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zoom RSS 韓国革新派の迷いを象徴する映画作品『イテウォン殺人事件』

<<   作成日時 : 2010/03/03 00:14   >>

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画像 かつて映画活動を通じて反権力的な立場から作品を発表してきた、社会派、ホン・ギソン監督の最新作。従って本作品もやはり社会派映画作品として見るべき。名前につられて犯罪・スリラーもの、ミステリー作品だと期待して見るとがっかりするかもしれない。本作品は1990年代末に実際に起こった殺人事件を元に脚色した作品。

 1997年、イテウォンのハンバーガー店のトイレで大学生チョ・チュンピルが胸と首を多数刺されてむごたらしく惨殺された。まもなく、現場に居合わせた米国籍で韓国人とメキシコ系移民のハーフ、ピアスン(チャン・グンソク)と在米僑胞アレックス(シン・スンファン)が容疑者として疑われる。米国籍である彼らの身柄はまず米軍CIDによって確保され、取り調べの後、韓国の検察に身柄送検されてきた。
 CIDの調書によると、ピアスンが殺人犯とされていた。しかし、韓国検察の取り調べで、ピアスンはアレックスが真犯人だと、アレックスはピアスンが真犯人だと、お互いに供述が食い違う。さらにピアスンは、CIDにて暴行があり、そう自白させられたのだと主張。供述も一貫性がある。その一方で韓国の有力者であるアレックスの父親は、息子を早く釈放させようと、元検事の有名弁護士を雇い、有形無形の政治的圧力を加えてくる。しかし、嘘発見器にかけて両者を供述させるとアレックスの方が激しく動揺。
 捜査を担当する、正義感の強いパク検事(チョン・ジニョン)は、実は真犯人はアレックスなのに、有力な親が後援に付いていることから、ヒスパニックとの混血で有力な後ろ盾のないピアスンに濡れ衣が着せられようとしているのではないかと疑いを持つ。しかし上司からはへたにかかわらず、CIDの結果通りに起訴しろと圧力が。
 犯人は二人のうちのどちらかであることは本人たち同士も認めているので、間違いない。一体、犯人はどちらなのか?そして息子を無残に殺されたチョ・チュンピルの家族の無念は晴らせるのだろうか...

 ホン・ギソン監督の作風は体制批判的な立場から、権力の側を告発していくというのが今までの一貫した姿勢。だが本作ではそのようにストレートには行かない。本作品における対立軸は、一つは有力な後ろ盾のある、ブルジョア階級のアレックス対、何の後ろ盾もないマイノリティの混血のピアスンという軸。そして周囲の多くの者が何の疑問もなく持てる者であるアレックスを支援する立場に立つ。もう一つの軸は米国対韓国の軸。結局この事件は(現実の事件もそうだったが)、二人のうちどちらかが犯人であることは確実でありながらも、どちらが犯人かを決める物証に欠け、数年間の裁判の後に二人とも釈放されてしまう。そこにやはり彼らが米国市民であったが故の、当局の側の遠慮があったのではないか、そして、その結果遺族の無念は晴らされることなく泣き寝入りを強いられたのではないか、というナショナリスティックな憤激がある。
 おそらく、以前のホン・ギソン監督であれば、有力者の息子アレックスが真犯人だったのに、それがより弱い立場のピアスンになすりつけられ、さらにそれもアメリカへの遠慮から、そのピアスンも釈放され、最後に一番弱い韓国人の庶民であるチョの遺族に事件のツケがすべて回され、無念を晴らすことができず悶々と残されるこの社会的不公正をどうするのだ、という怒りのメッセージで締めくくったのではないかと思う。
 だが本作品では、やはりピアスンが真犯人であったのではないかという可能性を残し、さらに、ただ、韓国は米国に従属していてけしからず、とにかく遺族の無念を晴らせば良いというショービスティックな発想にも、待ったをかけている。そういった意味で、ホン・ギソン監督の発想の成熟(と同時に迷いも)が感じられる映画になっているのだが、しかし、それを一般の観客たちが読み取ってくれるかどうかは別問題で、すっきり明快な結論が出ず、ますますもやもやが溜まる... と感じる可能性は大である。

 ストレートな正義感だけではダメなのではないか、という問題提起は大きい。しかし、ではその先は何なのかという回答を、韓国の「運動圏」はまだ見出せていないのだろう。悪くとれば『殺人の追憶』出来損ないバージョンと見る人もいるかもしれないが、個人的には、先日紹介した『坡州』においても「運動圏」的発想への疑問が提示されていることも考えあわせながら、興味深く見た映画ではある。

 とはいえ、本作品は韓国で50万人近くの観客動員を記録したそうだ1)。今の韓国では100万人以上の動員がないとヒットとは言えないが、それでも収支は合うラインだろう。本来作家性の強いホン・ギソン監督のこと、10万の観客動員も難しい監督だと思うのだが... さしずめ韓国版渡辺文樹路線を行ったというところか。

 なお、本作品はチャン・グンソク人気で国内DVDリリースがすでに決定しているようだ。

1)シネ21データベースによると2009.9.20現在で477,996人
http://www.cine21.com/Movies/Mov_Movie/movie_detail.php?id=27141

原題『이태원 살인사건』英題『Itaewon Murder Case』監督:홍기선
2009年 韓国映画

DVD(韓国版)情報
発行・販売:EIN S&M Korea 画面: NTSC/16:9(1:2.85) 音声: Dolby5.1 韓国語
本編: 99分 リージョン3 字幕: 韓/英 片面ニ層 2010 年 1月発行 希望価格W16500

チャン・グンソク出演映画
『楽しき人生』
http://yohnishi.at.webry.info/200810/article_9.html
『待ちくたびれて』
http://yohnishi.at.webry.info/200809/article_11.html

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『坡州』映画評
http://yohnishi.at.webry.info/201002/article_4.html

他の韓国映画に関する記事
http://yohnishi.at.webry.info/theme/fc194a0a1f.html



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soramove
2012/08/27 10:10

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