臭くなく韓紙の特徴や価値をPRしていくかというラインで構成されたPR映画だと言うことが出来るだろう。
 ここでPR映画だと述べたが、これは必ずしもネガティブな意味で言っているわけではない。韓紙や全州市のPR映画としては、例えば先日紹介した安東市の宣伝映画である『私たち会ったことありましたっけ』と比較してみれば明らかなように、非常に効果的に作られている。教養臭くなく韓紙の魅力を伝えられているし、映画に出てくる全州の人々の姿も印象的である。
 特に、これはDVD収録のメイキング映像に出てくるが、実在の人々が実在の自分自身の役で多く出てくるし、また実在の場所でロケしてるケースも多い。説明会で韓紙の仕様を説明したり、書道における韓紙の特徴を説明する大学教授、ピルヨンを取り調べる刑事、エキストラで出てくる市職員たち、ピルヨンが説得のため出会う韓紙会社の社長や漢(韓)方薬局の店主などはいずれも実在の人が自分自身の役を演じている。撮影も実際の現場で撮影されている。そして劇中でカン・スヨンが演じる映画監督が作る韓紙ドキュメンタリーの題名が本作の題名と同じ「月の光をすくい上げる」。さらに映画に出てくる韓紙振興チームの目的は、全州の韓紙をPRすることであるが、本作自体の目的もまさにそれである。そういった意味で、アッバス・キアロスタミの『クローズアップ』を思わせる、フェイク・ドキュメンタリーのような趣がある。画像
 イム・グォンテク監督は韓国初のカンヌ入賞映画監督として評価は高いものの、映画の動員レベル自体も上がっていることもあって、『春香伝』の後、カンヌで評価された『酔画仙』を含めて興行的には必ずしも芳しい成果を残せていない。その意味で、観客動員数があまり期待できなくても、何とか次の作品を作りたかったイム・グォンテク監督と、宣伝費として割り切れば必ずしも高い興行収入を求めなくても済み、しかもPR映画としてはハイレベルなものが狙え、さらに監督の威光で第一線の俳優も比較的低いギャラで出てくれそうと計算した全州市の思惑の一致の上での、上手なコラボレーションの好例と言うことができるのではないか。
 かつてイム・グォンテク監督が単なる多作のプログラム・ピクチャー監督から芸術性の高い監督へと脱皮する際に、映画会社が映画輸入枠ほしさに、観客動員度外視で「文芸」映画を作らせていた機会を十分活用したのと同様、本作のような映画作りも決して悪くはないと思うし、また目的も十分達成されていると思う。結局映画は作れなければ意味がないものであるから。そういえば最近ようやく始動し始めた日本における浅川巧PR映画、『白磁の人』にもイム・グォンテク監督を起用すれば良かったのに、とふと思ってしまった。
 それと、日本人としては、本作のあちらこちらに見られる、日本文化の影も興味深く見た。

 なお、本作に出てくる伝統的な韓紙作りの技術指導をしたのは、メイキングを見ると聞慶伝統韓紙(株)であるようだが、この会社は慶尚北道にあるので、実は全州の韓紙の宣伝になっていないのでは... というのがちょっと気になった。もちろん本編を見ている限りではそんなことは分からないのだが...

 本作品は韓国では2011年3月17日封切り。韓国での観客動員数は57192名(2011年8月初旬現在。KOBIS調べ)。国内未公開


 なお、本作の韓国盤DVDの初回版は、分厚い韓紙製のケースに入っており、韓紙のポスターがおまけに3枚付く。但し伝統工法の韓紙で作ったのかどうかは疑問。DVDの画質自体は最近の韓国映画としては標準的。ひとときの水準に比べると解像度的にはやや甘め。これにメイキングを収録した付加ディスクが付いて2枚組。

原題『달빛 길어올리기 (』英題『Hanji』監督: 임권택
2011年 韓国映画 カラー

DVD(韓国盤)情報
発行・販売: Candle Media 画面: NTSC/16:9(1:2.35) 音声: Dolby5.1 韓国語 本編:118分 
リージョン3 字幕: 韓/英(On/Off可) 片面二層(付加映像付き2枚組) 2011年 7月発行 希望価格W27500

『私たち会ったことありませんか?』映画評
http://yohnishi.at.webry.info/201104/article_15.html

イム・グォンテク監督101番目の映画公開
http://yohnishi.at.webry.info/201103/article_9.html

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