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zoom RSS パリ郊外、移民少年の気持ちを描いた『L'Esquive』

<<   作成日時 : 2010/08/06 09:29   >>

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画像 東京国際映画祭にも出品された『クスクス粒の秘密』のアブドラティフ・クシシュ監督の2004年の作品。フランス、パリ郊外のHLM(低所得者向け公営高層団地)に暮らす少年たちの日常を描いた作品。

 クリモ(Osman Elkharraz)は、パリ近郊HLMに住むマグレブ系移民2世の15歳の少年。父親は何か事件を起こして逮捕・収監されたらしく、今は母(Meryem Serbah)と二人暮らしで、時々父親に面会に出かける。彼は内気で、アグレッシヴな仲間内では、頼りなくちょっと軽く見られるキャラクター。
 彼にはガールフレンドのマガリ(Aurélie Ganito)と付き合ってたが、電話をした、しないの些細なことで別れてしまう。そんな彼が友だちに会いに出かけようとした時、自分の住むアパートの数階下の中国人の仕立屋で、クラスメートであるネイティヴ・フランス人(白人)のリディア(Sara Forestier)が何か言い争っているのに気付く。どうやら彼女は学校の文化祭で演ずる舞台衣装のことで仕立屋ともめているらしい。ともかく彼が仲裁に入って、リディアに足りない仕立て代金10フランを貸してもめ事を収めると、そのまま彼女に演劇の練習の現場に連れて行かれる。彼女はフリーダ、ラシッドらとともに文化祭で、フランスの古典喜劇、ピエール・ド・マリヴォーの『愛と偶然の戯れ』を上演することになっており、そこでお姫様役を演ずる予定なのだ。クリモはその練習の場に観客として連れて行かれたのだった。
 元々学校のフランス語の授業で、先生からフランス古典演劇の講義を聞いても、自分の住んでいる現実の世界と何の関連性も見いだせず全く関心の持てなかったクリモ。だがクリモの中にリディアとの民族・文化的な違いを越えた、彼女への関心が芽生えたとたん、彼にとって古典演劇『愛と偶然の戯れ』の世界が近しいものになる。そんな中、デートに誘っても演劇の練習で忙しいと断るリディアに接近するために、クリモはリディアの相手である道化師(アルルカン)役に決まっていたラシッドに自分と役を交代してくれる様頼む。
 だが、元々古典演劇の世界に何の関心もなかったクリモ。いざ練習を始めても台詞は棒読み、先生からは散々駄目出しが出される。その一方、自分を振ったはずのマガリが、自分がリディアに関心を持ったことに嫉妬して、リディアに、クリモは元々自分のものだと抗議を申し入れ、さらにそれに友達たちが介入することでクリモとリディアを巡る人間関係がこじれ始める...

 マチュー・カソヴィッツ監督の『憎しみ』(1995)でも描かれた、主に移民を中心とする低所得者層が住むパリ郊外(バンリュー)の青少年たちの主に心理面に焦点を当てて描いた作品で、先日国内公開された『パリ20区、僕たちのクラス』とも舞台が重なる。原題の『L'Esquive』はボクシングなどで身をかわすこと。このため「サイド・ステップ」などと邦訳をつけて紹介しているサイトもあるが、アメリカでの英題は劇中劇で演じられるピエール・ド・マリヴォーの『愛と偶然の戯れ』の英題である「Games of Love and Chance」となった。

 映画の冒頭から、少年たちのスラングだらけの激しい会話。だが彼らのスラングの世界は、学校のフランス語の授業で教えられる典雅なフランス語で綴られる古典文学の世界とはあまりにも激しいギャップ。まして元々フランスとは全く文化的背景の異なるマグレブ系の家族に育った少年にとっては、そんな世界に何の関心も持ち得ないのは当然だったし、むしろ自分たちを社会的に排除しようとするフランス社会や文化に対して無意識的な反感と閉塞感も持っていた(このあたりの文化的ギャップを描いてる点でも『パリ20区... 』と共通するものがある)。
 だがその一方、彼は内気で、アグレッシブな仲間たちの世界に付き合いながらも、完全に彼らに同化できずに居心地の悪さを感じていたクリモ。同じマグレブ系のガールフレンドにも振られてしまいますます自分の居場所が見つからない。
 そんな彼にとって初めてフランス文化や社会への回路として現れたのがフランス人の美しい女の子リディア(もっとも彼女も日常的にはスラングを駆使した低所得層であり、マグレブ系の青少年と同様アグレッシブな側面も持つのだが、同時に演劇の世界ではお姫様を演じることで低所得移民社会と典雅なフランス文化との橋渡しをするトリックスター[とクリモには見える]として登場する)。内気なクリモの背中を後押ししたのは何の縁のゆかりもないと思われた古典喜劇の世界だった。
 だが、その一方映画の後半では仮借ない社会的現実にも、彼は直面することになる... そもそも『愛と偶然の戯れ』のテーマ自体、貧乏人が金持ちに金持ちが貧乏人のふりをしても、所詮人々は恋愛という「純粋な」感情すら自分の出自という社会的条件から抜け出ることができないという皮肉なのだから。このあたり、ケシシュ監督が俳優として出演した『Sorry, Haters』の設定との共通点が感じられる。

 カメラのピンぼけや、パン外れといったインディー映画特有の技術的未熟さも散見されるが、パリ・バンリューの移民二世少年の精神世界を上手く描いて秀逸な作品。また『クスクス粒の秘密』に通ずる女性への思い入れの大きさの描き方も、男性にとっては共感出来るだろう。
 なお、本作が発表された翌年パリ郊外、クリシー=ス=ボワで大規模な暴動事件が起こっている。

 本作はフランス、セザール賞受賞。日本未公開。なおマリヴォーの『愛と偶然の戯れ』はかつて岩波文庫で出ていたことがある。

原題『L'Esquive』英題『Games of Love and Chance』監督:Abdellatif Kechiche
2004年 フランス映画

DVD(仏盤)情報
発行・発売: Opening (les films de ma vie レーベル) 画面: PAL/16:9(1:1.85) 音声: Dolby2 仏語
本編: 117分 リージョン2 字幕: なし 片面二層 発行年2010年3月(再発) 希望価格 € 9,90
※初版はAventiより2005年3月に刊行

アブドラティフ・クシシュ監督『クスクス粒の秘密』映画評
http://yohnishi.at.webry.info/200907/article_4.html

アブドラティフ・クシシュ出演作『Sorry, Haters』映画評
http://yohnishi.at.webry.info/201005/article_9.html

『パリ20区、僕らのクラス』
http://yohnishi.at.webry.info/201005/article_7.html

DVD発売元 Opening 公式ホームページ
http://www.opening.fr/




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