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zoom RSS ナ・ホンジン監督話題の最新作 韓国映画『黄海』

<<   作成日時 : 2011/07/03 12:11   >>

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画像 2010年末に韓国で公開され大きな話題になった『追撃者(チェイサー)』のナ・ホンジン監督の最新ノワール映画。本作は韓国での劇場公開版は156分であったが、のちにディレクターズカット版が発表され、そちらは139分と通例とは逆に時間短縮となった。このディレクターズカット版がインターナショナル版となるようだ。以下はディレクターズカット版に基づくレビュー。

 中国、延辺朝鮮族自治区の延吉でタクシー運転手暮らしをしているキム・グナム(ハ・ジョンウ)。彼は数年前に結婚し、娘ももうけていたが、妻(タク・ソンウン)は韓国に出稼ぎに行った後音信不通になってしまった。その際入国資金として作った借金が6万元。だが妻からの送金は全くなく全く返せていない。その上、妻のいない寂しさと、博打で儲けて多少でも返せたらという考えから賭け麻雀にはまってしまい、むしろ借金は増えるばかり。お陰で漢族の高利貸しから臓器を売って返せと迫られる始末。
 その彼の前に救世主が現れた。彼は延吉で犬を売って商売しているミョン・ジョンハク(キム・ユンソク)で、かつて賭け麻雀でグナムが金を巻き上げられた男。彼の犬商売は表看板で、実は裏で殺人の請負を遣って金を稼いでいたのだ。そのミョンが韓国へ行き男を一人殺せば高額の報酬を出すというのだ。単なる小市民であったグナムは非常に悩むが結局このままいても何の進展もなく、韓国で上手くすれば妻も探せるかも知れないとの期待から、その申し出に応じる。そして殺した証拠に対象者の親指を持ってこいと厳命される。
 大連から漁船に乗り、慶尚南道蔚山に密入国したグナム。そこで10日後に仁川にある民宿に来ないと中国に帰れないとブローカー(パク・ユンホ)に言い渡され、対象者のいるソウル江南に向かう。殺害の対象者はイ・スンヒョン(クァク・ドウォン)という元柔道のオリンピック代表選手で現在体育大の教授。だが彼の住むビルの最上階の家は侵入が容易ではなく、対象者の行動を把握して機会をうかがいながら、ソウル郊外の京畿道安山にある朝鮮族の集住地帯へ行き、妻に関する情報の聞き込みを行う。
 帰国期限が迫ったある日、ようやく妻がある水産業者と交際しているらしく、その業者の紹介でソウルの日本料理店に勤めているらしいと言うことが分かり、そして妻が住んでいるらしいアパートまで突き止めた。だがそこには妻の姿はいない。隣家の男の話だと1時間程前に男と争って二人で出て行ったばかりだという。だが、いくら待っても妻の姿はない。
 延吉にいるミョンに電話して、やることがあるから帰国をのばせないかというと、何を馬鹿なことを言うかとけんもほろろ。仕方なく覚悟を決めその晩対象者を殺すことを決意するのだが、彼がビルで待ち伏せしようとすると、先に二人組の男がビルに入っていった。そして、対象者が帰るとその二人組と格闘に。二人組の一人がビルの上から転落すると、対象者を送ってきた運転手がすかさずビル内に。それを追ってグナムもビル内に入ると、対象者は運転手に殺された模様。二人組の一人は現場でのびていた。そして運転手とグナムが格闘に。運転手を階段下に落として何とか対象者の親指を切り落とすもののそこへ警察が。必死に逃げるグナム。実は二人組の男は、別にイ教授の殺害を狙っていた表向きは運送会社の社長、キム・テウォン(チョ・ソンハ)が送った手下だったのだ。
 何とか警察を振り切って潜伏し、指定の日に仁川に行くと、そこは再開発の工事中で、指定された民宿など跡形もない。そこで自分がはめられたことを知るグナム。ともあれまずブローカーを探し出すこと、そして韓国にいる間妻を何とか捜し出すことを決意して、グナムはブローカーのいた蔚山行きのバスに乗る。もちろん、警察も犯人と目したグナムの行方を追うとともに、部下の行動を見られたキム・テウォンも証拠隠滅のためグナムの行方を追い始める。グナムは二方の追っ手に追われることになる...

 朝鮮族であるということで不条理な運命に翻弄されざるを得ないグナム。このような不条理から来る過酷な運命、そしてそれに対する恨を描いていくという側面は、ナ・ホンジン監督の前作『追撃者』と共通する。韓国における朝鮮族のイメージは、少なくともこの映画を通して見る限り、何か後ろ暗い非合法な活動に従事するうさんくさい集団という部分が少なからずあるようだ。ディレクターズカット版で付け加わったと思われる映画冒頭の朝鮮族に関する英語の説明も、朝鮮族の50%以上は韓国における非合法もしくは合法的な活動に経済的に依存している、というような一節が流れるが、そこでも「illegal」が先だって出てくる(むしろ偏見を強化するのではあるまいか、という気もするが)。しかし非合法であっても、彼らは彼らなりの事情があり、また非合法だからといって彼らを使い捨てるような利用をして良いのかという、監督の問題提起はあると思われる。
 ただ前作『追撃者』に見られたような感情的な視点転換は本作にはない。『追撃者』では自分たちの商品である売春婦を、所詮アバズレが、と冷ややかに、モノのようにしか見て来なかった売春斡旋業者が、あることをきっかけに、彼女を人間として深く同情するようになるという大きな視点転換があり、それが観客たちに対して大きな説得力を持っていた。
 本作では、グナムの延吉での生活を描くことで、彼の人間性や同情すべき事情に対する説明をしているものの、『追撃者』に匹敵するような視点転換がない分、前作よりやや感情的訴求力に劣る部分がある。このあたりは前作が主に売春斡旋業者の一人称的視点で語られたのに対し、本作ではグナムの視点がメインではあるものの、必ずしもそれだけではなくより「客観性」を持たせて描かれている事とも関連するかも知れない。
 とはいえ、140分間を緊張感を持って飽きさせずに見させる演出力はさすが。またローアングルや長焦点レンズを使った寄りの画像にこだわったカメラワークや、とくにカーアクションに力を入れたアクションシーンも着目すべきものがある。美しくも「乾いた」ラストシーンも秀逸。いろいろな意味で正に「ノワール」な映画。ただ人によっては、なぜ救いのない互いに傷つけ合うシーンが連続するのかという感想を漏らす人もいるかもしれない。

 ただ一点、疑問点を提示すると、殺人請負業者が、必ずしもた易くない殺人に(しかもある程度の要人である)、全くの素人を使うという設定がリアルなのだろうか、という気もするのだが、請け負う方も注文する方も安易だった、ということなのだろうか。事態が大ごとになる割には、ミョンに対する依頼動機も.... うーん、という気がする(ただ依頼動機自体は映画の重要な要素ではない。というよりも逆にグナムがあれだけ生死をかけて任務を遂行させられる割に依頼動機がしょぼいという不条理を狙っているのかも知れない)。

 因みに台詞の中で朝鮮族特有の言い回しというのは結構あるようで、監督コメンタリーの中で指摘されていたのは例えば、ハ・ジョンウが比較的終盤近くでナイトクラブに出かけて、直訳すると「この店で一番上の奴出せ」と叫ぶ場面。「この店で一番上の奴」という表現は、もちろん文法的には間違っていないが、韓国に住んでいる人たちが使うと非常に違和感のある表現だそうだが、朝鮮族が話しているとするとしっくり来る表現なのだそうだ。多分韓国に住んでいる人たちなら「社長を出せ」とか「店の主人出せ」と表現するところなのであろう。そのあたり、韓国語に覚えのある方は楽しんで頂きたい。

 本作の韓国での封切りは、2010.12.22。韓国での全国観客動員数は223万2587人(Cine21データベース、2011年1月時点)。現在のところ国内未公開だが20世紀フォックスが噛んでいるし、いずれ国内公開されるのではないだろうか。

 筆者の入手したビデオディスクは韓国盤Blu-ray。暗い場面が多く、オリジナルの映像自体に低コントラストの微妙な画面が多く含まれている本作では、やはりBlu-rayの情報量の多さが大きくものを言うように思う。ラスト近く、漁船が黄海に出て行く場面も非常に美しい。但し付加映像は全てSD画質。なお、Blu-rayは米国製。韓国ではどうせビデオディスクが売れないのでメイン市場と目されるアメリカでマスタリング&プレスしておこうという算段か。
 これ以外に韓国盤DVDで156分の劇場版と139分の監督版の両方が出ているが、Blu-rayを含めていずれも韓国語字幕のみで英語字幕は一切含まれていない。当初監督版のみ英語字幕を含む仕様と公表されていたが、最終段階で英語字幕は削除されたようだ。これは20世紀フォックスが本作に一部出資しており、米国公開前にDVD等で見られたくないという配慮だろう。
 本作は出来るだけ大画面で見るべき作品だと言える。

原題『황해』英題『Yellow Sea』監督:나홍진
2010年 韓国映画 カラー

Blu-ray(韓国盤)情報
発行・販売: KD Media 画面: HD1080p(1:2.56) 音声: DTS5.1 韓国語 本編:139分 リージョンA
字幕: 韓(On/Off可) 片面二層 2011年 7月発行 希望価格W31900

国内では邦題『哀しき獣』で公開&ビデオディスク発売

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