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zoom RSS イ・ジュニク+チェ・ソックヮンコンビ第5作『あなたは遠いところに』 - 韓国映画

<<   作成日時 : 2008/12/07 16:54   >>

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画像 『黄山原』以降続くイ・ジュニク監督+チェ・ソックヮン脚本コンビの『楽しい人生』に続く第5作(イ・ジュニク監督としては第6作)で本年度(2008)公開の作品。このコンビの作品は特に人間洞察の深さに見るべきものがあるが、今回の作品は特に含蓄が深く、また多様な解釈の成り立つ、人間性の複雑さを掘り起こした脚本がすばらしい。

 ストーリーは簡単に言うと、夫を軍隊に徴兵に送った妻が、夫がひょんなことからヴェトナム戦争に送られることになったため、民間人の渡航できないヴェトナムまで夫に会いに行くために、従軍慰問団に潜り込み、ヴェトナムに渡っていくというお話。このように書くとメロドラマ系ラブストーリーであるかのように思えるかもしれないが、全く違う。そこが本作の含蓄の深さでもある。

 舞台は1971年、ヴェトナム戦争末期の頃。スニ(スエ)は韓国の田舎(おそらく慶尚北道の洛東江沿いのどこか)に住む田舎の旧家の一人息子に嫁いだ妻。結婚早々夫キム・サンギル(オム・テウン)が徴兵に取られ、姑と二人暮らし。厳格な姑に仕える気の休まらない彼女の唯一の気晴らしは歌を歌うこと。
 姑は嫁に息子の子種を宿らせようと、月1回の軍の面会日に必ず嫁を息子サンギルの元に送るのだが、一向に妊娠する気配がない。それもその筈、息子には実はソウルに彼女がおり、スニとは愛情のないまま結婚したのだった。その事実を知った姑は、ならば妾を家に入れる、お前は出て行けとスニを追い出す。実家に戻ったスニに父は、一旦嫁に送った娘は決して家に入れないと言い、行く当てのないスニは再びすごすごと婚家に戻る。

 しかし、サンギルは部隊内で喧嘩騒ぎを引き起こし、その相手となった先輩兵と共に懲罰的にヴェトナム戦線に送られることに。それを知った姑は自分がヴェトナムまで会いに行くと半狂乱。それを見たスニは自分が代わりにヴェトナムに行くと、ソウルの軍の本部に出向くのだが、民間人はヴェトナムに渡航できないとにべもない。だが、従軍慰問団であれば渡航できることを知り、丁度ヴェトナムに渡航しようにも歌手に逃げられ、金もなく渡航できなかったジョンマン(チョン・ジニョン)のバンドに潜り込み、なんとかヴェトナムに渡航する。渡航する船内でスニは夫がフイアンという戦線に送られていることを知る。

 サイゴンに着くとジョンマンは、スニにサニーという芸名を与え米軍相手に一儲けを考えるのだが、にわか仕立ての素人歌手のスニがステージに出ると米兵から非難囂々。おまけに楽器類も前回ヴェトナム滞在時の借金のかたに取られ、バンドメンバー一同バーの下働きさせられる。そんな中、やはり前回の滞在時に借金の人質代わりに残されたベーシスト、ヨンドク(チョン・ギョンホ)と再会し、彼をメンバーに加えて、トラックを買い、借金のかたに取られた楽器を奪って前線の韓国軍の慰問バンドとしてなんとか出発するのだが....

 今回も『ラジオ・スター』以来の音楽を巡る物語。これに加え、韓国現代史上陰の歴史的事実となっている韓国軍のヴェトナム戦争参戦へ照明を当て1)、それにかつての韓国女性の置かれた厳しい社会的立場などを織り込んだ見事な反戦映画となっているが、決して反戦メッセージを声高に叫ぶ様な反戦映画ではなく、じんわりと戦争の虚しさを体感させる様な映画になっている。同時に、主人公らをベトナム解放ゲリラに一旦捕まらせることにより、ゲリラを顔の見えない敵と描くのではなく、人間として描く(と同時に戦場における「正義」の怪しさも浮き彫りにする)という配慮の行き届き方にも脱帽。また戦争映画として見た場合でも、戦闘シーンの描き方には手抜きがない(戦争映画が苦手な人には辛いかも)。勿論単なる戦争映画ではない。戦争映画ではない映画として本作品を見ていくことも可能である。例えば田舎の歌好き娘が、一人のシンガーとして成長していく作品としても、音楽映画としてみていくことも見ることは可能であり、まさに現実の様に、この作品を両義的、多義的な側面から見ていくことが可能な作品なのである。

 その中でも、果たしてこの物語はラブストーリーなのかどうか、というところが議論の分かれ目になりそうだ。彼女は愛のためにヴェトナムまで苦労して行ったのだろうか?私の解釈では、そうするしか、そう生きるしか選択肢がなかった....ということなのではないかと思っている。つまり、婚家からも跡継ぎの種を宿さないと拒否され、実家からも出戻りを拒絶され、ヴェトナムに行き場を求めるしかなかったのではないのだろうか。実際に15-20年前までは、離婚したことにより韓国内に行き場を失い、日本につてを求めて渡ってくる韓国人女性が後を絶たなかった。それと同じなのではないだろうか?実際、映画の中で夫の消息を求めるために米軍士官に体を提供したことを示唆する場面がある(これはそのものの場面が描かれている訳ではないので、あくまでも観客の解釈に任される訳だが)。しかしそれに対し逡巡したり、後ろめく思っている様子は微塵もない。愛情の有無に拘わらず、ああいう風に夫を捜し求めることで、自ら生きる活路を求めた(そうしないと韓国での自分の居場所が確保できない)、そんな韓国女性の力強さが描かれたのではないかと、私は考えている。ただその直情さが、平和の時代にあっては前作『楽しい人生』に描かれた様にチマパラムに転化してしまう訳だが...そういう意味では本作品の位置づけは、男の立場から描かれた前作『楽しい人生』に対するカードの裏面の様な意味合いがあるのかも知れない。

 俳優陣は『黄山原』以来のつきあいのチョン・ジニョンに、前回の『楽しい人生』で人材紹介所の所長だったチュ・ジンモが今回はバンドメンバーとして引き続き顔を見せる。これに今回主役として『ファミリー』『ウェディング・キャンペーン』のスエ、さらにオム・テウン、チョン・ギョンホらを迎えている。なお、今回ベーシスト役のチョン・ギョンホ誰かに似ているなぁ...とずうっと思っていたのだが、思い当たった。雰囲気がオダギリ・ジョーに似てきたのだ。『ハーブ』や『暴力サークル』ではちょっと青臭かったので、これは意外だった。

なお、本作品は韓国映画ショーケース2008で『あの人は遠くへ』の題で上映される。
http://www.cqn.co.jp/ks2008/works.html 

原題『님은 먼곳에』英題『Sunny』 監督:이준익
2008年韓国映画

DVD(韓国版)情報
販売: KD MEDIA 画面: NTSC/16:9(1:1.85) 音声: Dolby5.1/2 韓国語 本編: 126分
リージョン3 字幕: 韓/英 片面二層2枚組 2008年11月発行 希望価格W25300

1)なお、韓国軍のヴェトナム戦争参戦について初めて正面から扱った映画作品としてチョン・ジニョン監督の『ホワイトバッジ』がある。本作品に関しては国内盤DVDあり。



イ・ジュニク監督前作『楽しい人生』レビュー
http://yohnishi.at.webry.info/200810/article_9.html

他のブログ記事
韓国映画雑記帳
http://blogs.yahoo.co.jp/chuunenfan2/56685108.html
徒然韓国日記
http://lily-korea.at.webry.info/200812/article_12.html

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コメント(2件)

内 容 ニックネーム/日時
トラックバックありがとうございます。不可解なスニの行動を通して監督が伝えたかったことが理解できたような気がします。納得です。
中年ファン2
2008/12/15 10:43
コメントありがとうございます。ですから最後にスニがサンギルに再会した時、サンギルは自分たちのベトナム送りの原因となった喧嘩相手の元班長が戦死し、半ば自暴自棄になって彼の敵を取って自分も死のうとしていた訳ですが、それをスニは、男の戦争ロマンに付き合って命を落とそうなんて何を馬鹿なことを考えているんだ、お前は私が暮らして行けるために生きて韓国に帰るのが私に対する償いになるんだ...そう言いたかったんだと思いますね。そこに強い反戦メッセージが込められていると私は見ています。

ま、その結果達成された平和韓国で男たちはリストラの嵐とチマパラムにあおられているというのは『楽しい人生』に描かれている通りですけれど...
yohnishi
2008/12/15 22:51

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