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zoom RSS 交錯する愛の皮肉を描くフランス映画『クスクス粒の秘密』

<<   作成日時 : 2009/07/13 01:37   >>

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画像 マグレブ系移民家族を描いた2007年製作のフランス映画。

 スリマーヌ(ハビブ・ブハール)は南仏の漁港セトにあるドックに勤める、フランス国籍を取得したマグレブ系移民。今年勤続35年だが仕事のスピードが遅いと上司に文句を言われた挙げ句、パートタイマーになるか退職するかのどちらかの選択を迫られ、退職する。彼には別れた妻スアド(ブラウイア・マルズーク)との間に娘カリマ(ファリーダ・ベンケターシュ)と息子ハミッド(アブデルハミッド・アクトゥーシュ)、マジッド(サミ・ジトゥーニ)、リア、そして孫たちがいる。スリマーヌ自身は食堂兼下宿屋を経営する愛人ラティファ(モハメッド・カラウリ)の下宿屋の部屋に住んでおり、魚を買ってきては別れた妻や子供たちに届けるのだが全くありがたがられない。ただラティファの娘リム(ハフシア・ヘルズィ)だけが喜んで受け取ってくれるのだった。
 別れた妻はクスクス(北アフリカ、ベルベル族起源の料理。マグレブ系の名物料理)が得意で子供たちやその家族を呼んでクスクスパーティを行うのだがスリマーヌは蚊帳の外。そして彼は息子たちから退職を機にフランスにいてもしょうがないから故郷に帰ったらなどと言われてしまう。そんなスリマーヌに心底同情してくれるのはリムだけ。だが子供たちの家族も一見上手く行ってる様に見えて安泰ではない。マジッド一家はマジッドの浮気で妻のジュリアとの仲が怪しく、カリマの夫マリオは低賃金の外国人労働者の進出で、自分もいつ首になるのかとひやひや。
 そこでスリマーヌはリムの励ましと協力を得て退職金で廃船を1隻買い取り、それを改装してクスクスレストランを開こうと計画。だが営業計画がずさんだと銀行から融資も受けられず、食品衛生当局からは免許が下りず、市当局からは港湾使用許可が下りない。
 そこで何とか彼らを説得しようと、手持ち資金で船を改装し、そこで開くクスクスパーティーを開いて当局の担当者を招待し、レストラン計画の実現可能性を示そうと奔走する。
 元妻や子供たちの協力を得て何とかパーティーは実現できる運びになったが、スリマーヌが自分の経営する食堂に協力することなく、自分でレストランを開くことにラティファは面白くない。リムは何とかパーティーに出席させようと自分の母親を説得するが...その一方順調と見えたパーティーにも暗雲が。最後のメインディッシュであるクスクスを出す直前、車に乗せたクスクスに使う粟を車から降ろすのを忘れたまま、突然マジッドは車で雲隠れしてしまう...果たしてパーティーはどうなるのか、そしてスリマーヌは許可を得ることが出来るのだろうか...?

 一見順調に見える家族に忍び寄る亀裂、そして家族から疎外される父親、それにも拘わらず家族のために自己犠牲を厭わず奔走しようとする父親や家族の姿を、時にシニカルに、距離を置いたカメラ目線でじっくりと描いていく。そしてその結末はいささか唐突で、ほろ苦く、人によっては納得できないという思いを禁じ得ないかも知れない。ここで描かれる、家族に対する思いや愛の行方は、少しずつすれ違い、一見通じている様でいて微妙にずれている。スリマーヌの家族への思いは必ずしも家族に通じる訳ではない。スアドのクスクスパーティにかける思いは娘たちに通じない。そしてラティファのスリマーヌへの思いも肩すかしに終わってしまう。そしておそらくはリムこそが誰よりもスリマーヌを愛する女性であるのだが、だがスリマーヌはそれをまじめには意識していない。愛に溢れているにも拘わらず、その愛は意図通りには通じない。

 そしてスリマーヌが企画した船のレストランは彼が撒いた種なのである。それにも拘わらず、必ずしも彼の家族たちにレストランを開こうとする彼の気持ちが伝わる訳でもなく、おそらく船のレストランの今後も彼の計画通りにならないことが暗示されるのであるが、しかし種が撒かれたことにより彼の意図を超えた「命」が与えられる。ここで思い起こされるのはヨハネ福音書の「一粒の麦もし地に落ちて死なずば、ただ一つにてあらん、死なば多くの実を結ぶべし」。そしてこのような個々の意図を外れた(もしくは超えた)ある種のコミュニケーションこそが人間社会の本質ではないかというリアリティに溢れている。
 おいしいクスクスは、愛情を以て作られるという台詞(これが邦題および別英題の語源)が、逆説的にクスクスになかなか客の口に届かないことがそのすべてを象徴する。
 なお、マグレブ移民の家族を中心に描かれているが、決してエスニックグループを描いている訳ではない。例えばカリマの夫はおそらくイタリア系フランス人だし、マジッドの妻ジュリアはロシア系である。監督自身も付加映像のインタビューの中で自分自身の家族をモデルに描いたのでマグレブ系移民の家族になっているものの、決してエスニックな家族を描こうというつもりでそう設定したのではなく、ごく普通のフランスの労働者階級の家族として描いた、だから登場人物の出身は映画の中では敢えて明示しなかったと語っている。
 
 カメラは人々の日常や何気ない会話をミニマルスティックにクローズアップを多用しながらじっくり追っていく。ちょうど描かれている家族の有様は全く正反対だが、方法論的には諏訪敦彦の『M/ohter』と(更にひいては小津あたりと)かなり共通するものを感じる。上映時間が長いのも共通。だがその長さがその独特の空気感に必要だと思える。従って前半、会話が延々続く部分、ハリウッド映画のテンポに慣れた人にはいささか退屈と思われるかも知れない。しかし後半に入るとどうなってしまうのかとぐいぐい視聴者を画面に惹き付ける、そんな不思議なパワーがある。
 そしてやはりスリマーヌの寡黙な演技と、リヌの献身的な思いの交錯が圧巻。

 監督のアブドラティフ・ケシシュ(Abdellatif Kechiche)は、1960年チュニジアのチュニス生まれ。労働者だった父親の元、フランスのニースで育ったようだ。映画監督・脚本のみならず俳優としても活躍。長編映画監督デビューは2000年の『La Faute a Voltaire』。さらに2003年『L'Esquive』を経て、本作が長編3作目。元々本作品は父親の自己犠牲的な献身ぶりを描きたくて、当初実際に自分の父親を出演させニースで撮影するつもりだった。しかし父親が亡くなり、ニースで撮影するのが辛くなり、一旦企画を白紙に戻し、撮影場所をセトに移して、チュニジアのあるプロの俳優に白羽の矢を立てたが、クランクイン直前彼が病に倒れ、キャスティングの再検討を迫られる。そこで父親の友人だったハビブ・ブハールを起用したという。
 監督は元々素人を多くキャスティングしてきたが、本作品も同様。

 本作品は2007年ベネチア映画祭に出品され審査員特別賞等を受賞。他に2008年セザール賞で4部門受賞他、国際的な評価の高い作品。国内では2008年秋東京国際映画祭で上映されたが、今のところ国内配給等の動きはない様だ。なお原題の『La graine et le mulet』は(クスクス)粒とボラで、もちろんこの題は同時にスリマーヌと元妻を暗示している。

原題『La graine et le mulet』英題『Couscous (もしくはThe Secret of the Grain)』監督:Abdellatif Kechiche
2007年フランス映画

DVD(UK盤)情報
販売: Artificial Eye 画面: PAL/16:9(1:1.85) 音声: Dolby2/5.1 フランス語 本編: 148分
リージョン: 2 字幕: 英語(On/Off可) 片面二層 2008年10月発行 希望価格 £19.99

2011.6付記 DVD評
 イギリス、Artificial Eye盤の映像クオリティは、色彩豊かで、映像のコントラストも比較的はっきりして鮮明度の高い画像。アップコンバーター付きDVDプレイヤーを使ってフルHDで再生すると、ゴースト等も目立たず解像度面ではほぼ不満はなく、PALフォーマットの有利さもあってBlu-rayにかなり迫るクオリティ。ただランニングタイムが長いため、DVD片面二層であってもやはり容量面で厳しく、平均ビットレートは5Mb/s代。また動作の激しい場面では画像が荒れてしまう点はやむを得ないだろう。DVDフォーマットの限界を90-95%程度は使い切っていると言えると思う。
 これ以上のイメージクオリティを求めるなら米、Criterion盤のBlu-rayということになるかと思う。Blu-rayなら日本とリージョンも同じなので再生の心配はない。



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