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zoom RSS 植民地下朝鮮最初の「親日」映画 『軍用列車』

<<   作成日時 : 2008/11/10 07:03   >>

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画像 再び、『発掘された過去』第2集より映画紹介。
本集収録の2番目の映画は1938年製作の『軍用列車』。付属のパンフレットの記述によると、本作品は植民地下朝鮮最初の「親日(反民族的)」映画だということだが、逆に言えば1938年まで親日映画は作られなかったということでもある。本作品は現存部分が67分と、本集収録の作品中一番長く、その分、この中では一番映画として鑑賞できる作品になっている。この作品も2004年に中国映像資料館から収集してきた作品。

 映画の内容は、一言で言うと、中国のスパイの魔手から朝鮮鉄道の軍用列車を守るというもの。キム・ジョンヨンは朝鮮鉄道の蒸気機関車機関士で、親友イ・ウォンジンと一緒に下宿生活をしている。現在は通常の列車の運行を担当しているが、お国のために役立ちたいと、軍用列車の機関士に志願中。ジョンヨンの両親は既に亡く、ジョンヨンを鉄道学校にやるため、妹のヨンシムがキーセンに身をやつしていた。親友ウォンジンはそんなヨンシムを憎からず思い、二人は結婚を約束する仲であった。
 しかし、パクという金持のキーセン宿の常連客がヨンシムを身請けしたいと言ってきた。ウォンジンは彼女と結婚したかったので、キーセン宿の女将さんに、彼女と結婚させてくれと頼むと、身請け料として2000円寄越せと言う。2000円という大金を工面できず悩むウォンジンに中国系スパイが近づいてきて、2000縁を工面してやる、その代わり親友ジョンヨンから軍用列車の運行予定を聞き出せと言ってくる。ウォンジンは悩むが、他に金を工面する当てもなく、その申し出を了承し、前渡し金として100円を貰ってしまう。
 ウォンジンはジョンヨンからそれとなく軍用列車のダイヤを聞き出そうとするが、そのたびにのらりくらりとかわすジョンヨン。ついに彼が寝ている間にポケットからダイヤを取り出し、軍用列車の運行部分を破るウォンジン。だが、敵方工作員が軍用列車を襲う直前、罪悪感に駆られたウォンジンはジョンヨンに告白。直ちに警察に連絡が行き、工作員たちは全員逮捕される。
 そしてジョンヨンが初めて運行する軍用列車に、ウォンジンは身を投げて自殺。あとにはジョンヨンに対し謝罪する遺書が残されたのだった...

 本作品はもちろん対日協力を呼びかける宣伝映画であるが、ヨンシムの救済と敵方への協力のダブルバインドに悩む主人公の姿が描かれるなど、心理描写も巧みである。しかしその苦悩は、あくまでもヨンシムがキーセンに身をやつさなければ弟を学校にやることが出来ない社会的矛盾への疑問であるとか、スパイに協力すること(日本を裏切ること)は悪いことである、という観念への疑問は全く描かれず、あくまで個人の良心の葛藤問題、自己責任問題として描き出される。
 対日協力映画ではあるが劇中に日本語はほとんど使われず、僅かに機関区長が機関区員に訓辞を出す時のみ日本語が使われている。当時の朝鮮人の言語生活の一端を伺い知ることが出来よう。
 また本作品は鉄道映画としてみることも出来、おそらく龍山の機関区であろう機関区に勢揃いしたSLの姿は壮観。当時の朝鮮鉄道の生きた姿が生き生きと活写されている点で鉄道資料的な価値は高い。

 本作品を監督したソ・グァンジェ(徐光済)は、付録パンフレットによると、1901年ソウル生まれ。彼は「朝鮮映画芸術協会」で100名中20名のみ選抜されて映画に関する研修を受ける。その後彼は朝鮮映画芸術協会をKAPF(コリア・プロレタリアン・アート・フェデレーション)に改変、KAPFのスタッフとして活躍する。KAPFを根城に映画理論家および評論家として活躍した後、1932年に日本本土に渡り、映画技術を学ぶため京都の東活キネマに入る。日本での留学を終え、1938年に本作品を唯一の演出作として残したということだ。
 つまり当初はプロレタリア芸術家として出発しながら、日本留学を経て転向してしまったようだ。1930年代前半に小林多喜二の虐殺に見られるように、日本では左翼活動家の弾圧が大々的に進められ、入獄を経てその後転向した左翼活動家も多い。勿論彼らは自分自身の思想を折ったとも見ることが出来るが、軍国主義や総力戦体制が一方で階級格差を是正し、一種の平等化を指向した側面もあったことは様々な文献で指摘されるところだ。そういう意味で労働者階級や貧困からの解放が、マルキシズムによる解放なのか、それとも帝国主義、軍国主義による解放なのかは意外と近い距離にあったように思われる。
 例えば「橋のない川」を書いて部落民解放運動に寄与した住井すゑは、戦時中大政翼賛活動に邁進したと言われているが、彼女は戦後、戦前・戦中の自分の活動を反省するような弁は決して述べなかったという話を聞いたことがある。それが皇民としての平等を追求した結果だとすれば、それも納得のいくところである。
 ソ・グァンジェの立ち位置も、そのような一般的日本左翼の立ち位置と近いものがあったのではないだろうか。皇民として日本人と朝鮮人の平等を追求する....そのときに彼の中で「民族」という位置づけをどう考えていたのだろうか?

 なお、DVDの画像はデジタル修復はされておらずスクラッチノイズ等も多いが、残された画像自体は比較的鮮鋭で、音声も聞き取りやすい。焼き込みの日本語字幕も見やすいので朝鮮語の分からない人でも容易に見られるだろう。


原題『軍用列車(군용열차)』 監督: 서광제(徐光濟)
1938年 日本(植民地下朝鮮)映画

『発掘された過去』第2弾 DVD紹介
http://yohnishi.at.webry.info/200810/article_14.html

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