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zoom RSS 脱北者を描いた韓国映画『クロッシング -祈りの大地-』

<<   作成日時 : 2009/04/17 22:32   >>

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画像 本作品は2008年に韓国公開された北朝鮮脱北者を描いた映画であり、日本では2008年6月17日「北朝鮮強制収容所をなくすアクションの会」主催で特別上映会および第18回東京国際映画祭、2008韓国映画ショーケース(12月)にて上映されている。間もなく国内一般劇場公開も予定されているようだ(なお、一般劇場公開がずるずる遅れているようだ。最新の上映予定は下にリンクを張った公式サイトを参照)。

 北朝鮮の咸鏡道にある炭鉱町に暮らすヨンス(チャ・インピョ)一家。妻のヨンファ(ソ・ヨンファ)、息子のジュン(シン・ミョンチョル)の3人で慎ましくもそれなりに幸せに暮らしていた。近くのサンチョル(チョン・インギ)の一家とは家族ぐるみの付き合い。サンチョルは中国との密貿易で密かに儲け、ヨンスにウィスキーをご馳走したり、サンチョルの娘ミソン(チュ・ダヨン)とヨンスの息子ジュンは互いに幼い恋心を抱く仲。
 しかし、ある日サンチョルの密貿易が密告によって当局に知られ、サンチョル一家は強制収容所に。更にヨンスの妻ヨンファもある日突然倒れる。肺結核だったのだ。しかし北朝鮮内では簡単な風邪薬程度しか買えず、ヨンスはサンチョルに倣って中国に行き薬を購入することを決意し、命懸けで密出国する。
 中国へ行ったヨンスは貯木場で働きながら薬を買う金を貯めるが、脱北者の不法労働を知った公安当局の取り締まりを受け、公安の手から逃げる最中に貯めた金をすべて失ってしまう。途方に暮れるヨンスに、脱北ブローカーが瀋陽で簡単なインタビュウーを受ければ金をくれると話を持ちかけてくる。ブローカーに言われるまま瀋陽に行き、ドイツ領事館に駆け込むと、いつの間にか韓国亡命希望者に仕立てられていた。つまりブローカーが「韓国亡命希望」脱北者を仕立てて、韓国に人権団体に売り付けたという訳だ。駆け付けた韓国領事館係官にお金はいつ貰えるのかと尋ねるヨンスに、係官は韓国に行けば定着支援金を渡すと答える。それでは妻に薬を届けられないから北朝鮮に戻してくれと頼むが、その願いは聞き入れられず、そのまま韓国に送られてしまう。
 一方北朝鮮に残された家族は、ヨンファの病状が悪化しこの世を去り、ジュンはわずかな金だけ持って「コッチェビ」に身を落とすしかなかった。彼は父の後を追い中国へ行くことを決意する。その途中やはり両親を強制収容所で亡くしコッチェビに身をやつしたミソンに奇跡的に再会、二人で豆満江を渡ろうとするが、そこで公安に捕まり二人は強制収容所送りとなる。
 一方、韓国で貯めた金で北朝鮮のブローカーを通じて薬と金を届けようとするヨンスだが、ヨンファは死に、ジュンは家を追い出された後。しかしブローカーがようやく強制収容所に収容されているジュンを探し出した時には、既にミソンは亡くなっていた。なんとかジュンはブローカーの手により豆満江を渡ることができ、モンゴルで父と再会する手筈となるのだが...

 本作品の準備・製作には4年の歳月が費やされ、その内3年は脱北者の取材に費やされた。DVDに含まれる監督インタビューやコメンタリーによれば非常に重い素材のため出資者が探しが大変で、かといってインディペンデントで作れる作品でもなく非常に苦労したが、幸い出資者が現れて製作が可能になったとのことである。
 また監督の一番の心配はこの映画を見て「嘘だろう」で片付けられないかという点であり、そのために脱北者から聞いた話をこれでも相当抑えて脚本を作成したとか。それでも脚本を書く当の監督自身も脱北者の心情理解が十分できず、こんなことが実際あり得るのかとずいぶん悩んで脚本を書いたということだ。例えば強制収容所のシーンなどは、脱北者の証言通りだと、全く観客には事実とは信じられないようなエピソードばかりなのでこれでも相当抑えて描いたが、強制収容所で、脱北して中国人の子供を妊娠して戻された女性が収容所で相当虐待されるというのは事実だそうである。また、ジュンがブローカーの助けをかり豆満江を渡るシーンも、韓国内で、こんなに簡単に渡れるはずはない、嘘だろうという意見をかなり受けたそうだが、現在の北朝鮮は統制が緩み、金さえあれば信じられないようなことでも何でもありの世界で、脱北者も公安に金を渡して安全に簡単に脱北できる人間と、文字通り命がけで脱北して来る人間の二極分解になっているということだ。ジュンが中国に脱北後、韓国にいる父親と頻繁に携帯電話で連絡を取り合うシーンもあるが、こういう状況も脱北者の証言から実際にあるということで、ひどい場合だと中国に滞在中の家族が電話越しに死にゆくのを聞きとったという人もいるそうだ。全く会えないならともかく、なまじ電話で相手の動静が刻々と分かるようになった(しかし簡単に身体は移動できない)現在、韓国と中国にバラバラになった脱北者は、むしろ精神的により辛い状況に置かれているという。

 また、中国の脱北ブローカーが韓国の脱北支援団体に脱北者を仕立てて売り渡すという設定に関しても、人権支援団体を愚弄することになるのではないかと悩んだが、実際に悪徳脱北ブローカーが横行しているのは事実なので、これも描く必要があると考えたとか。またヨンスが「イエス様は世界中の人を救済するために現れたというが、韓国の金持ちのそばにいるだけじゃないか。不公平だ」と叫ぶシーンも、監督自身キリスト教徒であり、描いていて心痛む部分であったが、やはり描かざるを得ないと考えたという。監督はコメンタリーやインタビュー映像の中で、自分自身はかつての反共教育に疑問を持ってきた世代であり、極力政治的宣伝臭を排除して、なるべく脱北者の置かれた事実状況を伝えるように製作したつもりであると語っていた。

 現在韓国には脱北者が一万三千名余り。しかしインタビューをした脱北者の多くからインタビュー後仕事を紹介してくれと頼まれたそうだ。脱北しても韓国社会から受け入れられない現実が待っている。監督は、よく早く統一したら良いという声も聞くが、僅か一万三千名の脱北者さえきちんと受け入れられない状況で大丈夫なのかと語る。

 撮影は韓国(江原道寧越郡北面磨磋里)のセット、モンゴル(ウランバートル近郊およびゴビ砂漠)および中国瀋陽近郊の三カ国に渡り、炭鉱シーン等は江原道の廃鉱を使い、学校や市場のシーン等は、北朝鮮でも使われているソ連式の建築物があるとともに北朝鮮の人々と雰囲気の似たエキストラを調達しやすいモンゴル・ウランバートル近郊で、中国の貯木場や鉄道乗車シーン等は中国で撮影されたとか。北朝鮮様式の建物などを韓国内でセットで作るとむしろお金がかかってしまうのでモンゴルでロケーションをした方が安上がりなのだそうだ。またモンゴル側は映画撮影に非常に協力的で、韓国では許されない空港でのロケも、ウランバートル国際空港ではロケ許可を得ることができ、入国審査でトラブルが起こるシーンなども実際の空港の入国審査場で撮影することができたほか、モンゴルのエキストラも指示を的確に受け取ってスムーズに撮影ができたそうである。

 本作品の脚本/監督を担当したキム・テギュン監督は、日本でも公開された『火山高』(2001)『オオカミの誘惑』(2004)『百万長者の初恋』(2006)等どちらかと言えば韓流ブームの本流に乗るような若者に人気のある若手俳優を起用したトレンディドラマ映画製作で知られた監督であり、今回のような硬派の映画を製作するとは極めて意外である。

 本作を見て脱北者の真実に迫った映画と見るか、それとも胡散臭い映画と見るか...ともかく日本でも間もなく一般公開が予定されているのでご自分の目でとくとご覧あれ。

原題『크로싱』英題『Crossing』監督:김태균
2008年 韓国映画

DVD(韓国版)情報
販売: PRE.GM 画面: NTSC/16:9(1:2.35) 音声: Dolby5.1 韓国語 本編: 106分
リージョン3 字幕: 韓/英 片面ニ層 2009年4月発行 希望価格W22000

『クロッシング』日本公式サイト(配給会社はシネカノンより太秦に変更)
http://www.crossing-movie.jp/

北朝鮮強制収容所をなくすアクションの会
http://nofence.netlive.ne.jp/

『クロッシング -祈りの大地-』@goo映画
http://movie.goo.ne.jp/contents/movies/MOVCSTD14082/

『クロッシング -祈りの大地-』@映画生活
http://www.eigaseikatu.com/title/25361/

中央日報「脱北者扱った映画「クロッシング」に上映禁止仮処分申請」 2008.7.15
http://japanese.joins.com/article/article.php?aid=102469&servcode=700&sectcode=730

他の韓国映画に関する記事
http://yohnishi.at.webry.info/theme/fc194a0a1f.html



付記
『クロッシング』国内盤DVD 2010.12.24発売予定




わが教え子、金正日に告ぐ?脱北エリート教授が暴く北朝鮮
新潮社
金 賢植

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映画「クロッシング」この現実の前に何を語れるか
「クロッシング」★★★☆ チャ・インピョ、シン・ミョンチョル、ソ・ヨンファ、チョン・インギ主演 キム・テギュン監督、107分 、 2010年4月17日公開、2008,韓国,太秦 (原題:CROSSING ) ...続きを見る
soramove
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