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zoom RSS 韓国映画『南部軍』 -チェ・ジンシルの映画女優出世作-

<<   作成日時 : 2008/10/06 00:10   >>

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画像 チェ・ジンシルつながりで韓国映画もう一本。こちらは1990年製作の映画『南部軍』である。一部のデータベースでは本作品がチェ・ジンシルの映画デビュー作とされている1)。第11回韓国青龍賞ではチェ・ジンシルが新人女優賞を取ったほか、本作品は監督賞、主演、助演男優賞も受賞している。いずれにせよ、それ以前には主にモデルとして活躍していたチェ・ジンシルの女優としての出世作になったことは間違いない。また本作品は、朴正煕以降初めて南朝鮮パルチザンを人間的に描いた作品として知られる(なお、50年代には『ピアゴル』といった作品も作られたが、朴正煕政権以降、パルチザンや北朝鮮の人物を人間的に描くことは禁じられた)。その意味では韓国における『悲情城市』的作品と位置づけられるだろう。
 この作品は、日本でも平凡社から翻訳が刊行されたイ・テ(李泰)の実録手記『南部軍』を映画化したもの。監督はベトナム戦争に派遣された韓国軍を描いた『ホワイトバッジ』などで知られるチョン・ジヨン。イ・テもチョン・ジヨンも忠清北道清州の出身。イ・テはソウルで通信社の記者をしていたが、その会社が北朝鮮人民軍に接収され、そのまま人民軍サイドで記者として全州で取材活動をしていた。しかしアメリカ軍の仁川上陸作戦に伴い、そのまま南側の取材を行う様指令を与えられ、南朝鮮労働党指揮下のパルチザンの拠点に入る。そのままパルチザンに編入され如粉(ヨブン)山から回文(フェムン)山、回文山から智異(チリ)山へと転々と転戦。最後に矢川(シチョン)面付近で国連軍側の捕虜となるが、その間の従軍手記が『南部軍』である。なお、映画の方は日本国内で上映された記録はない。
 また、この作品をご覧になる方は、できれば本作品を見る前にイム・グォンテクの『太白山脈』などを見て、朝鮮戦争当時の朝鮮半島情勢について頭に入れた上でご覧になることをお薦めしたい。

画像 映画は基本的には原作に忠実である。勿論全てのエピソードを網羅することは出来ないので、原作の主要なエピソードを拾って構成されている。登場人物も概ね原作通り実在の人物だが、ただチェ・ミンスが演じたキム・ヨンという人物は原作中複数の人物を構成して一人の人物に造形している。
 なお、チェ・ジンシルはこのなかでイ・テと恋仲になるパク・ミンジャという看護兵を演じている。実在のパク・ミンジャは原作によれば辺山半島地域の戦闘で戦死した様だ。

 ソウルの合同通信社に記者として勤務していたイ・テ(アン・ソンギ)は、社が人民軍に接収されそのまま朝鮮中央通信社の従軍記者となり全州に派遣されていた。しかし仁川に国連軍が上陸すると、直ちに全羅北道党支部の指示で、全羅北道パルチザンの山岳拠点だった如粉山へ派遣される。そこで日本軍に徴兵された経験のある彼は戦闘部隊に配属替えとなる。そこで初の戦闘経験を経たのち、白蓮山に転戦、さらに司令部本部部隊に配属替えとなり、司令部が移っていった回文山に移動する。
 そこで、イ・テは看護部隊隊員パク・ミンジャ(チェ・ジンシル)と出会い、共に戦闘経験を重ねる内に、互いに恋心を抱く様になる。彼女は元々大田(テジョン)の道立病院で看護婦をしていたが、兄が韓国軍に徴兵され戦死。戦死の知らせを受け遺品を受け取りにいって大田に戻ってみると、道立病院は北朝鮮人民軍に接収され、彼女はそのまま人民軍看護兵に編入されてしまう。いわば兄を殺した敵方の看護兵として働くという数奇な経歴の持ち主だった。彼女との出会いもつかの間、彼女は別の部隊に配属替えとなり、彼と別れることになる。
 さらに回文山周辺の淳昌郡周辺を転戦して回っている内に、司令部本部から召還される。実は彼は暗号解読要員として、通信部隊に配属になった元の同僚たちから呼ばれたのだ。そこで彼は通信部隊員として北朝鮮からの通信の暗号解読やパルチザン部隊内の新聞の編集発行に忙しいながらも充実した日々を送っていた。
 しかし1951年3月、国連軍・韓国軍の猛攻により司令部が回文山の撤収を決定。西側の海に近い辺山(ピョンサン)半島方面と東側の小白(ソベク)山方面に戦力を二分することを決定。パク・ミンジャの部隊は西側に、彼は東側に行くことになる。画像
 小白山中に逃れた彼らの部隊は別の恐ろしい敵と出会う。つまり疫病(回帰熱)である。薬さえあれば大したことのない疫病でも、北側と分断され物資補給のままならない彼らにとっては大きな脅威であり、ばたばたと仲間が死んでいくのであった。彼自身も回帰熱に罹り、生死を彷徨う状態になる。
 ようやく回帰熱から回復しかけた時期、南朝鮮労働党パルチザンの本部から「南部軍」に参加しないかとの誘いがやってきた。南部軍とはパルチザンの中でも南朝鮮労働党指導者のイ・ヒョンサン(李鉉相)が直接指揮する部隊で、勇猛果敢なことで知られていた。南部軍に参加すれば十分な補給が得られると聞いて、不十分な回復状態のまま彼は志願した。
 1951年6月、智異山前衛の南徳裕山で、イ・テは南部軍勝利師団に配属される。そして智異山を拠点に戦闘行動に参加する。ここで彼は、勇猛果敢な女兵士キム・ヒスク(イ・ヘヨン)とユスラウメ少年(ノ・ジャヒ)に出会う。やがて、イ・テは9月のピアゴルの大会で学歴を買われて政治局員に編入。しかしその年の冬、韓国軍は智異山に対してパルチザン討伐のために大攻勢に出る。雪と食糧・補給不足の中もはや勇猛果敢で知られた南部軍部隊も、なすすべもなく逃げ惑うしかすべがなかった。飢えと寒さと戦闘の中で次々と死に、あるいは脱落していくパルチザン兵士たち....

 ここで描かれるのは、同胞同士の際限なき殺し合いである。時に奇跡の様に国軍とパルチザンの間で人間らしい思いやりの交錯する瞬間もあった。そして友軍の中にあっても時にお互いの憎しみ合いが炸裂する瞬間があったり、無駄な死が繰り返されることもあった。そして「理念」の実現に向けて多大なエネルギーと命の犠牲が費やされたあげく、休戦協定後は、南に取り残され情報不足のまま北側の犠牲となるべく戦ったパルチザンの存在は全く顧みられることなく置き去りにされてしまったという虚しさ...

 因みに歴史的な背景について書くと、元々朝鮮半島の共産党運動は朝鮮共産党がソウルを拠点として指導していた。これにソ連の支援を受けた金日成一派が1945年朝鮮共産党北朝鮮分局を結成、さらに1946年北朝鮮労働党になると共に、南側もいくつかの左派政党を合併して南朝鮮労働党となる。1949年に南朝鮮労働党の朴憲永(パク・ホニョン)ら主要幹部が越北し、南北労働党が合併して朝鮮労働党を結成、南朝鮮労働党は南労党派となる。しかし、旧南朝鮮労働党の中には金日成一派を良しとしない人々もおり、南部軍を指導した李鉉相もその一人であった。
画像 南部軍の基本的な使命は、映画にも描かれている様に、南側から国連軍を攪乱することで北による統一の側面支援を行うということであったが、李鉉相のように最終的には南労党が朝鮮労働党の中でヘゲモニーを握って朝鮮半島における共産革命を達成することを夢見た人々も多かった。また国連軍の仁川攻撃以降、北側と南側の連絡は無線を通じた細々とした連絡以外はほぼ途絶え、南側は南側で独自判断により行動を行ってきた。
 これらの事情から、朝鮮戦争の休戦協定から南朝鮮パルチザンの存在は完全に忘れ去られると共に、1953年朴憲永ら旧南労党幹部は一斉に検束され、1950年代後半にかけて彼らの大半は粛正され、旧南労党や南朝鮮パルチザンの活動は朝鮮労働党の歴史から永久に葬り去られてしまった。しかし、小説『太白山脈』に見られる様に旧南労党幹部の粛正を、南朝鮮解放失敗の責任を取ったやむを得ない措置と見なした南側の左翼人士もいた様である。

 なお、DVDはスペクトラムDVDから発売されていたが、同社のテウォン・エンタテインメント吸収以後廃盤になっている模様。是非再発を希望したい。一部通販会社では在庫品があるようなのでまだ入手は可能だろう。

1)シネマコリアやKMDBなど。但しWikipedia日本版では1988年の『最後のソウル』が映画デビュー作だとされている(韓国版Wikipediaではその映画の記述なし)。但し『最後のソウル』なる映画がどのような映画なのかKMDBなどでは確認できない。

原題『남부군(南部軍)』英題『Nambugun』監督 정지영
1990年 韓国映画

DVD(韓国版)情報
販売: Spectrum DVD 画面: NTSC/16:9(1:1.85) 音声: Dolby2 韓国語 本編: 159分
リージョン3 字幕: なし 片面二層 2005年6月発行 希望価格W19900

筆者の『太白山脈』紹介ページ
http://yohnishi.at.webry.info/200807/article_11.html
チェ・ジンシル主演『マヨネーズ』映画評
http://yohnishi.at.webry.info/200810/article_4.html


南部軍―知られざる朝鮮戦争
平凡社
李 泰

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