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zoom RSS 安易な結論付けを許さないイ・ジュニク監督最新作『雲を抜き出た月のように』

<<   作成日時 : 2011/01/04 07:24   >>

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画像 『王の男』『楽しき人生』などのヒット作を生んできたイ・ジュニク監督監督の最新作。壬辰倭乱(豊臣秀吉の朝鮮侵略)前後の朝鮮に起きたイ・モンハク(李夢鶴)の乱を描いた作品。原作はパク・フンヨンの同名の漫画(1994年)。原作漫画はフランクフルト図書展で「韓国の本100選」に選定された名作。

 壬辰倭乱前後の朝鮮。既に豊臣秀吉による第1回目の侵略(文禄の役)を経て、朝鮮社会は疲弊していた。だが朝鮮朝廷は国家の危機だというのに東人派、西人派の二派に別れ、ことごとく対立、何の対策も立てられなかった。そんな中、チョン・ヨリプ(=鄭汝立[実在人物],イム・ジェギュン)は、無策の朝廷を尻目に、有志ある農民たちを集めて大同(テドン)契を結成。東人派の支持を得つつも自分たちの力で日本軍に対抗し大同(=平等)世界を作ろうと立ち上がった。
 そんな、大同契の中に、イ・モンハク(チャ・スンウォン)とファン・ジョンハク(ファン・ジョンミン)がいた。イ・モンハクは王族の血を引く名門貴族がキーセンに生ませた私生児。それゆえソウルを追われ不満を持って地方に雌伏していたところで、大同契に合流したのだ。一方、大同契の創立メンバーであるファン・ジョンハクは盲目の剣客。チョン某に絶対の忠誠を誓っていた。
 だが、豊臣秀吉から再び、明に攻め入るので、朝鮮王朝は日本軍を支援せよ、もしこの命令に従わないときは朝鮮を焼き尽くす、との書状が朝鮮朝廷にもたらされた時、朝廷は再び混乱に陥る。東人、西人の一方が豊臣秀吉は来る、と言えば、もう一方は来ないと言い、また誰を日本軍対抗のための総司令官にすべきかも、ことごとく意見が対立し、何も決まらない。
 そんな中、大同契の中でも今後の路線をめぐって意見の対立が生まれた。一方は、腐りきった朝廷には何も任せられない、だからまず自分たちが朝廷を倒し、大同の世の中を実現してから日本軍に対抗していけばよいと主張し、もう一方は、この国の危機に権力争いなどしている場合ではない、まず自分たちが日本軍の盾になって国を救うべきだと主張した。そしてイ・モンハクは前者を主張し、ファン・ジョンハクは後者を主張したのだ。イ・モンハクはこの危機を私生児であっても差別されない新しい世の中を作る好機と見ており、一方、剣に生きるファン・ジョンハクは武者はあくまで剣の陰に生きるべきとの美学を持っていたのだ。
 そんなある日、大同契の指導者であるチョン・ヨリプが自殺体となって発見された。彼の死体は朝廷によって回収され、改めて首を斬られさらし首となった。それとともに、今までは東人派に忠誠を誓っていた大同契は朝廷に対して反旗を翻し始める。まず、東人の有力者であるハン・シンギュン(ソン・ヨンチャン)が、ヨリプ自殺の原因になったとされ、チェサの日に殺害される。ハンがキーセンに生ませた息子で、私生児として家の中で冷遇されていたギョンジャ(=犬子、ペク・ソンヒョン)は、父の敵を討って、下手人であるイ・モンハクを殺すことを誓う。
 そんな彼は、朝廷に反旗を翻し始めた大同契と袂を別ったファン・ジョンハクと出会い、彼に従いながらイ・モンハクを殺す機会を伺うことになる。最初は剣の技術もまったく未熟だったギョンジャは、ジョンハクに付き従い、こき使われながらも知らず知らずのうちに剣の腕を上達させていった。そんなある日、ファン・ジョンハクに従って到着した、ある遊郭でペクチ(ハン・ジヘ)というキーセンに出会う。彼女はイ・モンハクの愛人だったというのだ。ギョンジャはよりによって敵の愛人であったペクチに惹かれていく。
 その一方、イ・モンハクらが朝廷に反旗を翻したことが朝廷に知られるところとなり、イ・モンハクは指名手配に。それとともに、大同契の支持者たちにも討捕庁(朝鮮王朝における警察に相当する部署)による捜査の手が入るようになる。そして討捕庁による追求は手はイ・モンハクの愛人だったペクチにも迫る。だが、図らずもギョンジャはペクチを命を賭して討捕庁の手から守ることになり、ギョンジャはペクチを連れてファン・ジョンハクと共にイ・モンハクを追っての放浪の途につくのであった...

 本映画には何の正解も何のカタルシスも提示されない。敵を目の前にしながらも、敵に対抗することはそっちのけで自分たちの政争に明け暮れる、どうしようもない貴族や王族たち。その一方、大同契にしてもそんな情けない朝廷をそのままにして、自らを犠牲にし、身を挺して日本軍の盾になるべきか、それとも、このような混乱の機会に乗じて、自らが信じる世界実現の好機と考えるべきか...
 その中で、イ・モンハクは国のために犠牲となるという選択を拒否し、むしろこの混乱を自らの信念を実現する好機として積極的に選択しようとする。国の滅亡の危険を賭してまで、自らの信念を通そうとするイ・モンハクは、ある意味、国への裏切り者であり、悪役でもある。だが、国王を含めた誰もが、何の信念も持ち得ない時代に、自らの信念実現のために全てを賭けようとする彼は、一方で非常に魅力的なキャラクターでもある。
 その一方、父の敵であるイ・モンハクを追うギョンジャは、正当性を鼻にかけて偉ぶっている嫡子が、所詮自分の父の敵をとる勇気のないことを知って、イ・モンハクを討ち取ることで、さげすまれてきた自らの存在証明を行おうとしている。だが、例えイ・モンハクを討ち取ったところでそれは庶子であることがさげすまされる世の中を変えていこうというイ・モンハクの構想に比べればスケールの小さい夢にしか過ぎないし、世の中を変えることにつながるわけでもない。
 国のために自らを犠牲にしようという、ファン・ジョンハクはもっともヒロイズム的存在だ。だが、今の王、ならびに王朝は、果たしてその犠牲に値するものなのだろうか...?
 だが、各人それぞれの思いの全ては結局...

 安易なヒロイズムも、ショービニズムも全てを拒否したところにこの映画は存在する。そういった意味で、イ・ジュニクの問題意識は、前作『あなたは遠いところに』をさらにエスカレートさせた、言うならばアナ−キスティックな地点まで来た(ストーリー面でも)と言っていいだろう。イ・ジュニクが本作を作ってみたいという思ったであろう動機は非常によくわかる。しかし、一方で韓国の人たちにとって、本作は感情移入困難な困惑させられる作品になったであろうことは想像に難くない。閉塞状況が解消される訳でもない。とはいえ、映像自体の持つ切れ、テンポの良さはさすが。
 しかし、同時に本作の状況、今の日本の政治的混迷状況と似ていないだろうか? ともあれ、本作をみて、是非原作を読んでみたくなった。

 なお、本作品は韓国では2010年4月29日公開。韓国内観客動員数は139万8705人(KOFIC)。国内未公開。

 なお、韓国盤DVDの画質は優秀。

 ちなみに、原作者のパク・フンヨン(朴興用)の漫画は、本作ではないが1987年に亜紀書房から「白紙(ペクチ)」が戸田郁子の翻訳で国内で出版されたことがある(ISBN 4750587192)。当時の時代の閉塞感をものの見事に描いた作品であった。


原題『구르믈 버서난 달처럼』英題『Blades of Blood』監督:이준익
2010年 韓国映画 カラー

DVD(韓国盤)情報
発行・販売:PRE.GM 画面: NTSC/16:9(1:2.35) 音声: Dolby5.1 韓国語 本編:111分
リージョン3 字幕: 韓/英(On/Off可) 片面二層(2枚組) 2010年 8月発行 希望価格W25300


「イ・モンハクの乱」Wikipedia韓国版
http://ko.wikipedia.org/wiki/%EC%9D%B4%EB%AA%BD%ED%95%99%EC%9D%98_%EB%82%9C
「イ・モンハク」Wikipedia韓国版
http://ko.wikipedia.org/wiki/%EC%9D%B4%EB%AA%BD%ED%95%99
「チョン・ヨリプ」Wikipedia韓国版
http://ko.wikipedia.org/wiki/%EC%A0%95%EC%97%AC%EB%A6%BD

『あなたは遠いところに』映画評
http://yohnishi.at.webry.info/200812/article_2.html
『楽しい人生』映画評
http://yohnishi.at.webry.info/200810/article_9.html

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漫画『雲を抜き出た月のように』
 1月に記事を書いた映画『雲を抜き出た月のように』(http://yohnishi.at.webry.info/201101/article_3.html) の原作となった作品。筆者はパク・フンヨン(朴興用)で、1995年に最初に発表された。本作は現在、韓国、パダ(海)出版社から新装版の3巻本として刊行され入手可能。 ...続きを見る
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2011/08/31 19:06

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