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zoom RSS 普遍的な夫婦の危機を描く韓国映画『サグァ』

<<   作成日時 : 2009/03/25 20:54   >>

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画像 2005年製作の韓国映画であるが、韓国での劇場公開は遅れに遅れて2008年10月。日本では2005年の東京フィルメックスのコンペ部門に出品された他、2008年12月韓国映画ショーケース(韓国映画振興委員会主催、シネカノン協力)で上映されている。映画プロダクションは社会派映画をいくつか製作している青於藍(チョンオラム)。
 映画のテーマは、ありふれた夫婦、男女のありがちな微妙な気持ちの擦れ違い、食い違いがだんだん拡大して大きな亀裂になってしまう過程を描いたもので、非常に丁寧な心理描写でこの過程を追っていく。決して大ヒットするような娯楽作品ではないが、ぜひ夫婦で(あるいはこれから夫婦になろうとするカップルに)見ていただきたい映画である。
 DVDのジャケットを見ると女性が能天気に男性遍歴を重ねているように見えるが、ジャケットの印象と映画の内容は異なり、よりシリアスなドラマである。

 ヒョンジョン(ムン・ソリ)はソウルに住む20代後半の独身女性。会社ではキャリアウーマンとしてバリバリと仕事をする一方、ボーイフレンドのミンソク(イ・ソンギュン)とは親公認の仲。しかし付き合い始めてからかなり長い春になっていた。
 そんなある日、会社のビルの前で突然ある男から付き合って下さいと名刺を渡される。彼は隣の建物の一流電機メーカーに勤めるサンフン(キム・テウ)。携帯電話のICチップ製造関連部門に勤務している男だ。何度か言い寄ってくるサンフンに対し、付き合っている彼氏がいると拒絶するヒョンジョン。
 ところがミンソクと二人で訪れた済州島で、ミンソクから一方的に別れたいと告げられる。さらにミンソクと別れたことを母に告げると、早く別の男を探して結婚しろと矢の催促。そこへ、彼氏と別れたと聞きましたとサンフンが再びアプローチしてくる。仕方なくサンフンとデートしてみるが、やはりぴんと来ず別れようとするが、サンフンにすがられ、さらに母からの結婚の督促もあってずるずると付き合い、結局まぁこんなものかと彼と結婚を決める。
 あまり期待しないで始めた結婚生活だったが、小さな夫婦喧嘩はあるものの、結婚してみればそれなりにサンフンに対し愛情も湧き幸せな結婚ではあった。しかし、サンフンが会社の命令だと、慶尚北道の亀尾の工場へ転勤が決まり、夫の単身赴任生活が始まる。やがてヒョンジュンの妊娠が判明する。ヒョンジュンは妊娠を機に退職して亀尾へ夫とともに住もうかどうか迷うが、サンフンは亀尾は何もないから来る必要はないといい、母に話せば夫と共に田舎に来いなんて結婚の時の約束と違うと猛反対。
 ヒョンジュンはずっと退職を迷いながらも出産休暇を機に退職を視野に入れながら亀尾に移る。そこで会社の同僚を招いた際に、サンフンの転勤は会社命令ではなく彼の志願だった事実を知り、自分に何も知らせずにすべてを決めた夫に対し不信感と、妻として尊重されていないという感覚を抱きはじめる。そんなある日、昔別れたミンソクが休暇で全国旅行中だとふらりと亀尾を訪れる...

 この映画に出てくる登場人物はお互いに騙してやろうというような明確な悪意を持っているわけでは決してない。むしろ相手に対して良かれと判断して行動している部分もある。しかし相手に対する微妙な思いやりや立場の尊重の不十分さ、不足から徐々に亀裂が拡大していく模様が説得力を持って描かれる。このような気持ちの擦れ違いはヒョンジュン、サンフンの結婚当初の夫婦喧嘩の時にも既に明らかなのだが、実はおそらくどんな夫婦であっても誰にでもどこにでもありうるような普遍的な小さな気持ちの擦れ違いである。それが最終的にあそこまで行ってしまうという点に、単に他人事ではないリアリティや怖さが非常に良く描き出されている。ちなみにこの脚本準備に50カップルのインタビューを敢行したと言うが(さすが監督、社会学科出身!)、その成果は十分出ているといえる。
 このあたりの心理描写の細かさは、私の記憶に残る日本映画であれば、たとえば諏訪敦彦(のぶひろ)監督の『M/other』(1999)などにも比することができる。しかし『M/other』の描いた、男の悪意とは言えないが微妙なずるさが、離婚した男性とその恋人の、男性の離婚した妻との子をめぐる関係という、多少特殊な状況で描かれていたのに対し、『サグァ』ではどんな夫婦関係にもありそうという点で、より普遍性のある形で描かれているという点、さらに『M/other』は二人の関係を長回しでじっくり時間をかけて撮っていくというミニマリスティックなスタイルが視聴者を選ぶのに対し、『サグァ』ではよりオーソドックスな演出スタイルという点で、より一般的な視聴者に受け入れられやすい映画になっていると言えよう。

 また、韓国家族の変容ぶりも描かれている。かつては、娘を嫁に出してしまえば、実家とは縁遠くなり夫の家族に包摂されていってしまうところであるが、ヒョンジュンは結婚後も、田舎にある夫の実家よりも、ソウルにある自分の実家への依存度が高い。都市化や経済的格差、あるいは少子化という現象が、韓国の古い家族規範を大きく揺るがしている現状が如実に描かれている点も興味深い。

 おそらく多くの夫婦(あるいは恋人)たちにとって多かれ少なかれ、胸の痛みを感じられる映画になっているのではないだろうか。

 俳優陣は『ペパーミントキャンディー』『オアシス』で韓国随一の演技派女優として知られるムン・ソリ、そして『接続』『リターン』でおなじみイ・テウ、さらに最近韓国ドラマ「コーヒープリンス1号店」で日本でも一躍名が知られるようになったイ・ソンギュン。脚本・監督はカン・イグァン。Cine21のDBによると1971年生まれで高麗大学社会学科、韓国映画アカデミー出身。本作品が長編デビュー作。

 なお、題名の『サグァ』にはりんごという意味と謝罪という意味の二つが掛け合わさっている。また韓国盤DVDの画質はかなり良好。ヒアリング教材としての難易度は、あまり難しい単語は少なく、方言もごく一部なので(ヒョンジョンがサンフンの実家を訪問するシーンのみ)、比較的易しい。



原題『사과』 英題『Sa-Kwa』 監督:강이관
2005年韓国映画

DVD(韓国版)情報
販売: Enter One 画面: NTSC/16:9(1:1.85) 音声: Dolby5.1 韓国語 本編: 118分
リージョン3 字幕: 韓/英 片面二層 2009年2月発行 希望価格W25300


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