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zoom RSS 実は内容の濃い韓国映画『スカウト』

<<   作成日時 : 2009/02/28 14:44   >>

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画像 この作品は思いがけず良い作品だった。高校の野球選手をスカウトに行く話...と聞くと一見スポーツ映画かと思わされるのだが、実はこの映画の主題はスポーツではない。思想的なところに主題がある。本作品を見て真っ先に思い出したのが、アルゼンチンの軍事政権下で政治意識に疎かったある高校の歴史女教師が、養女として育ててきた自分の娘の出自を探ることで政治的に覚醒していく、1985年のアルゼンチン映画『オフィシャル・ストーリー』である。本作品は光州事件を巡る韓国版『オフィシャル・ストーリー』と位置づけて良いだろう。とはいえ『オフィシャル・ストーリー』はシリアスドラマだったのに対しこちらは監督の長編デビュー作『YMCA野球団』同様コメディ仕立て。

 1980年5月ソウル。野球部担当、新村にあるY大学(延世大学がモデル)職員ホチャン(イム・チャンジョン)は、休暇をまとめ取りし、催涙弾飛び交う空気の汚れたソウルを離れ日本海側の海水浴場で「華麗なる休暇」を過ごす予定で準備を着々と進めていた。一方彼の上司ペク部長(イ・デヨン)は有力高校選手を安岩洞にあるライバル大学(モデルは高麗大学)に取られっぱなし。ライバル大学進学が内定している光州一高のソン・ドンヨル(イ・ゴンジュ)をスカウトできなければクビと宣告され、泣く泣く光州へ出張しようという矢先、自動車事故で脚を骨折。急遽ホチャンに代わりに光州へ行けと業務命令を出す。
 泣く泣く光州にソン・ドンヨルをスカウトしにやってきたホチャン。旅館に部屋を取ると、携帯電話のない時代、連絡事務所代わりに使える場所をと、つてを探して大学時代の同期生に電話を掛けまくる。すると、図書館学科の同期だったセヨン(オム・ジウォン)が現在光州YMCAの図書館に勤めていることが分かり、早速YMCA図書館を大学との連絡場所に使わせて貰うことにする。実はセヨンとホチャンは大学時代恋人同士だったが、ブルース・リーが死んだ日、突然彼女から別れを告げられ、それから7年以上経っていたのだった。
 気まずい思いで再会する二人。ホチャンはセヨンに「早くソウルに帰れない?」と言われてしまう。さらにホチャンは、セヨンに片思いをする地元の元ヤクザ、コンテ(パク・チョルミン)に目の敵にされ、契約しなければならないソン・ドンヨルはライバル校の手によって雲隠れさせられ、前途多難なスタート。画像
 とはいえ、ホチャンに早くソウルに帰って欲しい一心で協力するコンテの助力を得、さらにセヨンの配慮によって、ソン・ドンヨルの家族の説得に成功、いよいよ契約かという矢先、光州市民運動に参加していたセヨンが警察に捕まる。さらに市内でうろうろしていたホチャンも怪しい人物として機動隊に捕まり、二人は警察署内で再会。ホチャンをかばおうと、知らないふりをするセヨン。そして契約をしなければとの思いから、セヨンを見殺しにするホチャン。
 そして、ソン・ドンヨルとの契約の席に戻ったホチャンは、8年前なぜセヨンがホチャンに一方的に別れを告げて去っていったのか、ようやく今になってその理由が思い当たり愕然とする...

 因みにソン・ドンヨル(宣銅烈)は実在の人物。光州一高→高麗大出身。1996-99年に日本の中日に在籍したこともある野球選手で韓国では国宝級投手と言われた。最近はサムスン・ライオンズの監督や韓国北京五輪主席コーチなども務めている。

 ノンポリで脳天気で、結果的に体制側に荷担してきたホチャンが、自分にとって大切な人を見捨てたことの自覚を通じて、政治的な立場を自覚していくという過程が大きな説得力を持って描かれている。『華麗なる休暇(公開邦題: 光州5.18)』が光州事件の外面的な紹介はともかく、内面的な描写においては疑問符が付く出来であったのに対し、本作品は内面的な見事な紹介になっていると言えるだろう。
 ただし『オフィシャル・ストーリー』を当時見て、さらに最近改めてみて感じたことであるが、日本で公開当時アルゼンチンの軍事政権の行っていることはリアルタイムな事件であり、当時映画を見てすぐ共感できたが、それから20年が経過した現在、今の世代にとって理解するためにはやはり当時の事情の解説が必要だ、と改めて感じさせられた。同様なことは本作品についても言えることで、韓国人であればまだ光州事件をどう評価するかはホットな問題であり、その位置づけについて十分な理解があるだろうが、韓国人でない我々のしかも当時のリアルタイムな事情を知らない人にとっては、光州事件や韓国の「運動圏」(学生運動)の位置づけについて予め基礎知識を仕入れていないと、最後の部分の意味を十分理解することは難しいだろう。
 そういうとっかかりの意味で本作を見る前に『光州5.18』を見ておくことは意味があると思われる。

 監督のキム・ヒョンソクは『YMCA野球団(公開邦題: 爆裂野球団)』も監督しており、本作品も非常に納得の出来。
日本未公開作品。

 なお、韓国盤DVDをご覧になる方に、理解のための重要キーワードを2つ解説しておく。

1. 縞模様(の野球ユニフォーム) 줄무늬
 ホチャンが自分の行為に気づく際の重要なキーワード。ちなみに、模様のない無地は민무늬。

2. 雨の光札 비광
 コンテが自分を비광に喩えるのだが、これも内容理解のため重要。雨の光札とは花札の札の種類で、光札とは花札の札の中でも点数の高い(20点)札を指す。光札には松、桜、坊主、柳(雨)、桐の5つの絵柄があり、雨の光札とは、柳に小野道風の絵が描かれている札を指す。しかし韓国で行われる花札(花闘 ファトゥ)のゲームのひとつ、「ソッタ」では、素点計算はされるものの、得点の高くなる役にはなれず、やはり花札のゲームであり非常によく行われる「ゴーストップ」でも、なれる役は少なく敬遠されがちである。ただし最も点数の高い役である五光(오광)では必要とされる。
参考サイト: 世界遊戯博物館「ファトゥ」 http://210.150.246.43/game.hp/fatou/1.html
 したがって、格は高いのだが敬遠されがちな人物の比喩として、비광を持ち出すのである。

 以上2点を予め頭に入れて映画をご覧あれ。

原題『스카우트』英題『Scout』監督:김현석
2007年 韓国映画

DVD(韓国版)情報
販売: Enter One 画面: NTSC/16:9(1:1.85) 音声: Dolby5.1 韓国語 本編: 100分
リージョン3 字幕: 韓/英 片面二層 2008年1月発行 希望価格W25300

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現在でもアルゼンチン理解のための最重要映画『オフィシャル・ストーリー』
 1985年、ルイス・プエンソ監督によって撮られたアルゼンチン映画。軍事政権によって虐殺された人々の養子にやられた子供の問題を描いた作品。国内では1987年に松竹富士によって配給され、VHS、レーザーディスクも刊行されたが、今日では配給権切れとなっており基本的には国内で見ることは出来ない。TSUTAYAの新宿、渋谷店あたりで昔のVHSが残っているかどうか...  現在でもアルゼンチンの政治・社会理解に不可欠な映画と言える。 ...続きを見る
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コメント(2件)

内 容 ニックネーム/日時
オフィシャルストーリー観てみたいです。85年の作品なのでもうTSUTAYAにはないでしょうね。3〜4年前のイタリア映画祭で上映された“Hijos−子供たち”もチリ生まれでアルゼンチンに亡命し、今はイタリア在住の監督の手になるもので、子供が先に疑問を持ち両親を問い詰めていくというストーリーでした。
Adoro
2009/03/03 11:47
 コメント有難うございます。『オフィシャル・ストーリー』はもし英語字幕版で構わないのならAmazon.comで簡単に買えます。値段は$14程度です。

 Hijosは未見ですが探してみたいと思います。
yohnishi
2009/03/03 22:48

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