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zoom RSS 「猟奇的な彼女」のルーツ! 1959年の韓国映画『女社長』

<<   作成日時 : 2011/07/01 07:32   >>

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画像 韓国映像資料院、韓国50年代ロマンティックコメディコレクションの中の最も新しい作品ハン・ヒョンモ監督の『女社長』。一言でいえば50年代版『猟奇的な彼女』というところであろうか。

 求職活動中の男性、キム・ヨンホ(イ・スリョン)は電話をかけようと街角の公衆電話の列に並んでいると、列が長引いているにもかかわらず周囲お構いなしに延々長電話をしている、ペットの子犬を連れた女性がいた。その女性は「新女性」という雑誌を刊行している新女性社の社長、ヨ・アンナ(チョ・ミリョン)。他の人々は小声で悪態をつきながらも諦めて他の公衆電話を探しに行く中、ヨンホは、女社長に文句を言い、金鎖をつけた子犬を蹴りつける。
 一方、アンナに求愛中のオ社長(チュ・ソンテ)。かれは紙の入手が困難で雑誌刊行に問題を抱えていた新女性社に紙を融通することを申し出て、アンナの愛を買おうとしていた。
 そんな中、新女性社は男性編集部員を募集することになった。キム・ヨンホはその面接試験に応募する。一方、アンナも雑誌の執筆陣の一人である作家より「キム・ヨンホ」という知人の入社をよろしく頼むとの電話を受けていた。キム・ヨンホが「女尊男卑」の額のかかった社長室に面接に赴くと、その女社長はまさに先日街角で喧嘩した長電話の女。キム・ヨンホはこれはどうせ不採用必至と先日の電話の件で捨て台詞を残して社長室を後にするが、女社長は、むしろ採用してからねちねちいじめて復讐してやろうとヨンホの採用を決定する。
 キム・ヨンホは編集局員として働き始めるが、早速編集局長(ユン・インジャ)が書いた記事がまずいと校正して局長の不興を買う。社長が部下が上司の文章を直すとは何事かとたしなめると、文書の良しあしに地位の上下は関係ない、こんな恥ずかしい文章を世に出してどうすると逆襲する始末。ますます女社長は頭にくる。しかし、なぜかアンナの妹(ソ・エジャ)はヨンホに対して好感を抱いているようだった。
 だが、社長旧知の別の社長から実業団バスケットボール大会の選手が足りず、学生時代選手経験のあるキム・ヨンホを貸してくれと頼まれ、その大会で彼が見事な活躍を示してから、アンナのヨンホに対する気持ちが揺らいでいく。
 だが、一方実はキム・ヨンホは、アンナが行きつけの美容院の美容師と親しい中であるようなのをアンナは気になり始めていた...

 『自由夫人』(1956年)で50年代韓国で最大のヒットを飛ばした手練れ、ハン・ヒョンモ監督による作品。本DVDボックスに収録された作品の中では、現代の基準で考えてももっとも楽しめるのが本作であろう。もちろんその理由の一つは本作が一番遅く作られた作品であって、撮影技術やノウハウ等の進歩もその一端ではあろうが。
 以前紹介したロマンチックコメディコレクション収録の2作は、アメリカのラブ・コメやスクリューボール・コメディを韓国に持って来て、今まで韓国映画にないアイディアを盛り込もうとしている意欲は感じられる作品群であるが、最大の問題点はそれが韓国社会にほとんどルーツを持たないように感じられる点である。もちろん韓国社会の格差は相当あったので一部のブルジョア、中産階層にはこれらの作品に描かれるような環境があったのかもしれない。だが率直に言って無理やり案山子に背広を着せたような違和感が、さらに撮影の構図やカット割り(mise-en-scene)の拙さと相まって、ぬぐいきれなかった。従って韓国映画発達史に対する関心以外から鑑賞するのはちょっと辛いものがある、というのが正直なところ。
 だが、本作は前2作に比較して確実に韓国社会に根差した部分がある。ちろんどっぷりとつかっているだけではなくそれから離れ、ひねっている部分も大きいのだが。全2作は女性が男性と対等な地位を競っている状況というのが、アメリカのコメディと同様、前提になっている。その前提には啓蒙的意味もあったのかもしれないが、そもそも当時の韓国社会自体がそのような事態とは程遠いなかで、しょせんそれはおとぎ話でしかなかった。 もちろん、本作もロマンチックコメディが必然的にそうであるように、女性の地位向上が描かれているものの、それは、当時の韓国における「男尊女卑」社会をあべこべに裏返したカリカチュアとして「女尊男卑」を描くことで(社長室の額がまさにその象徴だ)、韓国社会とのつながりを失っていない。そういった意味では50年代における『猟奇的な彼女』的位置づけを持った作品と言える。ただ、ハン・ヒョンモの男女逆転によるカリカチュアという発想自体はすでに50年代最大のヒットとなった彼自身の『自由夫人』に見られるものであり、本作がその発想の延長線上にある作品であることは間違いない。そしてそのことを通じて無意識下に押し込められた男尊女卑のフレームワークを浮き彫りにしているという効果は間違いなく存在する。
 ただ、その作品が社会的に受容され一定の興業的な成功を収めるためには、世の中から1歩先んじてしまってはダメで半歩先んじる必要がある。という意味で最終的に映画の結末が「男尊女卑」の額を掲げるというところに逢着するのはやむを得ないところであろう。これは『猟奇的彼女』が最終的に「かわいい女」に逢着したのと同じように1)。
 DVDの付属解説書でオ・ヨンスクは、3作品中本作が最も保守的と評しているが、単純に本作が保守的というよりは、他の2作がアメリカ的ラブコメディの輸入に忙しかったのに対し、本作品は韓国社会との接点を模索した結果であるように思われる。そして『自由夫人』のヒットに見られるように、その狙いは正しかったと言えるだろう。

 なお、撮影監督出身のハン・ヒョンモのmise-en-sceneも、3作の中では一番すぐれており、日本の東宝での経験もあってか、日本の戦前から戦後にかけての家庭コメディやラブコメディ映画の味わいを髣髴させる場面も感じられる。

 本作品は1959年12月頃に封切られたようである。観客動員数に関しては韓国映画データベースにデータはなく不明。日本国内未公開。

 監督のハン・ヒョンモは1917年4月29日、平安北道、義州生まれ。満州、新京美術専門学校(新京は当時「満州国」の首都で、現在の長春)卒業。1941年チェ・インギュ監督の『家のない天使』美術監督として働いたのが映画界入門のきっかけで、チェ・インギュ監督の推薦で日本の東宝へ入社。撮影技術を学んだ後1944年朝鮮へ戻り、やはりチェ・インギュ監督の『太陽の子供たち』で撮影監督デビュー。さらに同監督の『愛の誓い』でも撮影を担当。戦後も『自由万歳』をはじめとしてチェ監督とコンビを組む。1949年に『城壁を穿って』で監督デビュー。この作品は、ホン・ゲミョン監督の『戦友』と並び反共映画の嚆矢と見られている。また本作品は従来の韓国・朝鮮映画にない高い技術を示した映画との評価を受けた。
 朝鮮戦争中は国防部の撮影隊に所属して、戦争の記録映画撮影に従事。戦後1954年にハン・ヒョンモプロダクションを設立して商業映画製作を開始。その創立作品『運命の手』は「メロ、反共、スパイ、アクション的要素の混ざった韓国映画史上最初のフュージョン映画」との評判をとる。さらに1956年家庭婦人の浮気を題材にした『自由夫人』は50年代韓国映画最高の興行成績を収めたといわれる。
 特に、東宝仕込みの高い撮影技術(例えば、韓国における撮影へのクレーンなどの導入の嚆矢)と斬新な撮影構図(mise-en-scene)で、当時の他の韓国映画と差別化を図ったハイクオリティの娯楽作品に高い評価を受ける。その後もメロ、ロマンスものドラマを得意としたが、かならずしもメロに限定されたわけではなく、1957年の『魔人』は韓国最初の探偵スリラーもの、また『私一人だけが』(1958)『ウォーカーヒルで逢いましょう』(1966)は音楽ものとして知られる。
 そして韓国の美空ひばり、イ・ミジャの半生を描いた『エレジーの女王』(1967)まで18本の監督作および14本の撮影作を残して、ハン・ヒョンモ監督は1999年にこの世を去った。(以上DVD付属パンフレットを参考に執筆)

1)この点は、韓国の映画プロデューサーハン・チョルがいみじくも指摘している。

画像

原題『』英題『A Female Boss』監督:
1959年 韓国映画 モノクロ

DVD(韓国盤「50年代ロマンティックコメディ・コレクション」)情報
発行: 韓国映像資料院・Blue Kino 販売: トクスン・メディア 画面: NTSC/16:9(1:2.56) 音声: Dolby1 韓国語
本編:105(本作)分 リージョンALL 字幕: 韓/英(On/Off可) 片面一/二層(3枚組) 2010年 7月発行 
希望価格W39000

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